子ども期の逆境体験が多い若者ほど、「子どもを持ちたくない」と考える傾向

2026年11月6日 公開

18~29歳の子どものいない若年成人4,222人を対象とした全国規模の調査から

ポイント

  • 全国規模のウェブ調査に参加した18~29歳の子どものいない若年成人4,222人を対象に、子ども期の逆境体験(ACEs)と、将来子どもを持つことについての意向との関連を分析しました。
  • 子どもを持つかどうかについての意思が明確な人では、ACEsの体験数が多いほど「子どもを持ちたくない」と考える割合が高く、3つ以上のACEsを体験した人では、体験していない人の1.74倍でした。
  • 子どもを持つかどうかは個人の自由な選択であることを前提に、本研究は、子どもを持つことについての意向には、子ども時代の環境や体験が関連する可能性を示しており、本人の価値観や選択を尊重しながら、個人の背景を踏まえて理解することの重要性を示唆しています。

概要

東京科学大学(Science Tokyo)医歯学総合研究科 公衆衛生学分野の藤原武男教授、宇賀神千春大学院生らの研究チームは、子ども期の逆境体験(ACEs)[用語1]が、若年成人の「子どもを持ちたくない」という意向と関連していることを明らかにしました。全国規模のウェブ調査に参加した18~29歳の子どもがいない若者4,222人を対象に分析した結果、子どもを持つかどうかについての意思が明確な人では、ACEsの体験数が多いほど「子どもを持ちたくない」と考える割合が高いことがわかりました。一方、将来子どもを持つことについての意向が明確でないことと、ACEsとの間には明確な関連は認められませんでした。

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子どもを持つかどうかは個人の自由な選択であり、本研究の結果は、特定の意向を変えるべきであることを意味するものではありません。一方、子どもを持つことについての意向には、現在の状況だけでなく、子ども時代の環境や体験など、個人の背景も関連している可能性があります。本研究は、こうした背景を踏まえて本人の意向を理解することの重要性を示唆しています。また、リプロダクティブ・ヘルス[用語2]に関する支援においても、本人の価値観や選択を尊重するとともに、本人が希望する場合には、それぞれの困りごとやニーズに応じた支援を受けられるようにするなど、個人の背景に配慮した視点が重要であると考えられます。

本研究成果は、9月7日(現地時間)付で国際学術誌「Reproductive Health」に掲載されました。

図1. ACEsの体験数と「子どもを持ちたくない」意向との関連(調整済みPR(Prevalence Ratio:有病割合比)[用語3])

背景

日本では出生率が急激に低下しています。若年成人の子どもを持つことについての意向は、将来実際に子どもを持つかどうかと関連するとされています。そのため、若年成人の子どもを持つ意向や、その形成に関わる背景を理解することは重要です。

子どもを持つ意向の形成には、さまざまな要因が関わるとされています。子ども期の逆境体験(ACEs)とは、子ども時代に体験する虐待や家庭内の問題、いじめなど、有害で苦痛を伴う体験を指します。ACEsは、成人期のメンタルヘルスや対人関係、育児に対する自信などと関連することが知られており、子どもを持つ意向にも影響する可能性があります。しかし、海外の先行研究では結果が一致しておらず、日本における子どものいない若年成人を対象とした研究も限られていました。

そこで本研究では、18~29歳の子どものいない若年成人を対象に、ACEsと子どもを持つ意向との関連を検討しました。

研究成果

本研究では、2023年に実施された全国規模のインターネット調査「Japan COVID-19 and Society Internet Survey(JACSIS 2023)[用語4]」のデータを用いて、18~29歳の子どものいない若年成人4,222人を対象に解析を行いました。

主な結果は以下の通りです。

  • 子どもを持つことについて、47.8%が「子どもを持ちたい」、23.0%が「子どもを持ちたくない」、29.2%が「将来子どもを持ちたいか分からない」と回答しました。
  • 「子どもを持ちたい」または「子どもを持ちたくない」と回答した2,989人を対象に解析した結果、ACEsの体験数が多いほど、「子どもを持ちたくない」と考える傾向が強いことが分かりました。年齢、性別、両親の学歴を調整した解析でも、3つ以上のACEsを体験した人では、ACEsを体験していない人と比較して、「子どもを持ちたくない」と考える割合が1.74倍でした(95%信頼区間:1.54~1.96)。また、ACEsの体験数が増えるほど、その関連が強くなる傾向が認められました。
  • 一方、ACEsの体験数と、子どもを持つことについての意向が不確かであることとの間には、明確な関連は認められませんでした。

社会的インパクト

子どもを持つことについての意向には、経済状況やパートナーシップなどの現在の状況だけでなく、過去の環境や体験も関連している可能性があります。本研究は、若者の「子どもを持ちたい/持ちたくない」という意向を単なる個人の選好として捉えるのではなく、その人の背景も踏まえて理解することの重要性を示唆しています。

その際、特定の意向へと誘導するのではなく、本人の価値観や選択を尊重することが重要です。また、リプロダクティブ・ヘルスに関する支援においても、本人の体験やニーズに配慮した視点を取り入れることが求められます。

今後の展開

今後は、縦断研究を通じて、ACEsと子どもを持つ意向との時間的な関係を確認するとともに、両者の関連にどのような心理的・社会的要因が関わっているのかを明らかにすることが重要です。さらに、ACEsの種類や体験した時期、文化的背景によって、両者の関連がどのように異なるのかについても検討していく必要があります。

付記

本研究で用いたJACSIS調査は、日本学術振興会科学研究費助成事業(JP21H04856、JP23H03160、JP22H03225、JP23K18370、JP23K16245、JP22K02116、JP23K07492)、こども家庭庁事業(JPCA24DA1234)、国立環境研究所所内研究費、厚生労働科学研究費(22JA1005、23EA1001、23FA1004)、および東京財団政策研究所の研究プログラム「Using Health Metrics to Monitor and Evaluate the Impact of Health Policies」の支援を受けて実施されました。

参考文献

[参考文献1]
Nettle D, Coall DA, Dickins TE: Birthweight and paternal involvement predict early reproduction in British women: evidence from the National Child Development Study. Am J Hum Biol 2010, 22:172-179.
[参考文献2]
Felitti VJ, Anda RF, Nordenberg D, Williamson DF, Spitz AM, Edwards V, Koss MP, Marks JS: Relationship of childhood abuse and household dysfunction to many of the leading causes of death in adults. The Adverse Childhood Experiences (ACE) Study. Am J Prev Med 1998, 14:245-258.
[参考文献3]
Lee J, Kim SG, Youn H, Lee SI: Childhood Emotional Abuse Is Associated With the Desire to Get Married and Have Children in Korean Young Adults. Psychiatry Investig 2021, 18:1117-1124.
[参考文献4]
Flaviano M, Harville EW: Adverse Childhood Experiences on Reproductive Plans and Adolescent Pregnancy in the Gulf Resilience on Women's Health Cohort. Int J Environ Res Public Health 2020, 18.
[参考文献5]
Kanamori Y, Miyamoto Y, Sawada U, Iida M, Tabuchi T, Nishi D: Association between adverse childhood experience and unintended pregnancy among Japanese women: a large-scale cross-sectional study. J Psychosom Obstet Gynaecol 2023, 44:2274295.

用語説明

[用語1]
子ども期の逆境体験(ACEs):虐待やネグレクト(養育放棄)、家庭内の問題、いじめなど、子ども時代に体験する有害で苦痛を伴う出来事のこと。
[用語2]
リプロダクティブ・ヘルス:生殖に関する身体的・精神的・社会的な健康を幅広く捉える概念。子どもを持つかどうか、いつ持つかなどについて、自らの意志で決定できることも含まれる。
[用語3]
PR(Prevalence Ratio:有病割合比):ある結果がみられる人の割合について、基準となるグループと比較した比率。PRが1より大きい場合は、基準となるグループよりも、その結果がみられる割合が高いことを示す。
[用語4]
Japan COVID-19 and Society Internet Survey(JACSIS 2023):2023年9月から11月にかけて実施された全国規模のインターネット調査。

論文情報

掲載誌:
Reproductive Health
タイトル:
Association between adverse childhood experiences and fertility intention among Japanese youth: a nationwide cross-sectional study
著者:
Chiharu Ugajin, Shuhei Terada, Takahiro Tabuchi, Takeo Fujiwara

研究者プロフィール

宇賀神 千春 Chiharu Ugajin

東京科学大学 医歯学総合研究科 公衆衛生学分野 大学院生
研究分野:公衆衛生学、fertility intention(子どもをもつ意向)、教育虐待

藤原 武男 Takeo Fujiwara

東京科学大学 医歯学総合研究科 公衆衛生学分野 教授
研究分野:社会疫学、公衆衛生学

Takeo Fujiwara

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