ポイント
- 東京都足立区の小学1年生2,609人を分析し、未就学期の読み聞かせを長く続けた子どもほど、心理・社会的な成長、読書習慣が良好であることを明らかにしました。
- 読み聞かせは「早く始めること」よりも「長く続けること」の方が、子どもの心の育ちや行動、読書習慣と強く関連していました。
- 読み聞かせは無理なく継続できるよう家庭や地域が支えることの重要性を示す成果であり、子育て支援や乳幼児健診などへの活用が期待されます。
概要
東京科学大学(Science Tokyo)医歯学総合研究科 公衆衛生学分野の藤原武男教授と寺田周平助教らの研究チームは、未就学期における親子の読み聞かせが、小学生になった時点での心理・社会的な成長や読書習慣とどのように関連しているかを調べました。
東京都足立区の公立小学校全67校に通う小学1年生2,609人を分析した結果、0歳から5歳まで週1回以上読み聞かせを受けていた子どもは、読み聞かせをまったく受けていなかった子どもと比べて、レジリエンス[用語1]、向社会的行動[用語2]、読書習慣が良好であり、問題行動[用語3]が少ない傾向にありました。また、読み聞かせを続けた年数が長いほど、これらの指標は全体として良好な傾向を示しました。
これまで、読み聞かせは主に子どもの言語発達との関連について研究されてきました。一方、小学生の心理・社会的な成長との関連を地域全体の子どもを対象として調べた研究や、「何歳から始めるか」と「何年間続けるか」を同時に検討した研究は限られていました。
本研究では、読み聞かせを続けた年数をそろえて開始年齢を比較したところ、何歳から始めたかによる明確な違いは認められませんでした。一方、開始年齢をそろえて比較すると、長く続けた子どもほど良好な傾向が認められました。これらの結果から、読み聞かせは開始時期の早さよりも、継続することの方が、子どもの心理・社会的な成長、読書習慣とより一貫して関連している可能性が示されました。
読み聞かせでは、本を通して言葉を交わすだけでなく、親子が一緒に過ごし、温かな関わりを繰り返し積み重ねます。こうした関わりが、今回の結果に影響している可能性があります。ただし、本研究は一時点で実施した観察研究であるため、読み聞かせによって子どもの心や行動が変化したと結論付けることはできません。研究チームは今後、この子どもたちを追跡し、より長期的な関連を明らかにする予定です。
本成果は、8月25日付(現地時間)の「Pediatric Research 」オンライン版に掲載されました。
背景
子どもが複雑で変化の大きい社会を生きていくためには、学ぶ力に加え、非認知能力と呼ばれる、人と関わる力やストレスに対処する力などを育むことが重要です。こうした力の発達には、乳幼児期の安定した養育環境や、言葉を介した豊かな親子の関わりが重要であるとされています。
親子の読み聞かせは、そのような関わりの1つとして注目されており、これまで主に子どもの言語発達との関連が報告されてきました[参考文献1]。しかし、これまでの研究には、低所得世帯など特定の家庭を対象としたものや、読み聞かせに他の子育て支援を組み合わせた介入研究が多く、読み聞かせそのものとの関連を切り分けて評価しにくいという課題がありました[参考文献2]。
また、小学生になった時点でのレジリエンスや問題行動、向社会的行動、読書習慣との関連を、地域全体の子どもを対象として調べた研究は限られていました。さらに、「何歳から読み聞かせを始めるか」と「何年間続けるか」のどちらがより重要なのかについても、十分には明らかになっていませんでした。
研究成果
研究チームは、東京都足立区が実施した「子どもの健康・生活実態調査」のデータを用いて、区内の公立小学校全67校に通う小学1年生(6~7歳)2,609人を対象に分析しました。
保護者に対し、子どもが0歳から5歳までの各年齢において、週1回以上読み聞かせをしていたかを尋ね、その回答を基に「読み聞かせを始めた年齢」と「読み聞かせを行った年数」を算出しました。分析では、保護者の年齢や学歴、世帯収入、家族構成など、読み聞かせと子どもの育ちの双方に関係し得る要因を考慮しました。
その結果、0歳から読み聞かせを受けていた子どもは、まったく受けていなかった子どもと比べて、レジリエンス、向社会的行動、読書習慣の得点が高く、問題行動の得点が低い傾向にありました(図1)。また、読み聞かせを行った年数が長いほど、これらの指標は全体として良好な傾向を示し、0歳から5歳までの6年間継続していた子どもで最も良好な傾向が認められました(図2)。
さらに、読み聞かせを行った年数をそろえて(例:3年間)開始年齢を比較したところ、開始年齢による明確な違いは認められませんでした。一方、開始年齢をそろえて(例:0歳)比較すると、読み聞かせを長く続けた子どもほど良好な傾向が認められました。これらの結果から、読み聞かせは早く始めることよりも、長く継続することの方が、子どもの各指標とより一貫して関連していることが示されました。
また、一緒に遊ぶ、料理をする、学校での出来事について話す、外出するといった、読み聞かせ以外の親子の関わりを考慮した後も、レジリエンス、問題行動、読書習慣との関連は弱まりながらも維持されました。このことから、読み聞かせは、他の親子活動だけでは十分に捉えられない親子の関わりを反映している可能性があります。一方、向社会的行動との関連は、他の親子の関わりを考慮すると明確ではなくなりました。
社会的インパクト
読み聞かせは、日常生活の中に比較的取り入れやすい親子の関わりの1つです。本研究では、乳幼児期に読み聞かせを継続していたことが、小学生になった時点でのレジリエンス、問題行動、向社会的行動、読書習慣と関連していました。
特に注目されるのは、読み聞かせを「早く始めること」よりも「長く続けること」の方が、子どもの各指標とより一貫して関連していた点です。また、乳児期以降に読み聞かせを始めた子どもでも、まったく読み聞かせを受けていなかった子どもと比べて良好な傾向が認められました。これらの結果は、開始時期だけにこだわるのではなく、それぞれの家庭が無理のない形で読み聞かせを継続することの重要性を示しています。
一方で、仕事や家事・育児の負担、保護者の疲労や心身の不調などにより、読み聞かせを続けることが難しい家庭もあります。そのため、家庭の努力だけに委ねるのではなく、乳幼児健診や小児科、保育所・幼稚園などで読み聞かせを話題にし、それぞれの家庭の状況に応じた無理のない方法を一緒に考えることが重要です。さらに、地域や教育・保健の現場で読み聞かせを支える取り組みも、その継続を後押しする可能性があります[参考文献3]。
今後の展開
本研究は一時点で実施した観察研究であり、0歳から5歳までの読み聞かせについて、保護者が後から思い出して回答した情報に基づいています。そのため、読み聞かせが子どもの心や行動、読書習慣を良好にしたと結論づけることはできません。もともとの子どもの性格や行動が、家庭で読み聞かせを継続しやすいかどうかに影響していた可能性もあります。また、本調査に回答した家庭には、保護者の学歴や世帯収入が比較的高い層が多く含まれていたため、今回の結果をすべての地域や家庭にそのまま当てはめられるとは限りません。
研究チームは、この子どもたちを対象とした追跡調査を進めており、今後は読み聞かせと子どもの心の育ち、行動、読書習慣との長期的な関連について検討する予定です。
付記
本研究は、日本学術振興会(JSPS)科学研究費助成事業(科研費)JP21H04848、JP21K18294、JP22H04930、および国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)社会技術研究開発センター(RISTEX)JPMJRS24K2の支援を受けて実施されました。
参考文献
- [参考文献1]
- Dowdall, N. et al. Shared picture book reading interventions for child language development: a systematic review and meta-analysis. Child Dev. 91, e383–e399 (2020).
- [参考文献2]
- Mendelsohn, A. L. et al. Reading aloud, play, and social-emotional development. Pediatrics 141 (2018).
- [参考文献3]
- Schapira, R. & Grazzani, I. Shared book reading and promoting social and emotional competences in educational settings: a narrative review. Front. Psychol. 16, 1622536 (2025).
用語説明
- [用語1]
- レジリエンス:困難やストレスに直面した際に、適切に対処し、立ち直る力のこと。本研究では、保護者が子どもの様子について回答する「子どものレジリエントコーピング尺度(CRCS)」(8項目)を用いて評価した。
- [用語2]
- 向社会的行動:人に優しくする、困っている人を助ける、自ら進んで分け合うなど、他者のためになる行動のこと。本研究では、後述する「子どもの強さと困難さアンケート(SDQ)」に含まれる向社会的行動の5項目を用いて評価した。
- [用語3]
- 問題行動:落ち着きのなさや不注意、友人関係の問題、感情面の問題、行動上の問題を総合した指標。得点が高いほど、行動面の困難が大きいことを示す。本研究では、「子どもの強さと困難さアンケート(SDQ)」日本語版を用いて評価した。SDQは25項目からなる質問紙で、子どもの行動や情緒を評価するために世界各国で広く用いられている。
論文情報
- 掲載誌:
- Pediatric Research
- タイトル:
- Timing and duration of early-childhood shared reading and resilience, behavior problems, and reading habits
- 著者:
- Shuhei Terada, Yui Yamaoka, Aya Isumi, Takeo Fujiwara
研究者プロフィール
藤原 武男 Takeo Fujiwara
東京科学大学 医歯学総合研究科 公衆衛生学分野 教授
研究分野:社会疫学、公衆衛生学
寺田 周平 Shuhei Terada
東京科学大学 医歯学総合研究科 公衆衛生学分野 助教
研究分野:公衆衛生学、産婦人科学