長時間の農作業と高齢者の認知機能低下の少なさとの関連を確認

2026年10月26日 公開

新潟県十日町市の高齢者447人を対象に農作業時間と認知機能・脳容積を調査

ポイント

  • 新潟県十日町市の65~84歳の高齢者447人を対象に、農作業時間と認知機能および脳容積との関連を調べました。
  • 年齢、性別、教育歴、身体活動量などの影響を統計的に調整した結果、週21時間を超えて農作業を行う群では、農作業を行わない群と比べて、認知機能低下(MMSE-J 23点以下)に該当するオッズが低いことが示されました。
  • 一方、認知機能検査の得点(連続値)や脳容積と農作業時間との間には有意な関連は認められず、本研究から農作業による認知機能低下の予防効果を結論づけることはできません。

概要

東京科学大学(Science Tokyo)医歯学総合研究科 公衆衛生学分野の藤原武男教授、未来社会創成研究院の菖蒲川由郷教授、東京都地域医療政策学講座の後藤夕輝助教らの研究チームは、新潟県十日町市の地域在住高齢者447人を対象に、週当たりの農作業時間と、認知機能および認知症との関連が報告されている脳容積指標(総灰白質、扁桃体、海馬の容積)との関係を解析しました。その結果、週21時間を超えて農作業を行う人では、農作業を行わない人と比べて、認知機能低下(日本版Mini-Mental State Examination(MMSE-J)[用語1]23点以下)に該当するオッズが低いことが示されました(調整オッズ比[用語2]、0.21、95%信頼区間:0.05~0.93)。

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一方、認知機能検査の得点を連続値として解析した場合には、農作業時間との間に有意な関連は認められませんでした。また、脳容積と農作業時間との間にも有意な関連は認められませんでした。本研究は一時点のデータを用いた横断研究[用語3]であり、農作業による認知機能の維持や認知症予防の効果を示すものではありません。本成果は、農作業と認知機能との関係について、今後のさらなる検証につながる探索的な所見です。

本研究成果は、9月26日付(現地時間)に「Aging Clinical and Experimental Research」誌に掲載されました。

背景

高齢化が進む農村地域では、認知機能の維持に関わる生活環境や就労環境を明らかにすることが重要です。農作業には、身体を動かすことに加え、作業の計画や周囲の人との交流など、認知機能に関わるさまざまな要素が含まれています。

一方、農作業への従事と認知機能の関係については、先行研究の結果が一致していません。米国では、最も長く従事した職業が農林漁業である人では認知症の割合が高いという報告[参考文献1]がある一方、日本では、畑仕事や園芸に取り組む人では認知症の発症が少ないという報告[参考文献2]があります。

そこで研究チームは、NEIGE研究[用語4][参考文献3]のデータを用いて、農作業時間と認知機能との関連に加え、脳MRIで測定した脳の構造との関連についても調べました。

研究成果

本研究では、2017年9~10月に実施したNEIGE研究の調査データを用いて、新潟県十日町市に在住する65~84歳の447人を解析しました。調査前1カ月間の農作業時間を尋ね、週当たりの農作業時間に基づいて、農作業なし(180人)、週9時間未満(88人)、週9~21時間(91人)、週21時間超(88人)の4群に分けました。認知機能は日本版Mini-Mental State Examination(MMSE-J)で評価し、本研究では23点以下を「認知機能低下」と定義しました。

年齢、性別、居住地域、身体活動量、15歳時の経済的困窮、教育歴、調査時点の就業状況の違いを統計的に調整した解析では、週21時間超群は、農作業なし群と比べて、認知機能低下に該当するオッズが低いことと関連していました(調整オッズ比0.21、95%信頼区間:0.05~0.93)。一方、週9時間未満群および週9~21時間群では、有意な関連は認められませんでした(表1)。

表1. 農作業時間と認知機能低下の関連(主解析)
週当たりの農作業時間 対象者数 認知機能低下あり 調整オッズ比
(95%信頼区間)
なし 180人 16人(8.9%) 1.00(基準)
9時間未満 88人 8人(9.1%) 0.61(0.20–1.79)
9~21時間 91人 10人(11.0%) 0.87(0.30–2.51)
21時間超 88人 3人(3.4%) 0.21(0.05–0.93)

さらに、逆確率重み付け法[用語5]を用いた追加解析でも、同じ方向の関連が認められました。背景要因を調整し、解析対象者全員がそれぞれの農作業時間群に属すると仮定した場合、認知機能低下の推定確率は、農作業なし群で6.5%、週21時間超群で1.9%でした。その差は-4.6パーセントポイント(95%信頼区間:-8.8~-0.4)でした(図1)。

図1. 農作業時間別にみた認知機能低下の推定確率と農作業なし群との差

一方、認知機能検査の得点を連続値として解析した場合には、農作業時間との間に有意な関連は認められませんでした。また、総灰白質、扁桃体、海馬の容積と農作業時間との間にも有意な関連は認められず、農作業時間が長いほど認知機能が段階的に良好になるという関係も確認されませんでした。認知機能低下の該当した人は全体で37人(8.3%)であり、週21時間超群では88人中3人と少なかったことから、この群の推定値には大きな不確実性があります。

社会的インパクト

農作業は、農村地域の高齢者にとって、生業や自家消費のための食料生産に加え、日々の役割を担い、人とのつながりを持つ機会にもなり得ます。本研究は、こうした地域の暮らしに根ざした活動に着目し、高齢者の認知機能を生活や働き方との関係から捉えることの重要性を示すものです。

今後、農作業と認知機能との関連の背景にある要因が明らかになれば、農作業に含まれる身体活動、作業に伴う計画や判断、他者との交流などの要素を、地域の健康づくりに生かせる可能性があります。また、高齢者を支援の受け手としてだけでなく、地域で役割を担う存在として捉え、一人ひとりの体力や希望に応じて活動を続けられる環境づくりを考えるうえでも、本研究の成果が手がかりとなることが期待されます。

今後の展開

今後は、同じ人の農作業時間と認知機能を継続的に追跡する縦断研究により、両者の時間的な前後関係を明らかにする必要があります。また、認知機能や身体機能が良好な人ほど農作業を続けやすいという逆向きの関係(逆因果)の可能性を検討するとともに、より多くの対象者を対象とした研究で、今回認められた関連が再現されるかを確認することが重要です。

さらに、農作業の内容や強度、農薬の使用状況、季節による作業時間の変動などを詳しく把握することも必要です。位置情報を記録するGPSや活動量計を用いた客観的な評価を組み合わせるとともに、農業形態や生活環境が異なる地域でも検証を進める必要があります。

こうした検証を重ね、将来的には介入研究を通じて、農作業に含まれる身体活動、認知的な刺激、社会的交流などの要素が、認知機能にどのように関わるのかを明らかにすることが期待されます。

付記

本研究は、農林水産省農林水産政策研究所、公益財団法人ファイザーヘルスリサーチ振興財団、および日本学術振興会(JSPS)科学研究費助成事業(科研費)JP16H03249、JP17K19794、JP18K10829、JP19H03910、JP19K10639、JP20K19580、JP22K20599の支援を受けて実施されました。

参考文献

[参考文献1]
Arora K, Xu L, Bhagianadh D. Dementia and Cognitive Decline in Older Adulthood: Are Agricultural Workers at Greater Risk? The Journals of Gerontology: Series B, Psychological Sciences and Social Sciences. 2021;76(8):1629–1643. DOI: 10.1093/geronb/gbab005
[参考文献2]
Shimada H, Makizako H, Lee S, Doi T, Lee S. Lifestyle activities and the risk of dementia in older Japanese adults. Geriatrics & Gerontology International. 2018;18(10):1491–1496. DOI: 10.1111/ggi.13504
[参考文献3]
Shobugawa Y, Murayama H, Fujiwara T, Inoue S. Cohort Profile of the NEIGE Study in Tokamachi City, Japan. Journal of Epidemiology. 2020;30(7):281–287. DOI: 10.2188/jea.JE20190036

用語説明

[用語1]
日本版Mini-Mental State Examination(MMSE-J):全般的な認知機能を評価する検査の日本版。11項目、30点満点で、得点が低いほど認知機能が低いことを示す。得点は年齢や教育歴などの影響を受ける。本研究では、調査時点の得点が23点以下の場合を「認知機能低下」と定義した。ただし、認知症の診断や、時間の経過に伴う認知機能の低下を示すものではない。
[用語2]
調整オッズ比:オッズは、ある出来事が起こる確率を、起こらない確率で割った値。オッズ比は2群のオッズの比で、1より小さいほど、基準群と比べてその出来事が起こるオッズが低いことを示す。調整オッズ比は、年齢や性別など、群間で異なる背景要因の影響を統計的に調整した値。
[用語3]
横断研究:ある時点における要因(本研究では農作業時間)と結果(認知機能)との関連を調べる研究方法。要因と結果のどちらが先に生じたかを判断できないため、因果関係を結論づけることはできない。
[用語4]
NEIGE研究:正式名称は Neuron to Environmental Impact across Generations Study。新潟県十日町市の地域在住高齢者を対象に、生活環境や社会的要因と健康との関連を調べるため、2017年に開始されたコホート研究。
[用語5]
逆確率重み付け法:群ごとに異なる背景要因の偏りを統計的に調整する手法。各参加者が実際に属する群に入る確率(傾向スコア)を推定し、その逆数で重み付けすることで、解析対象者全員がそれぞれの群に属したと仮定した場合の結果を推定する。ただし、測定していない要因の影響を取り除くことはできず、本研究でも、重み付け後に一部の偏りが残っている可能性がある。

論文情報

掲載誌:
Aging Clinical and Experimental Research
タイトル:
The Association Between Farming, Cognitive Function, and Regional Brain Volumes in Older Adults: Results from the NEIGE Cohort
著者:
Yuki Goto, Takeo Fujiwara, Ayako Morita, Hiroshi Murayama, Masaki Machida, Shigeru Inoue, Yugo Shobugawa

研究者プロフィール

後藤 夕輝 Yuki Goto

東京科学大学 医歯学総合研究科 東京都地域医療政策学講座 助教
研究分野:公衆衛生学、医療政策学、老年内科、呼吸器内科

後藤 夕輝 Yuki Goto

藤原 武男 Takeo Fujiwara

東京科学大学 医歯学総合研究科 公衆衛生学分野 教授
研究分野:公衆衛生学、疫学(社会疫学、ライフコース疫学)

藤原 武男 Takeo Fujiwara

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