子どものむし歯、新たな発生の80%以上は「むし歯経験なし」の子どもから

2026年9月30日 公開

集団全体を対象としたむし歯予防の重要性を示唆

ポイント

  • むし歯の経験がある子どもや所得水準が低い子どもでは、その後のむし歯の発生リスクが高いことが分かりました。
  • 一方、所得水準にかかわらず、新たに発生したむし歯の80%以上は、それまでむし歯の経験がなかった大多数の子どもに認められました。
  • 子どものむし歯の予防には、高リスクの子どもへの対策だけでなく、低リスクの子どもを含む集団全体を対象としたポピュレーションアプローチも重要である可能性が示されました。

概要

東京科学大学(Science Tokyo) 医歯学総合研究科 歯科公衆衛生学分野の相田潤教授、公衆衛生学分野の藤原武男教授らの研究グループは、足立区の小学生3,321人を対象に、むし歯の経験数や所得水準別に、むし歯の発生数の分布および発生リスクを検証しました。

むし歯の発生を4年間追跡した結果、所得水準が低い集団や、むし歯の経験がある集団では、むし歯の発生リスクが高い傾向がみられました。一方、発生したむし歯の80%以上は、むし歯の経験がない大多数の子どもから生じており、この傾向は所得水準にかかわらず認められました。

イメージ画像

本研究により、むし歯の予防には、特定の高リスク集団だけでなく、集団全体を対象としたポピュレーションアプローチが有効である可能性が示されました。

本研究成果は、2026年6月27日に国際学術誌「Journal of Dentistry」にオンラインで先行公開されました。

背景

ポピュレーションアプローチとは、病気の大部分が一部の高リスク集団からではなく、大多数を占める低リスク集団から発生するという考え方に基づき、集団全体を対象とした対策によって、集団全体の健康状態を改善することを目指すものです。

これまで、むし歯のリスクが高い子どもと低い子どもで、永久歯のむし歯がどのように発生するのか、また、その傾向が社会経済状況によってどのように異なるのかは、十分に明らかになっていませんでした。

そこで本研究では、むし歯の経験や所得水準が異なる集団を比較し、子どもにおけるむし歯の発生数の分布と発生リスクを検討しました。

研究成果

本研究では、足立区の小学生を対象としたAdachi Child Health Impact of Living Difficulty (A-CHILD)研究のデータを用いて解析を行いました。小学生3,321人について、2016年(小学2年生)から2020年(小学6年生)までのむし歯の発生を追跡し、2016年時点でのむし歯の本数(むし歯の経験)および所得水準との関連を調べました。むし歯の経験数は0本、1本、2本以上の3群に、所得水準も3群に分けました。解析には負の二項回帰分析を用い、性別で調整しました。

表. むし歯の発生とむし歯の経験および所得との関連:むし歯の発生リスクは、ベースライン時点でむし歯が多い小学生や低所得群で高い
むし歯の経験 発生率比(95% 信頼区間)*
0本 1 (Ref.)
1本 2.08 (1.47-2.93)
2本 2.52 (1.57-4.06)
所得 発生率比(95% 信頼区間)*
高所得群 1 (Ref.)
中所得群 1.06 (0.84-1.33)
低所得群 1.44 (1.14-1.81)

* 調整済みの負の二項回帰分析の結果

分析の結果、むし歯の経験がある小学生の割合は、低所得群で7.5%、中所得群で6.2%、高所得群で5.8%でした。また、低所得群では高所得群と比べて、むし歯の発生リスクが1.44倍(95%信頼区間:1.14-1.81)高く、2本以上のむし歯の経験がある集団では、むし歯の経験がない集団と比べて、発生リスクが2.52倍(95%信頼区間:1.57-4.06)高いことが分かりました。

一方、どの所得群においても、新たに発生したむし歯の80%以上は、大多数を占める、むし歯の経験がない子どもから発生していました。

図. それぞれの所得群におけるむし歯の経験本数ごとのむし歯の発生本数:むし歯の発生本数は、ベースライン時点でむし歯経験がなかった小学生が大多数を占める(人数が多いため)
*調整済みの負の二項回帰分析から算出。エラーバーは95%信頼区間。

社会的インパクト

小学生におけるむし歯の発生リスクは、むし歯の経験がある集団や所得水準が低い集団で高い傾向がみられました。一方、所得水準にかかわらず、新たに発生したむし歯の多くは、それまでむし歯の経験がなかった大多数の子どもに認められました。

このことから、小学生のむし歯を予防するためには、高リスクの集団への重点的な介入だけでなく、低リスクの子どもを含む集団全体を対象としたポピュレーションアプローチも重要である可能性が示されました。

今後の展開

今後は、むし歯のある人の割合や年齢構成が異なる集団において、むし歯の発生数や発生リスクを調査・比較をすることで、どのような予防対策が有効であるかを、より詳細に検討することが期待されます。

論文情報

掲載誌:
Journal of Dentistry
タイトル:
Evaluation of caries incidence and caries risk among elementary school children in Japan: results from A-CHILD longitudinal study
著者:
Satomi Shimada, Jun Aida, Aya Isumi, Takeo Fujiwara

研究者プロフィール

相田 潤 Jun Aida

東京科学大学 医歯学総合研究科 歯科公衆衛生学分野 教授
研究分野:疫学、歯科公衆衛生学

藤原 武男 Takeo Fujiwara

東京科学大学 医歯学総合研究科 公衆衛生学分野 教授
研究分野:社会疫学、予防医学

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東京科学大学 医歯学総合研究科 歯科公衆衛生学分野
教授 相田 潤

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