ポイント
- 日本の小学生と保護者約3,600組を2年間追跡調査した結果、保護者の調理技術が高いほど、子どものレジリエンスや向社会的行動が高いことを明らかにしました。
- この関連は、野菜摂取や親子での調理などの食習慣に加え、親子の会話や家族のつながりによっても説明されることが分かりました。
- 保護者の調理技術を高める支援や家庭で料理に取り組みやすい環境づくりが、子どもの健やかな心の成長につながる可能性が示されました。
概要
東京科学大学(Science Tokyo)医歯学総合研究科 公衆衛生学分野の谷友香子准教授らの研究チームは、保護者の調理技術が子どもの心の発達とどのように関係しているかを調べました。
日本の小学4年生とその保護者約3,641組を2年間追跡調査した結果、保護者の調理技術が高いほど、2年後の子どもの困難にうまく対処する力(=レジリエンス)や、人にやさしく接する行動(向社会的行動)が高いことが分かりました。
また、保護者の調理技術が高い群では、子どもの野菜摂取頻度や親子で一緒に料理する頻度、学校生活について親子で会話する頻度なども高く、これらの要因がレジリエンスや向社会的行動との関連の一部を説明していました。
本研究により、保護者の調理技術は、家族のつながりや健康的な食習慣を通じて、子どもの精神的発達に良い影響を与える可能性が示されました。
本研究成果は、5月1日付(現地時間)の国際学術誌「BMC Psychology」に掲載されました。
背景
思春期は多くの精神的問題が生じ始める時期であり、将来の健康やWell-beingのためには、レジリエンス(困難に適応する力)や向社会的行動(他者を思いやる行動)を育むことが重要です。これらは個人の性質だけでなく、家庭環境からも大きな影響を受けることが知られており、特に家族のつながりや親子の関わり、家庭内の生活習慣が重要と考えられています。
思春期初期の子どもたちにとって、食事の時間は家族の交流の中心であり、親子が一緒に過ごす時間の中でも大きな割合を占めることが分かっています。家庭での調理や食事の時間は、協力や思いやり、感情のコントロールなどを学ぶ機会となるだけでなく、親子のコミュニケーションや家族の絆を深める役割を果たす可能性があります。また、調理技術が高い保護者は、安定した食事環境を提供したり、子どもに調理を教えたりすることを通じて、子どもの心の成長に良い影響を与える可能性があります。
そこで本研究では、保護者の調理技術と子どものレジリエンスおよび向社会的行動との関連を明らかにすることを目的としました。
研究成果
足立区内の小学4年生とその保護者約3,641組を対象に、小学6年生まで2年間の追跡調査を行いました。保護者の調理技術は、信頼性が確認されている5項目の調理技術尺度を用いて、子どもが4年生の時点で評価しました。5項目の平均値を算出し、参加者を調理技術のレベルに応じて4つのグループに分けました。
子どものレジリエンスと向社会的行動は、確立された尺度を用いて評価しました。4年生および6年生時点でのレジリエンスは8項目の尺度(0~32点)、向社会的行動は5項目の尺度を用いて、保護者が評価しました。いずれも得点を100点満点に換算し、数値が高いほどレジリエンスまたは向社会的行動が高いことを示します。
また、保護者の調理技術が子どものレジリエンスや向社会的行動の発達にどのように関係するかを理解するため、(1)食に関する習慣、(2)親子の関わり、(3)家族のつながりがその関連を説明するかどうかを検証しました。食に関する習慣として、子どもの野菜摂取や朝食の頻度、家庭での調理頻度、親子で調理や外出をする頻度を評価しました。親子の関わりについては、学校生活やニュース、テレビなどについて会話する頻度を評価しました。家族のつながりについては、家族の協力関係や信頼感などを測る7項目の尺度で評価しました。
保護者の調理技術と子どものレジリエンスおよび向社会的行動との関連は、子どもの性別、同居状況、世帯収入、保護者の属性、保護者のK6(心理的ストレス指標)、母親の就業状況、父親の年齢・学歴・就業状況の影響を調整した多変量線形回帰分析で検討しました。さらに、調理技術がどのような経路で影響を与えるかを調べるため、(1)食に関する習慣、(2)親子の関わり、(3)家族のつながりがその関連をどの程度説明しうるかについて、媒介分析を用いて検討しました。
その結果、保護者の調理技術が高いほど、子どものレジリエンスおよび向社会的行動が高いことが明らかになりました。保護者の調理技術が最も低い群の子どもと比べて、最も高い群の子どもでは、6年生時点のレジリエンスが8.8点、向社会的行動のスコアが9.5点、有意に高い結果となりました(図1)。
調整した項目:子どもの性別、両親&祖父母との同居状況、収入、保護者の属性、保護者のメンタルヘルス、母親就労状況、父親の年齢、教育歴、就労状況
媒介分析の結果、保護者の調理技術と子どものレジリエンスとの関連は、子どもの野菜摂取などの食習慣、学校生活についての親子の会話、家族のつながりによって、一部説明できる可能性が示されました。向社会的行動についても同様に、親子で調理をする頻度などの食習慣、親子の会話、家族のつながりが関連の一部を説明している可能性が示されました。
これらの結果から、保護者の調理技術は、家庭内の食習慣や親子関係、家族のつながりを通じて、子どもの心の発達に良い影響を及ぼしている可能性が示されました。
社会的インパクト
本研究は、保護者の調理技術が子どもの心の発達に関連し、レジリエンスや向社会的行動の向上につながる可能性を示しました。特に、食習慣や親子の会話、家族のつながりを介した影響が示されており、保護者が適切な調理技術を身につけることが、子どもの健全な成長を支える重要な役割を果たす可能性が示唆されました。
今後、保護者の調理技術の向上を支援することで、子どもの健やかな成長を促進できる可能性があります。また、子どもをもつ保護者が適切な調理技術を習得できる環境を整備することは、次世代の健全で前向きな心の発達に貢献すると期待されます。
今後の展開
今後は、保護者の調理技術の向上が子どもの精神的発達に与える因果関係を検証するとともに、保護者向けの料理教育プログラムの効果を評価する必要があります。また、食事、親子関係、家族機能への影響を踏まえた介入方法を開発し、学校や地域と連携した実践的な支援策へ応用していくことが期待されます。
付記
本研究は、厚生労働省科学研究費補助金(H27-循環器等-一般-002、H29-政策-指定-004)、自殺対策に関する革新的研究プログラム、日本学術振興会科学研究費助成事業(JSPS科研費)(16H03276、16K21669、17J05974、17K13245、19H04879、19K20109、19K19309、19K14029、19K19310、19J01614、19K14172、21H04848、21K18294、22K10578)、ひと・健康・未来研究財団の助成を受けて実施されました。
論文情報
- 掲載誌:
- BMC Psychology
- タイトル:
- Do caregiver cooking skills boost adolescent resilience and prosocial behavior? Results from a population-based longitudinal study in Japan
- 著者:
- Yukako Tani, Aya Isumi, Takeo Fujiwara
研究者プロフィール
谷 友香子 Yukako Tani
東京科学大学 医歯学総合研究科 公衆衛生学分野 准教授
研究分野:栄養疫学、社会疫学、公衆衛生学
藤原 武男 Takeo Fujiwara
東京科学大学 医歯学総合研究科 公衆衛生学分野 教授
研究分野:社会疫学、予防医学
関連リンク
お問い合わせ
東京科学大学 医歯学総合研究科 公衆衛生学分野
准教授 谷 友香子
- tani.hlth@tmd.ac.jp
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