暑い日の増加が高齢者の認知症発症リスクを長期的に高める可能性

2026年1月8日 公開

気候変動時代に求められる高齢者の暑熱対策を示唆

ポイント

  • 高齢者が夏の暑さに弱いことは知られていましたが、平年より大きく気温が上回る暑い日が、認知症発症にどの程度影響するのかは明らかになっていませんでした。
  • 全国約6万人を3年間追跡した結果、5~9月に暑い日が合計30日あると、翌年の認知症発症リスクが40%~150%増加することが分かりました。
  • 今後、気候変動による暑い日のさらなる増加が予測される中、高齢者を暑さから守る対策が認知症予防の観点でも重要であることが示されました。

概要

東京科学大学(Science Tokyo) 大学院医歯学総合研究科 公衆衛生学分野の森田彩子准教授、藤原武男教授らの研究チームは、日本全国57,178名の高齢者を3年間追跡したデータを解析し、暑さが高齢者の認知症発症リスクを高めることを明らかにしました。分析の結果、居住地域で暑い日[用語1]が合計30日発生すると、翌年の認知症発症リスクが40~150%増加し、その影響が数年にわたり持続する可能性があることが示されました。

これまでの研究では、加齢に伴う体温調節機能の低下により、高齢者が暑さによって熱中症や脱水症状などの健康被害を受けやすいことが知られていました。本研究はこれに加え、気候変動によって増加する暑い日が認知症発症の増加にも寄与する可能性を示した点で重要です。高齢者を暑さから保護するための対策が喫緊の課題であることを改めて示しています。

本研究の成果は、2026年1月4日付(現地時間)で国際学術誌「Alzheimer’s & Dementia」に掲載されました。

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図1. 暑い日の数と翌年の認知症発症・認知症発症または死亡のオッズ

背景

近年、地球温暖化の影響で「観測史上最も暑い年」が次々と更新されており、熱中症や死亡の増加など、暑さによる健康被害が大きな問題となっています。これまでの研究では、暑さによる一時的な記憶力の低下や、重度の熱中症を経験した人は認知症を発症しやすいことが報告されていました。しかし、極端に暑い日の増加が認知症の発症にどのような長期的影響を及ぼすのかについては、ほとんど研究されていませんでした。

認知症は、記憶や判断力が低下して日常生活に支障をきたす病気であり、患者本人だけでなく、家族や社会全体にも大きな影響を与えます。日本は認知症患者の割合が世界でも特に高く、発症をできるだけ防ぐための対策を進めることが極めて重要です。

そこで本研究では、日本全国の高齢者を対象に、暑い日の発生回数と認知症発症との関連を調べました。

研究成果

本研究では、日本老年学的評価研究(JAGES)のデータを使用しました。対象者は、2016年度の調査に参加した65歳以上の自立した高齢者のうち、同じ自治体に30年以上居住し、認知症の既往歴がない57,178名です。

研究チームは、これらの参加者がその後3年間に認知症を発症したかどうか、あるいは死亡したかどうか介護保険データから確認しました。暑い日については、各市町村の気候データを用いて、2014~2018年の各年度に発生した日数を算定しました。そして、暑い日と認知症発症との関連を、3層ランダム効果ロジスティック回帰モデル[用語2]という統計手法を用いて分析しました。

その結果、暑い日にさらされた場合、翌年度中に認知症を発症するリスクが約40%増加することが分かりました。さらに、認知症と診断される前に暑さの影響で死亡した可能性も考慮すると、リスクは最大で2.5倍(150%増)に達すると推計されました。また、3年前の暑い日は前年度の暑い日よりも強い影響を持つことが確認されました。

以上の結果から、暑い日の増加は、数年にわたり認知症発症リスクを高める可能性があることが示唆されました。

社会的インパクト

本研究は、暑い日の増加が高齢者の認知症発症リスクを長期的に高めることを、世界で初めて示したものです。今後、気候変動によって暑い日がさらに増加すると見込まれる中、高齢者を暑さから守るための対策は急務と言えます。本研究の成果は、認知症予防における重要な指針となることが期待されます。

今後の展開

本研究では、暑い日が高齢者の認知症に与える影響に焦点を当てました。今後は、どのような暑さ対策が認知症発症予防にも効果的であるかを、より詳細に検証していく予定です。

用語説明

[用語1]
暑い日:参加者が居住する各市町村において、過去30年間(1981-2010年)に観測された5~9月の日平均気温のうち、上位10%に入る暑さの日。
[用語2]
3層ランダム効果ロジスティック回帰モデル:個人・地域・年度など複数の階層に分かれたデータを同時に扱い、階層ごとの影響を適切に調整しながら、特定の事象(本研究では、認知症発症)のリスクを推定する統計手法。

論文情報

掲載誌:
Alzheimer’s and Dementia(IF: 11.1)
タイトル:
Effects of extreme heat on the onset of dementia and all-cause mortality: A 3-year follow-up study in a large population-based cohort in Japan
著者:
Ayako Morita, Hisaaki Nishimura, Tatsuhiko Anzai, Nobutoshi Nawa, Yukako Tani, Katsunori Kondo, Takeo Fujiwara

研究者プロフィール

森田 彩子 Ayako Morita

東京科学大学 大学院医歯学総合研究科 公衆衛生学分野 准教授
研究分野:社会疫学

藤原 武男 Takeo Fujiwara

東京科学大学 大学院医歯学総合研究科 公衆衛生学分野 教授
研究分野:社会疫学

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准教授 森田 彩子

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