社会的つながりが脱炭素化社会を後押し

2025年2月19日 公開

共通点のあるつながりが気候保全行動を加速する

ポイント

  • 社会的つながりが環境を守る行動と関連していることは、これまでの研究でも報告されていました。
  • 本研究では、人々とのつながりが強いほど、また、つながっている人々との間に考え方や属性などの共通点が多いほど、政府が推奨する気候変動緩和策を積極的に実践していることが明らかになりました。
  • 脱炭素化社会の実現に向けて、共通点の多い人々が互いに情報を共有し、協力しやすい環境を整えることが重要であることが示唆されました。

概要

これまで、社会的つながりが環境を守る行動と関連していることは知られていました。しかし、どのような人々とのつながりが政府の温室効果ガス削減政策の受け入れに影響を与えるかについては、詳しく調査されていませんでした。
 
今回、東京科学大学(Science Tokyo) 大学院医歯学総合研究科 公衆衛生学分野の森田彩子准教授、藤原武男教授らの研究チームは、Johns Hopkins大学の研究者と協力し、日本人12,147名のデータを解析しました。その結果、人々とのつながりが強い人や、つながっている人々との間に共通点が多い人ほど、政府が推進する気候変動緩和策を積極的に実施していることが明らかになりました。一方で、つながっている人々との間に異なる点が多い場合も行動に影響を与えていましたが、共通点が多い場合ほど強い関連性は認められませんでした。

本研究の結果から、同じ関心や状況を共有する人々が協力しやすい環境を整えることが、脱炭素化社会の実現を後押しする可能性が示唆されました。気候変動が健康に与える深刻な影響が問題視される今、本研究の成果は、具体的な脱炭素化対策を検討する上で重要な指針となることが期待されます。

本研究の成果は、2025年2月15日付(現地時間)に国際学術誌「Journal of Environmental Management(IF: 8.0)」に掲載されました。

  • 2024年10月1日に東京医科歯科大学と東京工業大学が統合し、東京科学大学(Science Tokyo)となりました。
図1.ソーシャルキャピタル、同質的/異質的な社会的ネットワークの多様性と気候保全行動の関連

背景

気候変動は、人為的な温室効果ガスの排出によって引き起こされ、私たちの健康に深刻な影響を及ぼしています。この問題を解決するためには、多くの市民が脱炭素政策を支持し、脱炭素化社会を実現に向けた行動を取ることが不可欠です。これまでの研究により、社会的なつながりが環境に優しい行動と関連していることが明らかになっています。しかし、どのような人々とのつながりが政府の温室効果ガス削減政策の受け入れに影響を与えるかを直接検証した研究はありませんでした。

そこで本研究では、日本の成人を対象に、ソーシャルキャピタル[用語1]同質的[用語2]異質的[用語3]な社会的ネットワークの多様性が気候保全行動[用語4]にどのように関連しているかを調査しました。

研究成果

2023年1月30日から2023年2月1日に実施した「地球温暖化に対する意識と行動調査」に参加した、インターネット調査会社のパネルに登録している全国の18歳から79歳までの男女12,147人の回答を分析しました。

ソーシャルキャピタルは、居住地域の住民がどの程度信頼し合い、助け合い、協力しあっているかによって評価しました。同質的な社会的ネットワークの多様性は、つながりのある人々が回答者とどれくらい似た特徴(年齢、性別、人種、教育歴、職業、出身、価値観など)を持っているかで測定しました。異質的な社会的ネットワークの多様性は、つながりのある人々が回答者とどれくらい異なる特徴を持っているかで評価しました。気候保全行動は、日本政府が国民に推奨している温室効果ガス排出削減のための15の自主的な個人または世帯単位の取り組み(節電、ゴミ削減、エコな移動、ヴィーガン的食生活、再生可能エネルギーの導入など)について、頻繁・毎日に実践している数の合計で評価しました。負の二項回帰モデルを用いて、気候保全行動の実践数との関連を推定しました。

その結果、58.1%の人が温室効果ガスの排出削減に取り組んでいること、ソーシャルキャピタルが強いほど気候保全行動が多いことが明らかになりました(調整後平均比率、95%信頼区間:1.10、1.09-1.12)。さらに、同質的な社会的ネットワークの多様性が高いほど、気候保全行動の数が多くなることも確認されました(調整後平均比率、95%信頼区間:1.24、1.16-1.31)。異質的な社会的ネットワークの多様性も気候保全行動の数と統計的に有意な関連を示しましたが、同質的な社会的ネットワークの多様性ほど強い関連は認められませんでした(調整後平均比率、95%信頼区間:1.05、1.02-1.10)。

以上の疫学研究の結果から、ソーシャルキャピタル、特に同質的な社会的ネットワークの多様性が、政府が推進する気候保全行動の実践度を高める要因であることが明らかになりました。

社会的インパクト

本研究は、強い社会的つながり、特に似た特性を持つ他者とのつながりが、異なる特性を持つ他者とのつながり以上に、気候保全行動を促進することを世界で初めて示したものです。本研究の結果から、社会的つながりを強化し、共通点のある人々とのネットワークを活用することで、政府が推進する脱炭素社会の実現に向けた気候保全行動を促進できる可能性が明らかになりました。たとえば、気候変動を緩和するために、日常生活で実践できる脱炭素行動について意見を交換したり、知識を共有したり、共に考え取り組む機会を増やすことが重要と考えられます。本研究の成果は、具体的な脱炭素化対策を検討する上で重要な指針となることが期待されます。

今後の展開

本研究では、政府が現在国民に推奨している気候保全行動に焦点を当てました。今後の研究では、より革新的な気候変動対策への支持に対して、ソーシャルキャピタル社会的ネットワークの多様性がどのような影響を与えるのかを検証していく予定です。

用語説明

[用語1]
ソーシャルキャピタル:人とのつながりを通じて得られる情報や支援等の資源・諸利益
[用語2]
同質的な社会的ネットワークの多様性:つながっている人々の中に見られる、自分との共通点の多様性
[用語3]
異質的な社会的ネットワークの多様性:つながっている人々の中に見られる、自分との異なる点の多様性
[用語4]
気候保全行動:温室効果ガスの排出を減らすための自主的な取り組み

論文情報

掲載誌:
Journal of Environmental Management
タイトル:
Associations between Individual-level Social Capital, Homophilous and Heterophilous Social Network Diversities, and Climate Stewardship in Japan
著者: Ayako Morita; Nawa Nobutoshi; Douglas Storey; Carol R. Underwood; Pamela J. Surkan; Takeo Fujiwara

研究者プロフィール

森田 彩子 Ayako MORITA

東京科学大学 大学院医歯学総合研究科 公衆衛生学分野 准教授(キャリアアップ)
研究分野:社会疫学

藤原 武男 Takeo FUJIWARA

東京科学大学 大学院医歯学総合研究科 公衆衛生学分野 教授
研究分野:社会疫学

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東京科学大学 公衆衛生学分野 教授

藤原 武男

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