ポイント
- 川崎病は先進国で最も多い子どもの後天性心疾患ですが、約50年にわたる研究にもかかわらず、その原因はまだ明らかになっていません。
- 2011年から2022年までの入院データの解析で、子どもが暑さにさらされると川崎病リスクが増加することが分かりました。
- 環境要因と川崎病の関連性を理解することが、川崎病の原因究明につながることが期待されます。
概要
東京科学大学(Science Tokyo)※大学院医歯学総合研究科 公衆衛生学分野の那波伸敏准教授、藤原武男教授、および医療政策情報学分野の伏見清秀教授らの研究チームは、2011年から2022年までの全国規模の入院データを解析し、子どもが暑さにさらされると川崎病のリスクが増加することを明らかにしました。
川崎病は、1967年に川崎富作博士によって初めて報告された、先進国で最も多い子どもの後天性心疾患であり、日本はその罹患率が世界一であると報告されています。しかし、約50年にわたる研究にもかかわらず、川崎病の原因はまだ完全に解明されていません。本研究の結果、暑さが川崎病のリスクと関連していることが示されました。今後、気候変動の影響により暑すぎる日が増加すると予想される中で、医療従事者は気温の高い日に川崎病の発症リスクが高まる可能性に備えて、対応の準備をする必要があることが示唆されました。環境要因と川崎病との関連性を理解することは、まだ完全に解明されていない川崎病の原因究明に寄与することが期待されます。
本研究成果は、国際科学誌Environmental Research(エンバイロンメンタル・リサーチ)(IF=7.7、Q1ジャーナル)に、2024年10月30日にオンライン版で発表されました。
- 2024年10月1日に東京医科歯科大学と東京工業大学が統合し、東京科学大学(Science Tokyo)となりました。
背景
川崎病は、1967年に川崎富作博士によって初めて報告された、先進国で最も多い子どもの後天性心疾患です。日本はその罹患率が世界一であると報告されています。しかし、約50年にわたる研究にもかかわらず、川崎病の原因はまだ完全には解明されていません。また、今後、気候変動の影響で暑すぎる日が増えると予想される一方で、川崎病への影響は十分に理解されていませんでした。そこで本研究では、全国規模の入院データと気象庁の気象データを活用し、高温曝露が川崎病のリスクに与える影響を明らかにすることを目的としました。
研究成果
本研究では、日本全国の2011年から2022年までの12年間における、年間で最も気温の高い5か月間(5月から9月)の川崎病入院データを対象に、高温曝露と川崎病の関連性を検討しました。入院データはDPC(Diagnosis Procedure Combination)データベース[用語1]から抽出し、気温データは気象庁の情報を使用しました。また、気温の影響が現れるまでの時間差(ラグ効果[用語2])を解析に考慮しました。
解析の結果、子どもが暑さにさらされると川崎病のリスクが増加することが明らかになりました。特に、極端な暑さ(上位1%に該当する1日の平均気温が30.7度)にさらされると、入院リスクが33%(95%信頼区間: 8%~65%)増加することがわかりました。なお、最もリスクが低い気温(minimum morbidity temperature: MMT)である11.3℃を基準としています。
社会的インパクト
本研究の結果、子どもが暑さにさらされると川崎病のリスクが増加することが明らかになりました。今後、気候変動の影響で暑すぎる日が増えると予想される中で、医療従事者は気温の高い日に川崎病患者数が増える可能性を踏まえ、対応準備を進めることの重要性が示唆されました。また、熱中症警戒アラートに基づき、高温環境を避けることは、子どもの川崎病発症リスクの軽減に寄与するためにも有効である可能性があります。
今後の展開
約50年間にわたる研究が行われているものの、川崎病の原因はまだ完全には解明されていません。環境要因と川崎病の関連性を理解することは、未解明の川崎病の原因を明らかにするための一助となることが期待されます。今後は、気温と川崎病の関係を説明するメカニズムとして、気道上皮細胞からの炎症性メディエーターの放出などの検討が求められます。
付記
本研究は、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST、JPMJSA2402)と独立行政法人国際協力機構(JICA)の連携事業である地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム(SATREPS)の支援を受けて実施しました。
用語説明
- [用語1]
- DPC(Diagnosis Procedure Combination)データベース:DPC(Diagnostic Procedure Combination)は、全国の対象病院から収集された入院患者に関する大規模なデータベースで、退院時情報や診療報酬データなどの情報、特に診断名、入院時の併存症、入院後の合併症とそれらのICD-10コード、手術・処置名、在院日数、退院時の転帰、費用などの情報が記録されている1。
1康永 秀生, 堀口 裕正, DPCデータベースを用いた臨床疫学研究, 医療と社会, 2010, 20 巻, 1 号, p. 87-96 - [用語2]
- ラグ効果:極端な気温の健康への影響は一定期間続くことが知られ、その遷延性をラグ効果と呼ぶ。
論文情報
- 掲載誌:
- Environmental Research
- 論文タイトル:
- Association between heat exposure and Kawasaki disease: A time-stratified case-crossover study
- 著者:
- Nawa N, Nishimura H, Fushimi K, Fujiwara T
研究者プロフィール
那波伸敏 Nobutoshi NAWA
東京科学大学 大学院医歯学総合研究科
公衆衛生学分野 准教授
ウェルビーイング創成センター センター長
研究分野:公衆衛生学、疫学、プラネタリーヘルス、小児科学
藤原武男 Takeo FUJIWARA
東京科学大学 大学院医歯学総合研究科
公衆衛生学分野 教授
研究分野:公衆衛生学、疫学(社会疫学、ライフコース疫学)
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