ポイント
- 妊娠中、特に妊娠中期は暑さの影響を受けやすい時期であることが示されました。
- 全国約100万件の出生データの解析から、妊娠16〜22週の高温曝露が早産リスクの上昇と関連し、特に妊娠19週で最も強い関連(約16%増加)が確認されました。
- 気候変動により猛暑の増加が懸念される中、妊娠中期に重点を置いた暑さ対策が、早産予防に向けた新たな公衆衛生戦略となる可能性があります。
概要
東京科学大学(Science Tokyo) 医歯学総合研究科 公衆衛生学分野の藤原武男教授、寺田周平助教らの研究チームは、日本産科婦人科学会周産期登録データベースに登録された2016〜2020年の単胎生産児約98万6千例を対象に、妊娠中の暑さへの曝露と早産リスクとの関連を調べました。その結果、妊娠16〜22週における高温曝露が早産リスクの上昇と関連し、特に妊娠19週で最も強い関連がみられました。各都道府県における週平均気温の90パーセンタイルを超える「高温週」では、妊娠19週における早産のオッズが約16%高いと推定されました(オッズ比1.16、95%信頼区間:1.13〜1.19)。
さらに、早産の重症度ごとに解析したところ、感受性のピークとなる時期はそれぞれ異なっていました。妊娠28週未満の超早産では妊娠16週、28〜31週の極早産では18週、32〜36週の中等度・後期早産では19週に、それぞれ最も強い関連が認められました。また、35歳未満の妊婦では、35歳以上と比べて関連がより強い傾向がみられました。
早産は、世界の5歳未満児死亡の主要な原因の1つであり、長期的な健康への影響とも関連する重要な公衆衛生上の課題です。これまでの研究では、出産直前の暑さに注目したものが多く、妊娠中のどの時期が特に影響を受けやすいかについては、十分に明らかになっていませんでした。本研究は、日本の大規模な周産期データを用いて、妊娠中期、特に16〜22週頃が暑さに対して感受性の高い時期である可能性を示したものです。気候変動により猛暑の頻度や強度の増加が懸念される中、妊娠中期の女性に対する暑さ対策を妊婦健診や保健指導に組み込むことは、早産予防に向けた新たなアプローチとなり得ます。
本成果は、3月30日付(米国東部時間)の「American Journal of Epidemiology 」オンライン版に掲載されました。
背景
早産とは、妊娠22週0日から36週6日の間に生まれることを指します。早産で生まれた子どもは、新生児期の死亡リスクが高いだけでなく、その後の成長や健康にも長期的な影響を受ける可能性があります。日本では出生の約5.5%を早産が占めており、その予防は重要な課題です。
気候変動に伴い猛暑の頻度や強度が増す中、妊娠中の高温曝露と早産リスクとの関連を明らかにすることは、母子保健の観点からも重要です。しかし、妊娠のどの時期が特に影響を受けやすいかについては、十分な知見が得られていませんでした。妊娠中期は、胎児の発育が急速に進む時期であると同時に、妊娠の維持に重要な子宮頸管リモデリング[用語1]が進む時期でもあり、高温による炎症反応などを介して早産リスクが高まり得ると考えられています。
従来の研究[参考文献1]の多くは、出産直前の高温曝露に着目しており、妊娠全期間を通じた感受性期の特定は不十分でした。また、時間的な相関を適切に考慮できていない手法も多く、結果も一致していませんでした。そのため、妊婦がいつ特に暑さに注意すべきかを示す科学的根拠が不足していました。
研究成果
本研究では、日本産科婦人科学会周産期登録データベースに登録された2016〜2020年の単胎生産児約98万6千例を対象に解析を行いました。各都道府県の週平均気温について、その地域の90パーセンタイル[用語2]を超える週を「高温週」と定義し、妊娠週数ごとのロジスティック回帰と高度な解析手法(クリティカルウィンドウ変数選択法[用語3][参考文献2])を組み合わせて、感受性の高い時期を検討しました。
主な結果は以下の通りです。
- 妊娠16〜22週における高温曝露と早産リスクの上昇との間に統計的に有意な関連が認められ、特に妊娠19週で最も強く、リスクが約16%高まると推定されました(オッズ比[用語4]1.16、95%信頼区間:1.13〜1.19)。
- 早産の重症度によって感受性のピークは異なり、超早産(28週未満)では妊娠16週、極早産(28〜31週)では18週、中等度・後期早産(32〜36週)では19週に、それぞれピークがみられました。
- 35歳未満の妊婦では、35歳以上と比べて、より強い関連が認められました。
社会的インパクト
本研究は、妊娠中期が暑さによる早産リスクの観点から特に重要な時期である可能性を、日本の大規模データに基づいて示したものです。この知見は、妊娠中期の女性に対し、暑い日の外出を控える、冷房を適切に使用する、十分に水分を摂取するといった暑さ対策を重点的に行うための科学的根拠となります。
今後の展開
今後は、前期破水の有無や自然早産・医療介入による早産の違いなど、早産の種類ごとの検討を進めるとともに、個人レベルの気温曝露や社会経済的要因を取り入れた研究を通じて、暑さが早産を引き起こす仕組みの解明を目指します。さらに、年齢や社会経済状況、住環境などの観点から、暑さの影響をより受けやすい妊婦を明らかにし、妊婦健診や自治体の保健指導における実効性の高い対策につなげていくことが期待されます。
付記
本研究は日本学術振興会 科学研究費助成事業の支援を受けて実施されました(課題番号:JP25K24154)。
参考文献
- [参考文献1]
- Lakhoo DP et al. A systematic review and meta-analysis of heat exposure impacts on maternal, fetal and neonatal health.
- [参考文献2]
- Warren JL et al. Critical window variable selection: estimating the impact of air pollution on very preterm birth.
用語説明
- [用語1]
- 子宮頸管リモデリング:妊娠の経過に伴い、子宮の出口(子宮頸管)が徐々に軟化・短縮し、出産に備える過程。この変化が高温などの影響により通常より早く進むと、早産につながる可能性がある。
- [用語2]
- 90パーセンタイル:データを小さい順に並べたとき、下から90%に位置する値。ここでは、各都道府県の過去の気温分布のうち、上位10%に入る高い気温を指す。例えば東京では、週平均気温で約26.9度に相当し、真夏の特に暑い週にあたる。
- [用語3]
- クリティカルウィンドウ変数選択法:妊娠中のどの時期の曝露が健康影響と最も強く関連するかを、統計的に特定するための手法。
- [用語4]
- オッズ比:ある要因がある場合とない場合で、結果(この場合は早産)の起こりやすさがどの程度異なるかを示す統計指標。1より大きいほど、リスクが高いことを意味する。
論文情報
- 掲載誌:
- American Journal of Epidemiology
- タイトル:
- Critical gestational windows of heat exposure associated with preterm birth: A nationwide observational study
- 著者:
- Shuhei Terada, Hisaaki Nishimura, Naoyuki Miyasaka, Nobutoshi Nawa, Takeo Fujiwara
- DOI:
- 10.1093/aje/kwag070
研究者プロフィール
寺田 周平 Shuhei Terada
東京科学大学 医歯学総合研究科 公衆衛生分野 助教
研究分野:周産期疫学、産婦人科学
藤原 武男 Takeo Fujiwara
東京科学大学 医歯学総合研究科 公衆衛生学分野 教授
研究分野:社会疫学、公衆衛生学
関連リンク
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東京科学大学 医歯学総合研究科 公衆衛生分野
助教 寺田 周平
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