ポイント
- 東京都足立区の子どもと母親2,177組を2年間追跡し、小学6年時の子どもの向社会的行動(思いやりや助け合いなど)と、中学2年時の母親の幸福度との関連を調べました。
- 母親の幸福度は、子どもが小学6年時の平均7.71点から、中学2年時には平均6.69点へ低下していました。
- 背景要因をそろえた傾向スコアマッチング解析の結果、小学6年時の向社会的行動が「正常範囲」だった子どもの母親では、「境界・臨床範囲」だった子どもの母親と比べ、中学2年時の幸福度が平均0.31点高いことが分かりました。
概要
東京科学大学(Science Tokyo)医歯学総合研究科 公衆衛生学分野の谷友香子准教授、藤原武男教授らの研究チームは、東京都足立区で実施している「足立区子どもの健康・生活実態調査(A-CHILD)」の縦断データを用いて、思春期の子どもの向社会的行動と母親の幸福度との関連を調べました。
小学6年から中学2年まで追跡した2,177組の親子を解析したところ、母親の幸福度は、全体として平均7.71点から6.69点へ低下していました。一方、傾向スコアマッチングにより、母親の年齢・就労状況・心理的ストレス・ベースライン時の幸福度、世帯収入、家族構成、子どもの性別・行動上の困難・幸福度などの背景因子をそろえて比較した結果、小学6年時に向社会的行動が正常範囲だった子どもの母親では、中学2年時の幸福度が0.31点高いことが分かりました(95%信頼区間:0.08~0.53)。
本研究により、子どもが中学生になる時期には母親の幸福度が低下する一方で、子どものポジティブな社会的行動が、母親の幸福度の維持に寄与する可能性が示されました。
本成果は、9月11日付(現地時間)の「BMC Psychology」誌に掲載されました。
背景
幸福感は心の健康を構成する重要な要素であり、身体的健康や健康行動、死亡リスクとも関連することが知られています。一方、幸福度は多くの国で中年期に低くなる傾向があり、思春期の子どもを持つ親は、自身の中年期における変化に加えて、子どもの自立や感情の変化、親子関係の変化にも対応する時期にあります。
これまでの研究では、親の養育や心理状態が子どもの発達に及ぼす影響が主に検討されてきました。しかし、親子は一方向ではなく相互に影響し合うと考えられています。子どもの問題行動と親の心理的ウェルビーイングとの関連については報告されている一方、思いやりや助け合いなど、子どものポジティブな行動が、その後の親の幸福度とどのように関連するかを縦断的に検討した研究はほとんどありませんでした。
そこで本研究では、子どものポジティブな行動として「向社会的行動」に着目しました。まず、子どもが小学6年生から中学2年生になるまでの間に、母親の幸福度がどのように変化するかを検証しました。さらに、小学6年時の子どもの向社会的行動が、2年後の母親の幸福度と関連するかを検討しました。
研究成果
本研究では、2020年に小学6年生だった子どもとその保護者を、2022年の中学2年時まで追跡しました。解析対象は、母親が回答した2,177組の母子です。子どもの向社会的行動については、日本語版Strengths and Difficulties Questionnaire(SDQ)の向社会的行動に関する5項目を母親が評価し、0~10点で得点化しました。その上で、既定のカットオフ値に基づき、「正常範囲」と「境界・臨床範囲」に分類しました。母親の幸福度については「あなたはどのくらい幸せだと思いますか」という質問に対し、0(非常に不幸)~10(非常に幸せ)の11段階で回答してもらいました。
母親・父親・世帯・子どもの背景要因を用いて傾向スコアを算出し、子どもの向社会的行動が「正常範囲」の群と「境界・臨床範囲」の群を1対1でマッチングし、それぞれ641組を比較しました。
2,177組の母子を対象に母親の幸福度の変化を検証した結果、母親の幸福度は、子どもが小学6年時の平均7.71点から、中学2年時には平均6.69点へと、1.02点低下していました。
さらに、それぞれ641組を対象とした傾向スコアマッチング解析の結果、子どもの向社会的行動が「正常範囲」の群では、「境界・臨床範囲」の群と比べて、母親の中学2年時の幸福度が平均0.31点高いことが分かりました(95%信頼区間:0.08~0.53)(図1)。
また、逆確率重み付け法(IPW)を用いた解析、母親の幸福度の2年間の変化量を用いた解析、子どもの向社会的行動を連続得点として扱った解析でも、概ね同様の関連が確認されました。
社会的インパクト
本研究は、思春期の子どもの向社会的行動が、子ども自身の適応だけでなく、母親の幸福度とも関連する可能性を示しました。これまで親子関係については、「親が子どもに与える影響」が主に注目されてきましたが、本研究は、子どもの思いやりや助け合いといったポジティブな行動と、親のウェルビーイングとの関連に着目した点に意義があります。
また、子どもが小学6年生から中学2年生へと成長する2年間に、母親の幸福度が低下することが観察されました。その中でも、子どもの向社会的行動が正常範囲にある母親では、そうでない母親と比べて幸福度が高い傾向が認められました。
これらの結果は、思春期の子どもを持つ家庭のウェルビーイングを考える上で、子どものポジティブな社会的行動にも目を向けることの重要性を示す知見です。
今後の展開
今後は、子どもの向社会的行動と親のウェルビーイングとの関係をより長期的に追跡し、子どもから親への社会的サポートや親子の情緒的なつながり、親子間のコミュニケーションなど、両者の関係を支える具体的なメカニズムを明らかにしていきます。
また、子どもの思いやりや助け合いといったポジティブな行動を育む家庭・学校・地域の環境が、子ども自身だけでなく、親を含む家族全体のウェルビーイングとどのように関わるのかを検証し、親子双方のウェルビーイングを支える取り組みの構築につなげていきます。
付記
本研究は、厚生労働省科学研究費補助金(H27-循環器等-一般-002、H29-政策-指定-004)、自殺対策に関する革新的研究プログラム、日本学術振興会科学研究費助成事業(JSPS科研費)(16H03276、16K21669、17J05974、17K13245、19H04879、19K20109、19K19309、19K14029、19K19310、19J01614、19K14172、21H04848、21K18294、22K10578)などの助成を受けて実施されました。
論文情報
- 掲載誌:
- BMC Psychology
- タイトル:
- Is adolescent prosocial behavior associated with maternal happiness? Results from a Population-based Longitudinal Study in Japan
- 著者:
- Yukako Tani, Aya Isumi, Takeo Fujiwara
研究者プロフィール
谷 友香子 Yukako Tani
東京科学大学 医歯学総合研究科 公衆衛生学分野 准教授
研究分野:栄養疫学、社会疫学、公衆衛生学
藤原 武男 Takeo Fujiwara
東京科学大学 医歯学総合研究科 公衆衛生学分野 教授
研究分野:社会疫学、予防医学
関連リンク
お問い合わせ
東京科学大学 医歯学総合研究科 公衆衛生学分野
准教授 谷 友香子
- tani.hlth@tmd.ac.jp
- Tel
- 03-5803-5189
- FAX
- 03-5803-5190