ポイント
- 小学1年生から6年生まで約2,600人を6年間追跡し、「野菜を最初に食べる習慣」の変化パターンと心の力との関連を分析しました。
- 小1から小6まで継続して野菜から食べていた子どもは、そうでない子どもよりレジリエンスと自己肯定感が有意に高いことが分かりました。
- 食事内容だけでなく、「食べる順番」という身近で実践しやすい習慣が、子どもの心の健康と関連する可能性を示しました。
概要
東京科学大学(Science Tokyo) 医歯学総合研究科 公衆衛生分野の藤原武男教授とユパー・キン特任助教らの研究チームは、食事の際に「野菜を最初に食べる習慣」が子どもの心とどのように関係しているかを調べました。約2,600人の子どもを分析した結果、小学1年生から6年生までの6年間に一貫して野菜から食べる習慣があった子どもは、そうでない子どもと比べて、小学6年生の時点でレジリエンス[用語1]や自己肯定感[用語2]といった「心の力」が高いことが分かりました。
近年、子どものメンタルヘルスの問題は深刻化しており、ストレスに負けない力であるレジリエンスや自己肯定感をどのように育てるかが大きな課題となっています。これまで、食事の栄養と心の健康との関係は指摘されてきましたが、「食べる順番」という身近な習慣が心の健康にどのような影響を及ぼすのかについては、十分に研究されていませんでした。
本研究で見られた関係について、研究チームは、野菜を先に食べることで血糖値の急激な上昇が抑えられ、気持ちが安定しやすくなる可能性があると考えています。また、決まった順番で食事をするという食事のルールを守ることが、自分をコントロールする力を育てている可能性もあります。本研究の結果は、食事の順番を少し工夫するだけで、家庭や学校でも今日から実践できる方法が子どもの心の健康を支える一助となることを示しています。今後は、なぜ食べる順番が心に影響を与えるのか、その詳しい仕組みについてさらに研究を進めていく予定です。
本成果は、2026年3月2日付(現地時間)の「Pediatric Research(ペディアトリック・リサーチ)」誌に掲載されました 。
背景
現代社会では、うつなどの子どものメンタルヘルスの問題が、将来の生活や経済状況にも影響を及ぼす深刻な社会課題となっています。その中で注目されているのが、困難に直面しても立ち直る力であるレジリエンスや、自分を大切に思う気持ちである自己肯定感といった心の力です。
これまでの研究から、栄養バランスの良い食事が心の健康に良いことは知られていましたが、子どもにとって野菜は、苦みなどの理由から敬遠されやすい食材でもあります[参考文献1]。そこで研究チームは、東京都足立区が2013年から進めている「ひと口目は野菜から」という、誰でも簡単に実践できる健康政策に注目しました[参考文献2]。
何を食べるかだけでなく、どの順番で食べるかという日常の小さな習慣が、子どもの心の成長にどのように関わるのかを明らかにしたいと考えたことが、本研究の出発点となりました。
研究成果
研究チームは、足立区内の小学生約2,600人を対象に、小学1年生から6年生までの6年間にわたる追跡調査を行いました。6年間における野菜を最初に食べる習慣の変化に基づき、子どもたちを「ずっと野菜から食べる」「途中で増えた」「途中で減った」「野菜から食べない」の4つのグループに分類しました。
子どもの心の力であるレジリエンスと自己肯定感は、信頼性が確認されている心理尺度を用いて数値化しました。レジリエンスは保護者が回答する8項目の尺度(0~32点)により評価し、自己肯定感は子ども本人が回答する10項目の尺度(0~30点)により測定しました。いずれも得点を統計解析のために標準化し、数値が高いほど心の力が高いことを示す指標としました。
さらに、性別や家庭の社会経済状況、もともとの心の状態などの影響を考慮した統計解析(軌跡分析および重み付け回帰分析)を行い、各グループ間の差を比較しました。
その結果、1年生から6年生までずっと野菜から食べていた子どもは、その習慣が全くなかった子どもと比べて、6年生時点におけるレジリエンスおよび自己肯定感の標準化スコアが統計解析(回帰分析)において有意に高いことが分かりました。具体的には、野菜から食べていた群は、習慣がなかった群に比べ、レジリエンスが0.20ポイント、自己肯定感が0.27ポイント高い結果となりました(図1)。
特定の栄養素の摂取量だけでなく、食事の「順番」という日常的な行動が、長期間にわたり子どもの心の健康と関連していることを示した点は、世界で初めての成果です。
(性別、母親の学歴、世帯年収、1年生の時保護者の精神状態、子どものBMI、野菜摂取頻度、家族と夕食を取る頻度、セルフコントロール、1年生時のベースラインスコアを調整)
社会的インパクト
本研究成果は、毎日の食事で順番を少し意識するだけで、子どもの心の健康を支える一助となる可能性を示しました。これはまさに、Science Tokyoのミッションである「科学の進歩と人々の幸せの探求」を体現しています。
さらに、「野菜から食べる」という小さな約束を守る経験の積み重ねが、将来の困難を乗り越える力であるレジリエンスにつながるという考え方は、家庭や教育現場にとって大きな希望と具体的な指針を与えるものです。
今後の展開
本研究の成果をさらに発展させ、社会に役立てるため、今後は次の2つの取り組みを進めていきます。
まず研究の発展として、本研究では「食べる順番」と「心の健康」との関連が明らかになりましたが、今後は、なぜそのような効果が生まれるのかについて、より詳しく検討していきます。
次に社会実装として、本研究で得られた知見を、足立区の「ひと口目は野菜から」のような自治体の健康政策や、学校での食育プログラムに活用していきます。保護者や教育関係者に向けて、「ベジファースト」が体の健康だけでなく子どもの心の力を育てる可能性があることを分かりやすく伝え、日常の食卓で取り入れやすい環境づくりを支援していきます。
付記
本研究は、厚生労働省科学研究費補助金(生活習慣病に関する総合研究:H27-循環器等(一般)002、政策立案・評価に関する研究:H29-政策-指定-004)、自殺対策に関する革新的研究プログラム(Innovative Research Program on Suicide Countermeasures:IRPSC)、日本学術振興会 科学研究費助成事業(16H03276、16K21669、17J05974、17K13245、19K19310、19K14029、19K19309、19K20109、19K14172、19J01614、19H04879、20K13945、20K10221、21H04848、21K18294、22H05103、24K02664)、聖路加生命科学研究所研究助成金、および日本健康財団研究助成金の支援を受けて実施されました。
参考文献
- [参考文献1]
- Raggio, L. & Gámbaro, A. Study of the Reasons for the Consumption of Each Type of Vegetable within a Population of School-Aged Children. BMC Public Health 18, 1163 (2018).
- [参考文献2]
- Tani, Y., Fujiwara, T., Ochi, M., Isumi, A. & Kato, T. Does Eating Vegetables at Start of Meal Prevent Childhood Overweight in Japan? A-Child Study. Frontiers in Pediatrics 6 (2018).
用語説明
論文情報
- 掲載誌:
- Pediatric Research
- タイトル:
- Association between eating vegetables first at the meal and mental capital: A-CHILD study
- 著者:
- Yu Par Khin, Nobutoshi Nawa, Yuna Koyama, Aya Isumi, Takeo Fujiwara
研究者プロフィール
ユパー・キン Yu Par Khin
東京科学大学 医歯学総合研究科 公衆衛生分野 特任助教
研究分野:公衆衛生分野
那波 伸敏 Nobutoshi Nawa
東京科学大学 医歯学総合研究科 地球環境医学分野 教授
研究分野:地球環境医学分野
小山 佑奈 Yuna Koyama
東京科学大学 医歯学総合研究科 公衆衛生分野 特任助教
研究分野:公衆衛生分野
伊角 彩 Aya Isumi
東京科学大学 医歯学総合研究科 政策科学分野 講師
研究分野:政策科学分野
藤原 武男 Takeo Fujiwara
東京科学大学 医歯学総合研究科 公衆衛生学分野 教授
研究分野:公衆衛生分野
関連リンク
お問い合わせ
東京科学大学 医歯学総合研究科 公衆衛生分野
特任助教 ユパー・キン Yu Par Khin
- khin.y.23ea@m.isct.ac.jp
- Tel
- 03-5803-5019
- FAX
- 03-5803-0222
東京科学大学 医歯学総合研究科 公衆衛生分野
教授 藤原 武男
- fujiwara.hlth@tmd.ac.jp
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- 03-5803-5190