小型衛星での6G向け展開型アンテナの宇宙実証に成功

2026年8月7日 公開

通信衛星の飛躍的な小型・軽量化が可能に

ポイント

  • 折り紙技術を活用して開発した新たな宇宙展開型衛星無線機の宇宙実証に成功
  • 6G・Beyond 5G時代に向けた軌道上ビームフォーミング技術の軌道上実験を実施
  • 小型衛星による高速・大容量通信の実現に前進

概要

東京科学大学(Science Tokyo)工学院 機械系の坂本啓教授、総合研究院 未来産業技術研究所の白根篤史准教授、工学院 電気電子系の岡田健一教授らの研究チームは、折り紙技術を活用した小型で軽量の宇宙展開型フェーズドアレイ[用語1]無線機を開発し、宇宙実証を行いました。

研究グループが開発したフェーズドアレイ無線機は、折り紙のように小さく畳める展開膜上に搭載可能で、打ち上げ前は小さく収納でき、軌道投入後は大面積に展開可能です。柔らかな展開膜は、展開後も完全な平面にはならないため、非平面を電気的に補償する技術を採用しています。

この無線機は、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の革新的衛星技術実証4号機のRAISE-4に搭載された実証テーマ「Society 5.0に向けた発電・アンテナ機能を有する軽量膜展開構造物の実証」(HELIOS-R)の一部として、2025年12月14日に宇宙へ打ち上げられました。HELIOS-R は、2026年2月13日に膜構造の軌道上展開に成功し、同年3月13日から、展開膜上に設置したフェーズドアレイ無線機を用いて、6G[用語2]時代の無線通信に不可欠なビームフォーミング技術[用語3]の軌道上実験を実施しました。その結果、宇宙環境における無線機の動作を確認して、宇宙環境への耐性を実証するとともに、機器の温度依存性を含む実証データを取得しました。

今回宇宙実証に成功した技術によって、大面積のフェーズドアレイ無線機を小型衛星にも搭載可能になり、現在は数百キロを超える通信衛星の飛躍的な小型・軽量化が実現します。本研究の成果は、6G時代の広カバレッジ化の鍵となる衛星コンステレーション[用語4]構築の低コスト化と、その普及の加速に大きく貢献すると期待されます。

これらの成果は、米国電気電子学会(IEEE)が主催する国際マイクロ波会議IMS 2026のRadio Frequency Systems and Applications(RFSA)シンポジウムにおいて、急速に発展する研究分野の優れた最新成果を対象とする「Late Breaking News」に採択され、2026年6月10日(現地時間)に米国ボストンで研究成果を発表しました。

背景

大容量通信に必要なフェーズドアレイ無線機はこれまで、大型で重量が大きく、小型衛星への搭載が困難でした。柔軟な展開膜上に無線機を搭載すれば、収納時には小さく折り畳み、軌道上では大面積に展開することができ、小型衛星にも搭載が可能になります。しかしその場合には、展開後も完全な平面とはならず、通信性能の低下が課題となります。そこで研究チームは、折り紙技術を活用した小型・軽量な宇宙展開型フェーズドアレイ無線機で、非平面形状を電気的に補償する技術を開発し、その有効性を宇宙で実証することを目指してきました。そして今回、高い平面度を必要としない展開型フェーズドアレイ無線機としては、世界初となる宇宙実証を行いました。

今回の研究は、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の「革新的衛星技術実証4号機」の実証テーマの1つである「Society 5.0に向けた発電・アンテナ機能を有する軽量膜展開構造物の実証」(HELIOS-R)の一環として行われました。この実証テーマは、小型衛星での大電力発電・大容量通信・高分解能観測等を可能にする膜構造物の展開・運用実証を行うもので、サカセ・アドテック株式会社(本社・福井県坂井市)を提案代表機関として、東京科学大学の他、JAXA、防衛大学校の研究チームが参画しています。本無線機が搭載された小型実証衛星4号機(RAISE-4)は、革新的衛星技術実証4号機の9機の衛星の1つであり、2025年12月14日に打ち上げられました(この打ち上げ成功については、2026年1月26日のプレスリリースで報告しています)。

研究成果

HELIOS-Rは打ち上げ後、2026年2月13日に膜構造の軌道上展開に成功しました(図1)。その後、同年3月13日から、展開膜上のフェーズドアレイ無線機を用いた軌道上ビームフォーミング実験を実施しました。この実験は、地上からRAISE-4へ無線で送った実験コマンドをHELIOS-Rへ伝達し、フェーズドアレイ無線機でのビームフォーミング実験の手順を自動で進めた後、実験結果のデータを再びHELIOS-RからRAISE-4を経由で送信して、地上で取得するという流れで行いました。

開発したフェーズドアレイ無線機は、展開膜上に貼付された2つの基板により構成されています(図2)。この2つの基板が同一平面上になくても、つまりアンテナが非平面であっても電気的に補償するように、等価等方輻射電力(Equivalent Isotropic Radiated Power;EIRP)[用語5]を最大化する位相を設定します。こうした補償を行ったうえで、膜面上の無線機から電波を照射してビームフォーミング(指向性制御)を行い、衛星本体に取り付けた受信機によって電力を計測することで、ビームフォーミング特性を確認します。使用する周波数は、次世代の衛星通信で活用が期待されるKa帯[用語6]や、5Gや6Gで利用されるミリ波[用語7]帯を狙って、24 GHzとしています。

軌道上実験では、宇宙環境における無線機の正常動作を確認するとともに、展開膜が完全な平面ではない状態でビームフォーミングが可能であることを実証しました。また、軌道上での機器温度の変化に対する通信性能の変化を評価し、今後の展開型衛星無線機の設計に有用な実証データを取得しました。

図1. HELIOS-R膜展開運用中に撮影した、展開前(左)と展開後(右)の写真
写真中央部にある薄膜の背景に地球が映っている。
図2. HELIOS-R展開膜上のフェーズドアレイ無線送信基板の搭載場所(左)と、基板の表裏写真(右)

社会的インパクト

今回実証した技術により、大面積のフェーズドアレイ無線機を小型衛星へ搭載できることが示されました。これにより、これまで数百kg級の大型通信衛星が担ってきた高速・大容量通信機能を、より小型・軽量な衛星で実現できる可能性があります。

この研究成果は、6G時代の衛星コンステレーションによる無線通信システムの普及を通して、いつでも、どこでも、だれでもつながる社会の実現に貢献し、災害レジリエンスの向上、非ネットワーク化地域への通信カバレッジの拡大といった、私たちの生活インフラの革新につながります。

今後の展開

今後は、取得した軌道上データを詳細に解析し、より大規模な展開型フェーズドアレイ無線機の開発へ展開していきます。また、本技術をさらに高性能化することで、6G時代の衛星コンステレーションや次世代宇宙通信システムへの応用を目指します。さらに本無線機の開発には、総勢20名以上の本学学生が関わっており、今後ますます重要性が増していく宇宙分野および無線通信分野の人材育成に貢献します。

用語説明

[用語1]
フェーズドアレイ:複数のアンテナへ位相差をつけた信号を給電する技術。放射方向を電気的に制御するビームフォーミングの実現に利用される。
[用語2]
6G:移動通信システムは第1世代のアナログ携帯電話から始まり、性能が向上するごとに世代、つまりジェネレーションが変わる。「G」はジェネレーション(Generation)の頭文字。現在の携帯電話等は4Gから5Gに変わろうとしているフェーズである。6Gは、5Gの次の世代の移動体通信システムとして、さらなる高速・大容量化、多数接続の実現、低遅延性能の向上に加え、非地上ネットワークも利用することで、これまで通信エリア化が難しかった地域や場所(海、空、宇宙等)へのエリア拡大が検討されている。
[用語3]
ビームフォーミング技術:電波を細く絞って、集中的に任意の方向に発射、制御する技術。ミリ波帯5G通信に用いられており、今後の無線通信の高速化のコア技術である。
[用語4]
衛星コンステレーション:複数の衛星の一群・システム。SpaceX社のStarlinkでは3,000機以上の衛星群がインターネット網を構成する。
[用語5]
等価等方輻射電力(Equivalent Isotropic Radiated Power;EIRP):指向性のあるアンテナを用いると、放射方向によっては無指向(等方性)のアンテナを用いるよりも強い電力密度を発生させることができる。この時に、指向性のあるアンテナにより生じたものと同じ電力密度を等方性アンテナで得るために必要となる送信電力を、等価等方輻射電力という。
[用語6]
Ka帯:一般には26-40 GHzまでの周波数帯域を示すが、衛星通信においては、衛星通信用に割り当てられているアップリンクの17-21 GHz、ダウンリンクの27-31 GHzの周波数帯を指す。
[用語7]
ミリ波:波長が1~10 mm、周波数が30~300 GHzの電波。

論文情報

学会名:
米国電気電子学会(IEEE) International MTT Symposia (IMS), RFSA Late Breaking News, Boston, MA, USA
日時
2026年6月7-12日
タイトル:
On-Orbit Demonstration of a Deployable Ka-Band 16-Element Active Phased-Array Transmitter
著者:
Takuma Komaba, Sota Kume, Atsuki Ochi, Delburg Mitchao, So Tanaka, Yuta Takahashi, Motoki Moritani, Hiraku Sakamoto, Atsushi Shirane, Kenichi Okada, Masanori Matsushita, Yuki Takao, Akihito Watanabe, Ahmed Kiyoshi Sugihara, Osamu Mori

研究者プロフィール

坂本 啓 Hiraku Sakamoto

東京科学大学 工学院 機械系 教授
研究分野:宇宙システム工学、構造工学

白根 篤史 Atsushi Shirane

東京科学大学 総合研究院 未来産業技術研究所 准教授
研究分野:集積回路、衛星通信、無線電力伝送

岡田 健一 Kenichi Okada

東京科学大学 工学院 電気電子系 教授
研究分野:無線機・高周波回路(RF回路、ミクストシグナル回路)

駒場 啄舞 Takuma Komaba

東京科学大学 工学院 機械系 修士課程学生
研究分野:宇宙システム工学、構造工学

米国ボストンで発表を担当した工学院 機械系 修士課程学生 駒場啄舞さん

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