ポイント
- 日本は世界で最も平均寿命が長い「超高齢社会」となっており、近年は単なる寿命の延伸から「健康寿命の延伸」へと関心が移行しています。
- 本研究では、オーラルフレイルと健康寿命との間に明確な用量反応関係が確認され、口腔機能の低下が高齢者の健康に強く関連することが明らかになりました。
- 定期的な歯科受診は、全ての群において障害を伴う期間の短縮に寄与している可能性が示され、健康寿命の延伸につながることが示唆されました。
概要
東京科学大学(Science Tokyo)大学院医歯学総合研究科 歯科公衆衛生学分野のSafira Khairinisa(サフィラ カイリニサ)大学院生と相田潤教授らの研究グループは、日本の高齢者を対象に、オーラルフレイル、歯科受診、および健康寿命との関連を検討しました。
本研究は、全国の高齢者を対象とした日本老年学的評価研究(JAGES)2016年のデータと、介護保険の要介護認定および死亡記録を連結した6年間の前向きコホート研究です。オーラルフレイルは、「現在歯数の少なさ」「咀嚼・嚥下・発話の困難」「口腔乾燥」のうち3項目以上を有する場合と定義しました。
その結果、オーラルフレイルを有する人は、非該当者に比べて要介護になるリスクが1.23倍、死亡リスクが1.34倍高いことが示されました。65歳時点の健康寿命は、オーラルフレイルを有する人で約1.4〜1.5年短く、一方で定期的に歯科を受診している人は約1年長い健康寿命を有していました。
これらの結果から、オーラルフレイルは高齢者の健康寿命を大きく短縮させる要因であり、定期的な歯科受診がその影響を軽減し、健康と自立の維持に寄与する可能性があることが示唆されました。
本成果は、2025年10月21日付の「Geriatrics and Gerontology International」誌に掲載されました。
背景
日本は世界で最も平均寿命の長い「超高齢社会」となっており、近年では単なる寿命の延伸から健康寿命の延伸へと重点が移りつつあります。その中で、オーラルフレイルは、加齢に伴う口腔機能の複合的な低下を示す概念として注目されています。
口腔機能の低下は、栄養摂取や身体機能、社会的交流、さらには死亡リスクにも影響を及ぼすことが知られています。しかし、オーラルフレイルと健康寿命との関連を検討した研究はこれまで限られていました。
本研究では、オーラルフレイルおよび歯科受診が高齢者の健康寿命に与える影響を明らかにすることを目的としました。
研究成果
- 参加者のうち、12.0%がオーラルフレイル(Oral Frailty: OF)に該当し、49.5%が過去6ヵ月以内に歯科を受診していました。オーラルフレイルは、「現在歯数の少なさ」「咀嚼困難」「嚥下困難」「口腔乾燥」「発話困難」のうち、3項目以上を有する場合と定義しました。
- オーラルフレイルを有する人は、非該当者に比べて、健康から要介護への移行リスクが1.23倍(95%信頼区間:1.01–1.50)、健康から死亡への移行リスクが1.34倍(95%信頼区間:1.05–1.71)高いことが示されました。
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Royston–Parmar多状態モデルによる推定の結果、65歳時点での健康寿命(HLE)は、男性ではオーラルフレイルを有さない人で23.39年、有する人で21.96年、女性ではそれぞれ24.77年と23.64年でした。
- 定期的に歯科を受診している人は、全ての群で平均して約1年長い健康寿命を有しており、継続的な歯科受診が高齢者の健康維持と自立の促進に寄与する可能性が示唆されました。
社会的インパクト
本研究は、オーラルフレイルが健康寿命を有意に短縮させることを明らかにし、高齢者の健康維持における口腔の重要性を示しました。定期的な歯科受診や早期介入によるオーラルフレイルの予防は、障害の発生を抑え、健康な生活期間を延ばすうえで有効である可能性が示唆されました。これらの知見は、健康長寿社会の実現に向けた公衆衛生政策や地域保健活動の推進に貢献することが期待されます。
今後の展開
今後は、オーラルフレイル予防を推進するための政策整備、定期的な歯科受診の促進、そして地域に根ざした口腔保健活動の強化を通じて、健康寿命の延伸を図ることが重要です。
また、歯科医療と医科医療の連携を一層強化し、日本の超高齢社会において健康的な高齢期を支える体制の構築が求められます。
論文情報
- 掲載誌:
- Geriatrics and Gerontology International
- タイトル:
- Oral Frailty, Dental Visits, and Healthy Life Expectancy:
A 6-year Prospective Cohort among Japanese Older Adults - 著者:
- Safira Khairinisa, Sakura Kiuchi, Yusuke Matsuyama, Masanori Iwasaki, Jun Aida
- DOI:
- 10.1111/ggi.70230
研究者プロフィール
サフィラ カイリニサ Safira Khairinisa
東京科学大学 大学院医歯学総合研究科 歯科公衆衛生学分野 大学院生
研究分野:疫学、歯科公衆衛生学
木内 桜 Sakura Kiuchi
東京科学大学 大学院医歯学総合研究科 歯科公衆衛生学分野 准教授
研究分野:疫学、歯科公衆衛生学
松山 祐輔 Yusuke Matsuyama
東京科学大学 大学院医歯学総合研究科 歯科公衆衛生学分野 准教授
研究分野:疫学、歯科公衆衛生学
岩崎 正則 Masanori Iwasaki
北海道大学 予防歯科学教室 教授
研究分野:疫学、歯科公衆衛生学
相田 潤 Jun Aida
東京科学大学 大学院医歯学総合研究科 歯科公衆衛生学分野 教授
研究分野:疫学、歯科公衆衛生学