高齢者の歯の本数とウェルビーイングの関係を解明

2025年3月17日 公開

歯科補綴物の使用がウェルビーイング向上に寄与する可能性

ポイント

  • ウェルビーイングは、精神的・身体的な健康に加え、幸福感や健康状態、社会的な人間関係などを含む幅広い概念です。
  • 本研究では、日本全国の87,201人の高齢者を対象に、口腔の健康と多面的なウェルビーイングとの関係を検討し、現在の歯の本数および歯科補綴物(入れ歯など)の使用が、それぞれ独立してウェルビーイングと関連していることを世界で初めて明らかにしました。
  • 特に、歯が少ない高齢者において、歯科補綴物の使用を促進することが、全体的なウェルビーイングの向上につながる可能性が示されました。

概要

東京科学大学大学院 医歯学総合研究科 歯科公衆衛生学分野のKewei Wang大学院生、相田潤教授らの研究グループは、日本全国の65歳以上の高齢者87,201人(平均年齢74.87歳、標準偏差(SD)=6.30)のデータを用いた横断研究を実施しました。

幸福度や人生への満足度や目的意識、健康、人間関係などへの満足度を含む多面的なウェルビーイングのスコア(平均±SD)は6.77±1.64(最高スコア10)でした。歯が多い人や歯科補綴物を使用している人は、より高いウェルビーイングスコアを示しました。具体的には、0~9本の歯を持つ人々のうち、歯科補綴物を使用している人は、使用していない人に比べてウェルビーイング指数が0.21ポイント高いことが分かりました(95%信頼区間(95% CI):0.12–0.29、P<0.001)。また、歯科補綴物を使用していない人の中では、20本以上の歯を持つ人のウェルビーイング指数が、0~9本の歯を持つ人よりも0.34ポイント高いことが確認されました(95% CI:0.26-0.42、P<0.001)。これらの結果から、歯科補綴物の使用は、歯の本数が少ないことによるウェルビーイングへの悪影響を有意に緩和することが示されました。

本研究は、日本学術振興会 科学研究費助成事業、厚生労働科学研究費補助金、JST 次世代研究者挑戦的研究プログラムなどの支援を受けて実施され、その成果は2025年2月11日にJournal of Prosthodontic Research(ジャーナル オブ プロストドンティック リサーチ)のオンライン版で発表されました。

背景

人間のウェルビーイングとは、精神的・身体的な健康に加え、幸福感や健康状態、社会的な人間関係などを含む幅広い概念です。口腔の健康が幸福感などの個々の要素に影響を与えることは知られていますが、多面的なウェルビーイングとの関係性については十分に解明されていません。

歯の本数が少ないなど口腔の健康状態が悪いと、高齢者の自尊心や社会的な交流、生活の質に悪影響を及ぼし、多面的なウェルビーイングが低下する可能性があります。一方で、入れ歯などの歯科補綴物を利用することで、この低下を緩和できる可能性があります。

本研究では、日本の高齢者を対象に、口腔の健康(歯の本数および歯科補綴物の使用)と多面的なウェルビーイングとの関連性を調査しました。特に、歯の本数が少ないことが低いウェルビーイングと関連し、歯科補綴物の使用がこの関連を緩和するかどうかを検討しました。

研究成果

本研究には、平均年齢74.87歳(標準偏差(SD)=6.30)の87,201人が参加し、多面的なウェルビーイングのスコア(平均±SD)は6.77±1.64(最高スコア10)でした。歯が多い人や歯科補綴物を使用している人は、より高いウェルビーイングスコアを示しました。

具体的には、0~9本の歯を持つ人のうち、歯科補綴物を使用している人は、使用していない人と比べてウェルビーイング指数が0.21ポイント高いことが分かりました(95% CI:0.12–0.29、P<0.001)。また、歯科補綴物を使用していない人の中では、20本以上の歯を持つ人のウェルビーイング指数が、0~9本の歯を持つ人よりも0.34ポイント高いことが確認されました(95% CI:0.26-0.42、P<0.001)。
さらに、交互作用の検討により、歯科補綴物の使用は、歯の本数が少ないことによるウェルビーイングへの悪影響を有意に緩和することが示されました。

社会的インパクト

本研究は、口腔の健康と多面的なウェルビーイングとの関連性を探る初めての研究です。本研究の結果は、口腔の健康を改善し、歯科補綴物の使用を促進することが、高齢者の全体的なウェルビーイングの向上につながる可能性があることを示唆しています。

また、口腔の健康に焦点を当てた介入が、ウェルビーイングの向上において重要な役割を果たすことが期待されます。

歯科補綴物の利用の有無別の現在は数とウェルビーイングの関係(マルチレベル線形回帰分析で交絡要因を調整後)

今後の展開

本研究の結果を踏まえ、口腔の健康とウェルビーイングの因果関係をより明確にするための研究を今後実施していきたいと考えています。

付記

研究は日本学術振興会科学研究費助成事業、厚生労働科学研究費補助金の支援のもとでおこなわれました。

論文情報

掲載誌:
Journal of Prosthodontic Research
タイトル:
Association between oral health and multidimensional flourishing: A cross-sectional study from Japan Gerontological Evaluation Study (JAGES)
著者:
Kewei Wang, Shiho Kino, Yusuke Matsuyama, Koichiro Shiba, Atsushi Nakagomi, Katsunori Kondo, Kokoro Shirai, Kenji Fueki, Jun Aida.

研究者プロフィール

王 柯煒 Kewei WANG

東京科学大学大学院 医歯学総合研究科 歯科公衆衛生学分野 大学院生
研究分野:疫学、歯科公衆衛生学

木野 志保 Shiho KINO

東京科学大学大学院 医歯学総合研究科 口腔疾患予防分野 教授
研究分野:公衆衛生学、健康格差

松山 祐輔 Yusuke MATSUYAMA

東京科学大学大学院 医歯学総合研究科 歯科公衆衛生学分野 准教授
研究分野:疫学、歯科公衆衛生学

芝 孝一郎 Koichiro SHIBA

ボストン大学公衆衛生大学院 疫学分野 助教
研究分野:疫学、公衆衛生学

中込 敦士 Atsushi NAKAGOMI

千葉大学社予防医学センター 准教授
研究分野:社会疫学、公衆衛生学

近藤 克則 Katsunori KONDO

千葉大学予防医学センター 特任教授
研究分野:社会疫学、健康格差、医療経済・政策学、老年学

白井 こころ Kokoro SHIRAI

大阪大学大学院 医学系研究科 社会医学分野 特任准教授
研究分野:健康心理学、公衆衛生学、社会疫学、老年学

笛木 賢治 Kenji FUEKI

東京科学大学大学院 医歯学総合研究科 咬合機能健康科学分野 教授
研究分野:補綴系歯学

相田 潤 Jun AIDA

東京科学大学大学院 医歯学総合研究科 歯科公衆衛生学分野 教授
研究分野:疫学、歯科公衆衛生学

関連リンク

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東京科学大学大学院 医歯学総合研究科 歯科公衆衛生学分野

大学院生 Wang Kewei

東京科学大学大学院 医歯学総合研究科 歯科公衆衛生学分野

教授 相田 潤

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