余暇活動を始めると、高齢者の死亡・要介護リスクが低下

2024年12月25日 公開

健康寿命を伸ばすカギは「今からでも始められる余暇活動」

ポイント

  • これまでの研究で、余暇活動への参加が死亡および要介護のリスクの低下と関連していることが報告されていました。
  • 余暇活動の有無の変化と死亡・要介護リスクとの関連を調査し、活動の開始がリスクの低下に関連することを世界で初めて示しました。
  • 現在余暇活動を行なっていない場合でも、将来的に始めることで、高齢者の死亡および要介護リスクを減少させる可能性が示唆されました。

概要

東京科学大学(Science Tokyo) 大学院医歯学総合研究科 歯科公衆衛生学分野の増子紗代大学院生、相田潤教授らの研究グループは、余暇活動を開始した高齢者が活動を始めなかった高齢者と比べて、その後6年間における死亡率および要介護リスクが有意に低下していることを示しました。これにより、余暇活動を促進することが、高齢者の健康寿命を延ばし、介護予防や社会的孤立の解消につながる可能性が示唆されました。高齢化が進む現代社会において、これらの知見は政策立案や医療・福祉の分野での具体的な介入策に役立つものと期待されます。

余暇活動

本研究成果は、老年学分野の国際誌Journal of the American Geriatrics Society(ジャーナル・オブ・アメリカン・ジェリアトリックス・ソサイエティ)に、2024年11月22日付でオンライン掲載されました。

  • 2024年10月1日に東京医科歯科大学と東京工業大学が統合し、東京科学大学(Science Tokyo)となりました。

背景

余暇活動は人生を豊かにし、高齢者に多くの健康上の恩恵をもたらします。これまでの研究では、余暇活動への参加が死亡や要介護リスクの低下と関連していることが報告されています。特に、余暇活動の開始・継続・停止が死亡や要介護リスクに与える影響を推計することは、健康寿命を伸ばすための政策立案などに役立つと考えられます。しかし、余暇活動の有無の変化が死亡や要介護リスクにどのような影響を及ぼすかについて直接的に検討した研究はこれまで行われていませんでした。

そこで本研究では、日本人の高齢者を対象に、余暇活動の有無の経時的な変化が死亡および要介護リスクにどのように関連するかを明らかにすることを目的としました。

研究成果

本研究では、65歳以上の自立した高齢者を対象とした日本老年学的評価研究(JAGES)のデータを使用しました。2010年のベースライン調査および2013年のフォローアップ調査の両方に回答した38,125人(男性17,881人、女性20,244人、平均年齢72.8 ± 5.5歳)のデータを解析対象とし、さらに2013年調査以降の6年間の追跡データを分析に活用しました。

2010年と2013年の両方で余暇活動をしていなかった人と、2013年に余暇活動を開始した人を比較すると、2020年までの死亡率はそれぞれ28.6%と21.1%、要介護2以上の発症率は24.6%と18.1%であり、余暇活動を開始した人の方が死亡率および要介護リスクのいずれも低い傾向が見られました。

共変量で調整した結果、2013年に余暇活動を開始した人は、活動を開始しなかった人と比較して、その後6年間の死亡のハザード比が0.82(95% CI, 0.69–0.98)、要介護リスクが0.89(95% CI, 0.79–1.01)と低下していました(図参照)。

以上の疫学研究の結果から、余暇活動を開始することで、活動を開始しなかった場合と比較して、関連する変数を調整した後でもその後6年間の死亡および要介護リスクが低くなることが明らかになりました。

余暇活動を開始した人は、開始しなかった人と比べ、死亡・要介護リスクが低い

図1. 2010年から2013年の余暇活動有無の変化ごとの、2013年調査から6年間の死亡・要介護リスク

社会的インパクト

本研究は、余暇活動を開始することが、現在余暇活動をしていない高齢者の死亡および要介護リスクの低下につながる可能性があることを、世界で初めて示したものです。本研究の結果から、たとえ現在余暇活動を行なっていなくても、将来的に余暇活動を始めることが死亡および要介護リスクの減少に寄与する可能性が明らかになりました。これにより、高齢者の健康寿命を延ばすための具体的な介入策として、余暇活動の推奨が有効であることが示唆されます。

付記

本研究は、日本学術振興会(JSPS)科学研究費助成事業(20H00557、20K10540、21H03153、21H03196、21K17302、22H00934、22H03299、22K04450、22K13558、22K17409、23H00449、23H03117)、厚生労働科学研究費補助金(19FA1012、19FA2001、21FA1012、22FA2001、22FA1010、22FG2001、23FA1022)、OPERA(JPMJOP1831)、健康・体力づくり事業財団助成金、TMDU重点研究領域助成、公益財団法人富徳会研究助成などの支援のもとでおこなわれたものです。

論文情報

掲載誌:
Journal of the American Geriatrics Society
論文タイトル:
Changes in leisure activity, all-cause mortality, and functional disability in older Japanese adults: The JAGES cohort study
著者:
Masuko S, Matsuyama Y, Kino S, Kondo K, Aida J.

研究者プロフィール

増子 紗代 Sayo MASUKO

東京科学大学 大学院歯科公衆衛生学分野 大学院生
研究分野:歯科疫学、社会疫学

相田 潤 Jun AIDA

東京科学大学 大学院歯科公衆衛生学分野 教授
研究分野:歯科疫学、社会疫学

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東京科学大学 大学院医歯学総合研究科 歯科公衆衛生学分野

教授 相田 潤

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