がん死亡の健康格差につながる要因を検証

2026年6月29日 公開

喫煙、健康診断受診、身体活動が健康格差の一部を説明

ポイント

  • 日本の高齢者4万3千人超を7年間追跡調査し、教育歴とがん死亡との関連、およびその背景にある健康習慣の影響を検証しました。
  • 教育歴が短い人ほど、全がん死亡、気管・肺がん死亡、食道がん死亡のリスクが高いことが明らかになりました。
  • 教育歴とがん死亡との関連の一部は、喫煙、健康診断の受診、身体活動(歩行時間)によって説明されることが示され、健康習慣への介入の重要性が示唆されました。

概要

がん死亡には、社会経済的要因による健康格差が存在することが知られています。しかし、そのメカニズムは十分には明らかになっていませんでした。そこで、東京科学大学(Science Tokyo)医歯学総合研究科 歯科公衆衛生学分野の木内桜助教、相田潤教授、松山祐輔准教授らの研究グループは、日本の自立高齢者43,478名を対象に7年間の追跡調査を行いましたが、その追跡期間中に対象者の5.1%ががんにより亡くなりました。その調査の中で、教育歴(学校教育を受けた年数)と全がん死亡および部位別がん死亡との関連、さらにその関連を健康習慣が媒介するかどうかを検討しました。分析の結果、教育歴が短いことは全がん死亡リスクの上昇と関連していることが示されました(性・年齢調整ハザード比=1.27)。また、気管・肺がん死亡および食道がん死亡についても、同様の関連が認められました。さらに、教育歴と全がん死亡との関連については、喫煙歴が5.6%、健康診断の受診が8.0%、歩行時間が7.1%をそれぞれ媒介していることが明らかになりました。

本研究の結果から、社会経済的要因によるがん死亡の格差は、健康習慣によって一部説明されることが明らかになりました。禁煙支援や有効性の高い検診へのアクセス改善に加え、身体活動の維持につながる社会参加の機会を促進するなど、健康習慣に着目した公衆衛生学的介入の重要性が示唆されました。

本研究成果は、2026年6月6日付で「Journal of Epidemiology」誌に掲載されました。

イメージ画像

背景

がんによる死亡には、社会経済的要因による健康格差が存在することが知られていますが、そのメカニズムは十分には明らかになっていませんでした。本研究では健康習慣に着目し、教育歴と全がん死亡および部位別がん死亡との関連、さらにその媒介要因について検討しました。

本研究では、日本老年学的評価研究(JAGES)の調査に回答した2010年時点で65歳以上の自立した高齢者を対象として、教育歴(学校教育を受けた年数)と健康習慣をベースライン時に調査し、その後7年間にわたり、がん死亡の発生を追跡しました。さらに、厚生労働省から取得した死因別死亡データと結合し、教育歴ごとのがん死亡のリスクを推定するとともに、その関連を喫煙歴、飲酒歴、健康診断の受診、野菜・果物の摂取、歩行時間などの健康習慣がどの程度媒介しているかを検討しました。

研究成果

  1. 解析対象には43,478名が含まれ、平均年齢は73.7歳、男性の割合は46.6%でした。7年間の追跡期間中に、対象者の5.1%ががんにより死亡しました。
  2. 教育歴が短いことは、全がん死亡のリスクの上昇と関連していました(性・年齢調整ハザード比=1.27)。また、気管・肺がん死亡および食道がん死亡についても、同様の関連が認められました。
  3. さらに、教育歴と全がん死亡との関連について、喫煙歴が5.6%、健康診断の受診が8.0%、歩行時間が7.1%をそれぞれ媒介していることが明らかになりました。
図. 教育歴とがん死亡との関連を健康習慣が媒介する割合
*p<0.05 有意差が見られた変数の割合を記載

社会的インパクト

本研究から、教育歴が短いことは、全がん死亡、気管・肺がん死亡、および食道がん死亡のリスク上昇と関連していることが明らかになりました。また、これらの関連の一部は健康習慣によって媒介されていることが示されました。

これらの結果から、禁煙支援や、喫煙歴のある人に対する肺がん検診をはじめとする有効性の高い検診へのアクセス改善、さらに身体活動の維持につながる社会参加の機会を促進など、健康習慣に着目した公衆衛生学的介入の重要性が示唆されました。

今後の展開

本研究では、がんの種類によっては死亡者数が少なく、十分な解析が難しかったものもありました。今後は、より大規模な対象集団を用いるとともに、長期間の追跡データに基づいた検討を進めることで、教育歴とがん死亡との関連について、さらに詳細な解明が期待されます。

論文情報

掲載誌:
Journal of Epidemiology
タイトル:
Educational inequalities in all and site-specific cancer mortality: Mediation analysis of health behaviors from a 7-year cohort study in Japan
著者:
Kiuchi S, Matsuyama Y, Ojima T, Saito M, Kondo K, Osaka K, Aida J.

研究者プロフィール

木内 桜 Sakura Kiuchi

東京科学大学 医歯学総合研究科 歯科公衆衛生学分野 助教
研究分野:疫学、歯科公衆衛生学

松山 祐輔 Yusuke Matsuyama

東京科学大学 医歯学総合研究科 歯科公衆衛生学分野 准教授
研究分野:疫学、歯科公衆衛生学

尾島 俊之 Toshiyuki Ojima

浜松医科大学 医学部 医学科 健康社会医学講座 教授
研究分野:疫学、公衆衛生学

斉藤 雅茂 Masashige Saito

日本福祉大学 社会福祉学部 社会福祉学科 教授
研究分野:疫学、公衆衛生学

近藤 克則 Katsunori Kondo

千葉大学予防医学センター 特任教授
研究分野:社会疫学、健康格差、医療経済・政策学、老年学

小坂 健 Ken Osaka

東北大学 大学院歯学研究科 国際歯科保健学分野 教授
研究分野:疫学、公衆衛生学

相田 潤 Jun Aida

東京科学大学 医歯学総合研究科 歯科公衆衛生学分野 教授
研究分野:疫学、歯科公衆衛生学

関連リンク

お問い合わせ

東京科学大学 医歯学総合研究科 歯科公衆衛生学分野
助教 木内 桜

取材申し込み

東京科学大学 総務企画部 広報課