歯の喪失が健康寿命の格差に与える影響を解明

2026年3月25日 公開

高齢者大規模追跡研究により格差への寄与と影響を受けやすい集団を特定

ポイント

  • 全国の高齢者を対象とした大規模縦断データを分析し、歯の喪失と健康寿命・死亡との関係を検証。
  • 社会経済状況が低い人ほど要介護リスクや死亡リスクが高いという健康格差の約12%が歯の喪失によって説明されることを明らかにした(研究1)。
  • 歯の喪失による死亡リスクの上昇は一様ではなく、男性、心疾患を有する人、抑うつ症状のある人で特に強い影響が認められた(研究2)。
  • 口腔の健康が、高齢者の健康寿命の延伸だけでなく、健康格差の縮小にも重要な役割を果たすことを示した。

概要

東京科学大学(Science Tokyo) 大学院医歯学総合研究科 歯科公衆衛生学分野の松山祐輔准教授、相田潤教授らの研究グループは、全国の65歳以上の高齢者を対象とした大規模追跡データを分析し、歯の喪失が高齢者の健康寿命や死亡とどのように関係するかを検証しました。

(研究1)約48,000人を対象とした研究の結果、歯の喪失は、要介護リスクや死亡リスクにみられる健康格差の約12%を説明することが分かりました。これは抑うつ症状に次いで2番目に大きな寄与であり、社会経済的に不利な人ほど歯を失いやすいという口腔の健康格差が関係していることが明らかになりました。

(研究2)約69,000人を対象とした研究の結果、歯が20本未満の高齢者では、死亡リスクが3.2%ポイント高いことが確認されました。さらに、機械学習を用いた解析により、この影響は一部の人で特に大きく、男性、心疾患を有する人、抑うつ症状のある人では、死亡リスクの上昇がより顕著であることが示されました。

これらの研究成果は、2026年1月10日付の「Journal of Epidemiology」(研究1)および3月15日付の「Journal of Dental Research」(研究2)に早期公開版として掲載されました。

背景

歯の喪失が高齢者の要介護リスクや死亡リスクと関連することは、これまでの研究により報告されてきました。しかし、所得や教育歴などの社会経済的要因によって、要介護状態や死亡に至る時期に差が生じる「健康格差」に対して、歯の喪失がどの程度寄与しているのか、また歯の喪失による死亡リスク上昇の大きさはすべての人で同じなのか、あるいは特定の人でより強いのかについては、十分に検討されていませんでした。

本研究では、全国の高齢者を追跡した日本老年学的評価研究(JAGES)の調査データを用いて、要介護リスクや死亡リスクに対する歯の喪失の寄与を多角的に検証しました。

研究成果

研究1では、48,474人の高齢者を9年間追跡したデータを分析し、社会経済状況と要介護状態および死亡との関連において、歯の喪失を含む11の生活習慣・健康要因がどの程度寄与しているのかを統計的に検証しました。

その結果、社会経済的に不利なほど要介護や死亡リスクが高く、その格差の約12%が歯の喪失によって説明されることが分かりました(図1)。これは抑うつに次いで2番目に大きい値であり、歯の喪失にみられる顕著な健康格差がその背景にあることが示されました(図2)。

図1. 死亡および要介護の健康格差に対する各リスク因子の寄与。n = 48,474。
図2. 各リスク因子の健康格差および要介護や死亡との関連。n = 48,474。

研究2では、同調査に参加した69,265人のデータを用い、歯が20本未満であることが死亡に与える影響を分析しました。44項目の背景要因を含めた機械学習による解析の結果、歯の喪失は平均的には死亡リスクを3.2%ポイント上昇させていましたが、その影響には明確な個人差が存在することが明らかになりました。男性、心疾患を有する人、抑うつ症状のある人では、歯の喪失による死亡リスクの上昇が特に大きく、最大で5%ポイント以上に達する集団も確認されました(図3)。

図3. 性別、心疾患、うつ症状ごとの歯の喪失の死亡リスクへの影響(パーセント・ポイント)。n = 69,265。44項目の背景要因を含めた分析の結果、歯の喪失による死亡リスク上昇は、女性で心疾患や抑うつなしの人では2.4パーセント・ポイントだが、男性で心疾患と抑うつありの人では5.4パーセント・ポイントだった。

社会的インパクト

本研究により、歯の喪失が健康寿命の格差に寄与する重要な要因であること、ならびにその影響が脆弱な高齢者集団で強い可能性が示されました。これらの結果は、口腔の健康が健康寿命の延伸およびその格差縮小において重要な役割を果たすことを示しています。

付記

本研究は、日本学術振興会科学研究費助成事業(20H00557、20K10540、21H03153、21H03196、21K17302、21K19635、22H00934、22H03299、22K04450、22K13558、22K17409、22K17285、23H00449、23H03117、24K02658)および厚生労働科学研究費補助金(19FA1012、19FA2001、21FA1012、22FA2001、22FA1010、22FG2001、23FA1022)などの支援を受けて実施されました。

論文情報

(研究1)

掲載誌:
Journal of Epidemiology
タイトル:
Tooth loss and socioeconomic inequalities in disability and mortality: a large-scale prospective cohort study in Japan
著者:
Yusuke Matsuyama, Richard G. Watt, Jun Aida

(研究2)

掲載誌:
Journal of Dental Research
タイトル:
High-Dimensional Effect Heterogeneity of Tooth Loss on Mortality
著者:
Yusuke Matsuyama, Sakura Kiuchi, Takafumi Yamamoto, Jun Aida

研究者プロフィール

松山 祐輔 Yusuke Matsuyama

東京科学大学 医歯学総合研究科 歯科公衆衛生学分野 准教授
研究分野:歯科疫学、公衆衛生学

相田 潤 Jun Aida

東京科学大学 医歯学総合研究科 歯科公衆衛生学分野 教授
研究分野:歯科疫学、公衆衛生学

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准教授 松山 祐輔

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