腎生検前の出血リスクを4項目で予測する新スコア「K-BIT」を開発
全国約7.9万例の解析から、患者の半数以上を超低リスク群として識別
ポイント
- 全国78,817例の腎生検データを解析し、腎生検前の臨床情報から出血リスクを予測する新たなスコア「K-BIT(Kidney biopsy Bleeding Index for Triage)」を開発しました。
- K-BITは、年齢、生検前の臨床診断、BMI、併存症の4項目のみで評価でき、血液検査や画像検査を必要としません。
- K-BITにより、患者の55.4%をVery-Low Risk(超低リスク)群として識別でき、この群の出血率は0.37%でした。
- K-BITを用いることで、腎生検前の患者説明や入院期間の個別化、医療資源の効率的な活用につながることが期待されます。Web計算ツール「K-BIT Calculator」も公開しました。
概要
東京科学大学(Science Tokyo)医歯学総合研究科 腎臓内科学分野の萬代新太郎准教授(テニュアトラック)、鈴川礼奈大学院生(MD-PhDコース3年)らの研究グループは、日本赤十字社 武蔵野赤十字病院の高橋大栄腎臓内科部長、東京科学大学 国際医工共創研究院 M&Dデータ科学センターの長谷川嵩矩准教授、東京科学大学 医療政策情報学分野の伏見清秀教授(当時、現 横浜市立大学データサイエンス研究科ヘルスデータサイエンス専攻特任教授)との共同研究により、全国規模のDPCデータベース[用語1]を用いて、腎生検を受けた78,817例を解析し、腎生検前に取得可能な臨床情報のみから出血リスクを予測するスコアリングシステム「K-BIT」を開発しました(図1)。
腎生検は腎疾患の診断に不可欠な検査ですが、出血合併症のリスクがあるため、多くの医療機関では入院下で実施されています。近年、海外を中心に日帰りでの腎生検も行われていますが、どの患者であれば安全に短期間の観察で対応できるかを判断するための実用的なツールは限られていました。K-BITを用いることで、患者の約半数(55.4%)を、出血率0.37%と低いVery-Low Risk群として識別することが可能となりました。さらに、本スコアを用いたシミュレーション解析では、低リスク患者に対して入院期間を個別化することで、医療資源の効率的な活用につながる可能性が示されました。
本成果は、9月30日に、国際腎臓学会(ISN)の公式誌の1つである「Kidney International Reports」誌に掲載されました。
背景
腎生検は、腎疾患の確定診断に不可欠な検査です[参考文献1]。学校検尿の普及や腎臓病診療の進歩により、慢性糸球体腎炎による透析導入は過去半世紀で大きく減少しましたが、その背景には、腎生検による正確な病理診断が重要な役割を果たしてきたと考えられます。
一方、腎生検後には、まれに出血合併症が発生し、輸血や血管塞栓術などを必要とする重篤な症例もあります[参考文献2]。そのため、腎生検をより安全に実施することが重要な課題となっています。
既存の出血リスク予測モデルの多くは、血液検査や画像検査を必要とするため、外来受診の時点で簡便にリスクを評価することは困難でした。また、日本では腎生検後に数日間の入院観察を行うことが一般的であり[参考文献3]、出血イベントの発生時期やリスク因子を詳細に解析できる環境が整っています。
研究成果
研究グループは2016年から2021年までの全国DPCデータベースを用いて、腎生検を受けた78,817例を解析しました。その結果、以下の4項目が出血リスクの予測に重要であることを明らかにしました。
- 年齢
- 腎生検前の臨床診断
- BMI
- Charlson Comorbidity Index(CCI)
これら4項目を点数化し、0~9点で評価する新たなリスクスコア「K-BIT(Kidney biopsy Bleeding Index for Triage)」を開発しました(図2)。
検証コホート(19,622例)では、K-BITスコアに基づき、患者を以下の3群に分類することができました。
- K-BIT 0~2点:Very-Low Risk(超低リスク群、出血率0.37%)
- K-BIT 3点:Current-Practice-Equivalent Risk(標準リスク群、出血率1.52%)
- K-BIT 4点以上:Moderate-to-High Risk(中~高リスク群、出血率3.56%)
特に、Very-Low Risk群は全体の55.4%を占めており、半数以上の患者を出血リスクが極めて低い群として識別できることが示されました。また、出血イベントの約69%は、腎生検の当日または翌日に発生していました。
さらに、シミュレーション解析では、全体の55.4%を占めるVery-Low Risk群(K-BIT 0~2点)に早期退院戦略を適用した場合、出血率0.37%という低い水準を保ちながら、100患者あたり332入院日を削減できる可能性が示されました。
社会的インパクト
本研究により、腎生検前に得られる限られた臨床情報のみから、出血リスクを予測することが示されました。K-BITは血液検査や画像検査を必要とせず、外来診療の段階で利用できるため、患者ごとのリスクに応じた説明や、入院管理の個別化に役立つことが期待されます。
また、将来的には、腎生検の安全性を確保しながら医療資源をより効率的に活用することが可能となり、腎生検診療の標準化や、低リスク患者を対象とした外来腎生検の普及にもつながる可能性があります。
今後の展開
本研究で開発したK-BITは、血液検査の結果を必要とせず、腎生検前の外来診療の段階で簡便に出血リスクを評価できることが特徴です。研究グループは、本研究成果の社会実装の一環として、Web計算ツール「K-BIT Calculator」を公開しました。
K-BITは、腎生検前の患者への説明や入院期間の個別化、外来腎生検の導入検討、さらには医療資源の効率的な活用などへの応用が期待されます。
一方、本研究は日本全国の実臨床データを用いた解析であり、海外の医療環境や異なる患者集団における有用性については、今後さらなる検証が必要です。今後は、外部コホートを用いた検証を進めるとともに、腎生検診療の標準化や、より安全で効率的な腎生検医療の実現につなげていく予定です。
付記
本研究は、厚生労働行政推進調査事業費補助金(Seisaku-Sitei-24AA2006、研究代表者:伏見清秀教授)およびJST SPRING(JPMJSP2180、鈴川礼奈)の支援を受けて実施されました。
参考文献
- [参考文献1]
- Ubara Y, Kawaguchi T, Nagasawa T, et al. Kidney biopsy guidebook 2020 in Japan. Clin Exp Nephrol. 2021;25:325-364.
- [参考文献2]
- Poggio ED, McClelland RL, Blank KN, et al. Systematic Review and Meta-Analysis of Native Kidney Biopsy Complications. Clin J Am Soc Nephrol. 2020;15:1595-1602.
- [参考文献3]
- Kawaguchi T, Nagasawa T, Tsuruya K, et al. A nationwide survey on clinical practice patterns and bleeding complications of percutaneous native kidney biopsy in Japan. Clin Exp Nephrol. 2020;24:389-401.
用語説明
- [用語1]
- DPCデータベース:Diagnosis Procedure Combination(診断群分類)に基づく、全国規模の診療報酬・入院医療情報を収集したデータベース。本研究で用いたデータには、1,000を超える病院の診療情報が収録されており、日本の入院患者の半数以上をカバーしています。
論文情報
- 掲載誌:
- Kidney International Reports
- タイトル:
- Creation of a Pre‑biopsy Clinical Risk Score for Major Bleeding After Kidney Biopsy
- 著者:
- Rena Suzukawa, Daiei Takahashi, Takanori Hasegawa, Shunsuke Inaba, Ken Ikenouchi, Yuta Nakano, Yurina Yataka, Mizuki Watada, Motoki Hoshino, Wakana Shoda, Tamaki Kuyama, Eisei Sohara, Kiyohide Fushimi, Shinichi Uchida, and Shintaro Mandai
研究者プロフィール
萬代 新太郎 Shintaro Mandai
東京科学大学 医歯学総合研究科 腎臓内科学 准教授(テニュアトラック)
研究分野:腎臓、心腎血管老化、細胞外小胞
鈴川 礼奈 Rena Suzukawa
東京科学大学 医歯学総合研究科 腎臓内科学 大学院生
研究分野:腎臓
高橋 大栄 Daiei Takahashi
日本赤十字社武蔵野赤十字病院 腎臓内科部長
研究分野:腎生検、慢性腎臓病、腎疾患臨床研究
長谷川 嵩矩 Takanori Hasegawa
東京科学大学 国際医工共創研究院 M&Dデータ科学センター 准教授
研究分野:医療データサイエンス、統計科学、ゲノム解析
関連リンク
お問い合わせ
東京科学大学 医歯学総合研究科 腎臓内科学分野
准教授 萬代 新太郎
- smandai.kid@tmd.ac.jp
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- 03-5803-5214
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- 03-5803-5215