水素化物と光を活用したアンモニア合成の新原理を発見

2026年3月12日 公開

可視光照射下、200℃以下でのアンモニア生成を促進

ポイント

  • ランタン酸水素化物を担体とした金属ナノ粒子触媒を用いることで、可視光照射下でアンモニア合成が大幅に促進されることを発見
  • 格子中の水素化物イオンが光励起により、中性水素と電子に変換され、窒素の活性化と水素化を同時に促進
  • 高温高圧が必要だったアンモニア合成を、より低温で実現する新しい設計指針を提示

概要

東京科学大学(Science Tokyo)物質理工学院 材料系の阿部涼介大学院生(当時)、 同 総合研究院 元素戦略MDX研究センターの北野政明教授、細野秀雄特命教授らは、物質・材料研究機構(NIMS)の中尾琢哉博士、飯村壮史博士、山梨大学の福井慧賀助教らの研究グループと共同で、ランタン酸水素化物(LaH3-2xOx[用語1]に金属ナノ粒子を担持した触媒が、可視光照射下で低温でのアンモニア合成活性を大幅に向上させることを見いだしました。

アンモニアは肥料や化学品の基幹原料であると同時に、水素を高密度で貯蔵できる次世代エネルギーキャリア[用語2]としても注目されています。しかし、現在主流のハーバー・ボッシュ法では、約400–500℃、10–30 MPaという高温高圧条件が必要であり、エネルギー消費量ならびにCO2排出の削減が求められています。

本研究では、LaH3-2xOxに含まれる格子水素化物イオン(H[用語3]が光励起され、電子(e)と中性水素(H0)を生成することを明らかにしました。生成した電子は金属触媒表面へ移動して窒素分子(N2)の活性化を促進し、中性水素は窒素種の水素化反応を助けます。この二重の役割により、アンモニア合成の活性化エネルギー[用語4]が大幅に低下し、低温条件での反応が可能となります。

本成果は、2月19日付(現地時間)の米国科学誌「Journal of the American Chemical Society」オンライン速報版に公開されました。

背景

アンモニアは、世界の食料生産を支える肥料の原料であると同時に、水素を高密度で貯蔵・輸送できる水素エネルギーキャリアとしても注目されています。現在のアンモニア製造は、約400–500℃、10–30 MPaという高温高圧条件で行われるハーバー・ボッシュ法に依存しており、この手法によるアンモニア合成は世界のエネルギー消費量の約1–2%、CO2排出量の約1%を占めると報告されています。このため、アンモニア合成の低温・低圧化は、カーボンニュートラル社会の実現に向けた重要な課題です。

近年、従来よりも低温でアンモニア合成が可能な触媒開発が世界中で進められており、室温付近でも機能する触媒も報告されています。一方で、200℃以下の低い反応温度では、400–500℃の温度条件下と比較するとアンモニア生成速度は数十分の一から百分の一以下に低下してしまいます。そのため熱エネルギーのみに依存した反応促進には限界があり、低い温度でも反応を加速する手法の開発が求められてきました。本研究では、格子中の水素化物イオン(H)が光によって電子と中性水素に変換されるという現象に着目し、この性質をアンモニア合成反応に直接利用するという新しいコンセプトの実証を目指しました。

研究成果

北野教授らの研究グループは、ランタン酸水素化物(LaH3-2xOx)の格子H量が増加するにつれて試料の色が白色から薄緑色へと変化し、紫外可視吸収スペクトルの吸収端が可視光領域へシフトすることに着目しました(図1)。実際に、La2O3の吸収端が約250 nmであるのに対し、LaH2.5O0.25の吸収端は約470 nmにまで長波長化していることを確認しました。このように、Hを格子中に導入することにより可視光を吸収するようになるため、可視光照射下において触媒機能が発現する可能性があると考えました。

図1. LaH3-2xOxの写真と紫外可視吸収スペクトル

電子状態解析の結果、La2O3では主にO 2p軌道からなる価電子帯(VB)[用語5]からLa 5d軌道からなる伝導帯(CB)[用語6]へのバンドギャップ励起[用語7]によって光吸収が起こるのに対し、LaH3-2xOxではH 1s軌道がO 2p軌道より高エネルギー側に位置することで価電子帯上端が上昇し、バンドギャップが狭くなっていることが明らかになりました。

光照射下での反応解析の結果、LaH3-2xOxに光を照射すると水素ガスが放出されることが確認されました。これは、格子水素化物イオン(H)が光励起により電子(e)と中性水素(H0)へと変換され、生成したH0同士が結合して水素分子(H2)を形成していることを示唆しています。そこで、LaH3-2xOxを担体とし、その表面にルテニウム(Ru)ナノ粒子を担持した触媒に対して、窒素および水素ガス雰囲気下で405 nmのLED光を照射したところ、暗条件と比較してアンモニア生成速度が一桁以上向上し(図2左)、反応の活性化エネルギーも約18 kJ mol−1低下することが分かりました。光照射下では、LaH3-2xOx中のH⁻が光励起によりeとH0へと変換され、生成した電子はRuナノ粒子へ移動してRu表面での窒素分子(N2)の活性化を促進する一方、中性水素H0はRu表面上の窒素種の水素化反応を助ける役割を果たします(図2右)。反応速度論解析の結果からも、通常の加熱条件下と光照射下では反応機構が大きく異なることが確認されました。このように、本触媒系では電子供与と水素供与が光照射によって同時に促進される新しい反応機構が機能しています。

図2. (左)Ru/LaH2.5O0.25触媒による光照射下および暗条件下でのアンモニア合成(反応温度:180℃)。(右)Ru/LaH2.5O0.25触媒表面上における光照射時の励起(H0生成)メカニズム。

一方、光触媒としてよく知られているTiO2にRuを担持した触媒では、光照射下でもアンモニア合成活性を示さないことが分かりました。さらに、格子にHイオンを有するCa2NHのような物質であっても、価電子帯上端がH 1s軌道ではなくN 2p軌道からなる場合には、光促進効果はほとんど発現しません。これらの結果から、格子中にHイオンを有しかつ価電子帯上端がH 1sからなる物質が、光照射下での反応促進に重要であることを明らかにしました。

さらに、本研究では金属種の違いによる光促進効果を系統的に調査し、従来の熱触媒反応では活性が低いとされてきたニッケル(Ni)担持触媒が、光照射下では最も高いアンモニア合成活性を示すことを見いだしました(図3)。これは、光照射によって反応経路や律速過程[用語8]が変化し、従来の「金属―窒素結合強度」に基づく触媒設計指針が当てはまらなくなることを示唆しています。以上の成果により、格子水素化物イオンを有する材料を活用して光エネルギーを化学反応の駆動力として利用するという新しいアンモニア合成触媒設計の概念が提示されました。本成果は、低温・低圧条件で作動するアンモニア合成プロセスの実現に向けた重要な基盤技術となることが期待されます。

図3. (左)LaH2.5O0.25上に各種金属ナノ粒子を固定した触媒による光照射下でのアンモニア合成活性(反応温度:103℃)。(右)LaH2.5O0.25上に各種金属ナノ粒子を固定した触媒による暗条件下でのアンモニア合成活性(反応温度:180~215℃)。

社会的インパクト

本研究は、光エネルギーを利用してアンモニア合成を促進する新原理を示したもので、再生可能エネルギーと親和性の高い次世代アンモニア製造技術への道を拓きます。将来的には、太陽光を活用した小規模・分散型アンモニア製造や、地域でエネルギーを生産・消費する「地産地消型」エネルギーシステムの実現が期待されます。

今後の展開

本研究は、可視光を利用した低温アンモニア合成触媒の新たな設計指針を示すものですが、光利用効率にはなお改善の余地があり、さらなる高性能化に向けた材料設計と反応機構の高度化が不可欠です。これらの課題を克服することで、将来的には再生可能エネルギーと組み合わせた持続可能なアンモニア製造プロセスの実現につながることが期待されます。

付記

今回の研究成果は、科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業さきがけ「電子やイオン等の能動的制御と反応」(JPMJPR18T6、JPMJPR19T1)、創発的研究支援事業(JPMJFR203A)、未来社会創造事業(JPMJMI21E9)、科学研究費助成事業(JP22H00272、JP24H02204、JP24H00390)の支援によって実施されました。

用語説明

[用語1]
ランタン酸水素化物(LaH3-2xOx:ランタン(La)の酸化物のうち、酸素の一部が水素化物イオン(H)で置換された化合物。
[用語2]
エネルギーキャリア:エネルギーを使いやすい形で、輸送・貯蔵できる役割を持つ媒体。
[用語3]
水素化物イオン(H:水素原子が電子を1つ受け取り、負の電荷(−1)を持った状態のイオン。
[用語4]
活性化エネルギー:反応の出発物質の基底状態から遷移状態に励起するのに必要なエネルギーのことであり、このエネルギーが小さいほど、その反応は容易になる。反応中に触媒が存在することで、活性化エネルギーを下げることが可能。
[用語5]
価電子帯:多くの原子から構成される物質において、原子間の結合を担う価電子で満たされたエネルギー領域。
[用語6]
伝導帯:電子が原子に束縛されず自由に動き回れるエネルギー領域。普段は電子がなく空のエネルギー帯であるが、光や熱エネルギーにより価電子帯から電子が伝導帯に移動すると電流が流れるようになる。
[用語7]
バンドギャップ励起:物質に光などのエネルギーを与えることで、価電子帯にある電子が、伝導帯へと飛び移る現象。
[用語8]
律速過程:最も遅い反応ステップのことであり、化学反応全体の速度を決定する。

論文情報

掲載誌:
Journal of the American Chemical Society
タイトル:
Photoinduced Ammonia Synthesis over Lanthanum Oxyhydride- Supported Metal Nanoparticle Catalysts(ランタン酸水素化物担持金属ナノ粒子触媒上での光誘起アンモニア合成)
著者:
Ryosuke Abe(阿部涼介)、Takuya Nakao(中尾琢哉)、Keiga Fukui(福井慧賀)、Soshi Iimura(飯村壮史)、Kiya Ogasawara(小笠原気八)、Masato Sasase(笹瀬雅人)、Masayoshi Miyazaki(宮﨑雅義)、Hideo Hosono(細野秀雄)、Masaaki Kitano(北野政明)

研究者プロフィール

北野 政明 Masaaki Kitano

東京科学大学 総合研究院 元素戦略MDX研究センター 教授
研究分野:触媒化学、材料科学

北野 政明 Masaaki Kitano

細野 秀雄 Hideo Hosono

東京科学大学 総合研究院 元素戦略MDX研究センター 特命教授
東京科学大学 栄誉教授
研究分野:新規無機電子機能材料(半導体、超伝導体、触媒、発光材料など)

細野 秀雄 Hideo Hosono

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