液晶性発光色素により薄膜で実装レベルの円偏光発光を実現

2026年3月12日 公開

オプトエレクトロニクス分野への応用に期待

ポイント

  • 高濃度の液晶性色素を用いたコレステリック液晶を持いて、薄膜でも実装レベルの円偏光を実現
  • 円偏光発現のメカニズムの解明にも貢献
  • 3Dディスプレイやセキュリティ技術などの光量子技術への応用に道

概要

東京科学大学(Science Tokyo) 物質理工学院 応用化学系の飯田優斗大学院生、小西玄一准教授、京都大学 大学院工学研究科 高分子化学専攻の権正行助教、田中一生教授、関西学院大学 工学部の吉田浩之准教授らの共同研究チームは、高濃度の液晶性発光色素により構成されたコレステリック液晶[用語1]を用いて、液晶層の膜厚が従来の10分の1程度のデバイスに実装可能なレベルの円偏光発光(CPL)[用語2]を実現しました。

コレステリック液晶は、分子がらせん状に配列した液晶場であり、特定の波長域の円偏光のみを選択的に反射する「選択反射[用語3]」という光学特性を示します。カナブンの美しい金属光沢もこの選択反射に由来します。近年、コレステリック液晶中に発光色素を微量添加したCPLが盛んに研究され、次世代のセンシング技術や光通信技術への応用が期待されています。しかし、CPLは発光効率が高い一方で、外部刺激による発光のオン・オフや光の発信方向制御に必要な応答速度が遅いという課題がありました。そこで、液晶層を可能な限り薄く動きやすくする必要性が指摘されてきました。

本研究チームは、「液晶性を付与した有機π電子系[用語4]の発光色素」を開発し、これを加えてコレステリック液晶を構築すれば、発光および選択反射の大幅な向上が期待でき、液晶層の薄膜化が実現できると考えました。さらにモデルを構築し、円偏光発光のメカニズムからCPLの値を高める因子を同定しました。実際に、研究チームが最近発表した、汎用液晶に混和性の高い液晶性蛍光色素を活用し、発光色素を約50%の高濃度で含むコレステリック液晶を作製したところ、2 μmという従来の10分の1程度の薄膜で高性能のCPLを達成しました。さらに、フェルスター型蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)[用語5]を利用することで、3原色(RGB)を発現することにも成功しています。

これらの結果は、CPLの発現機構の基礎的理解に貢献するとともに、円偏光を利用した不可視インクや円偏光性LEDなど、次世代の情報セキュリティ技術の根幹となる光学材料や素子開発につながるものです。本成果は、2月27日(現地時間)に、Wiley社が発行する凝集体科学・材料分野の国際学術誌「Aggregateインパクトファクター13.7)」のオンライン版に先行公開されました。

図1. 本研究の概要

背景

円偏光発光(CPL)は、左回りまたは右回りで進む光であり、次世代エレクトロニクス材料や生命科学への応用が期待されています。CPLの性能は、発光非対称因子glum[用語6]によって評価され、絶対値|glum|(最大値2)の大きな純度の高い円偏光が求められています。実装に資するCPLとして期待されている候補の1つがコレステリック液晶です。コレステリック液晶は分子がらせん状に配列した構造を持ち、その構造に応じて特定の円偏光のみを反射する特性(選択反射)を持ちます。(図2)この液晶場にらせんのピッチと同程度の発光波長の発光体を添加することで、大きな|glum|が得られます。一方、3Dディスプレイのように電場などの外部刺激により円偏光の性質を変化させる動的なデバイスでは、コレステリック液晶層を薄くする必要があります。しかし、液晶層を薄くすると|glum|が顕著に低下するという課題があり、薄膜化と大きい|glum|の両立は困難でした。加えて、この現象の詳細なメカニズムについてはこれまで十分に解明されていませんでした。

図2. コレステリック液晶のらせん構造

研究成果

従来の研究では、発光体の濃度が低く、複屈折[用語7]も小さい液晶系が用いられていました。研究チームは、(1)光の吸収量が多く、(2)複屈折の大きなコレステリック液晶層を作製できれば、薄膜化と高い|glum|の両立が可能であると予測しました。そのためには、発光体の高濃度化が不可欠でした。そこで、独自に開発してきた液晶性発光色素NCBに着目しました。NCBは「発光」と「液晶」の2つの機能をあわせ持つため、発光体自体が液晶場を形成する一員になります。この分子を用いることで、発光体濃度を約50 wt%にまで高められる新規の液晶混合系の開発に成功しました。

図3. 本研究で用いた液晶混合系の構成分子の分子構造

発光体濃度が4.6 wt%と低い試料(試料1)と48.5 wt%と高い試料(試料2)についてCPL特性を比較測定しました。(図4)試料1では、液晶層を薄くすると|glum|は大幅に低下しました。一方で、試料2では薄くしても|glum|はほとんど低下せず、実装可能なレベルを維持しました。結果として、発光体の濃度を高めることで薄膜化と大きい|glum|の両立に成功しました。重要なのは、液晶層の複屈折を大きく、光の取り込み量を多くすると、薄膜化と高い|glum|の両立が可能になる点です。

図4. 液晶層の厚みに対する試料1(A)および試料2(B)のglumの変化

研究チームは、このメカニズムについて検討するとともに、光学理論と照らし合わせながら詳しく解析して定式化を行うことで、CPLを用いた円偏光発光素子の設計指針を示しました。

さらに、緑色発光色素クマリン6をドープし、フェルスター型蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)を介してNCBのエネルギーをクマリン6へ移動させました。その結果、CPL特性を維持したまま、発光色をNCB由来の青色からクマリン6由来の緑色へと変調させることができました。こうして、FRETを利用した発光色の制御にも成功しています。

社会的インパクト

本研究では、液晶性色素NCBを発光体として用いることで、発光体を約50 wt%含有するコレステリック液晶を開発し、薄膜でも高効率な円偏光が実現しました。本研究では、コレスレリック液晶における円偏光の発現のメカニズムについても考察を行っており、円偏光の基礎的理解および材料設計指針に貢献します。そして、円偏光を用いた次世代のオプトエレクトロニクス材料への実装の可能性を示しました。

今後の展開

円偏光のさらなる高性能化のためには、液晶との混和性および複屈折を向上させる必要があります。研究グループは今後、より優れた液晶性色素を設計し、それらを用いてさらに高性能な円偏光発光を示すコレステリック液晶系の構築を目指します。さらに、3Dディスプレイやセキュリティ技術などへの応用展開を行います。

用語説明

[用語1]
コレステリック液晶:分子がらせん状に周期構造を形成した液晶相。アキラル(鏡に映った像を重ね合わせることができる性質のこと。すなわちキラリティーがない)な液晶にキラリティーを導入することで発現する。
[用語2]
円偏光発光(CPL):自然光には右回転と左回転の円偏光が同じ割合で含まれている。そのうち一方に偏った円偏光を発光する現象のこと。
[用語3]
選択反射:コレステリック液晶が特定の波長領域において、らせんと同じ巻き方向の円偏光を反射し、逆巻きの円偏光は透過させる特性。波長領域は、らせん1巻きの長さと関係する。
[用語4]
有機π電子系:有機分子の中でπ電子が広がって共役している系。有機π電子系分子は、光・電子機能をもたらし、芳香族化合物や炭素-炭素多重結合を有する物が多い。
[用語5]
フェルスター型蛍光共鳴エネルギー移動(FRET):励起された分子(ドナー)から近接した分子(アクセプター)へ、光を放出せずにエネルギーが移動する現象。
[用語6]
発光非対称因子glum:円偏光の度合いを定量的に示す指標。左回りの円偏光の強度(IL)と右周りの円偏光の強度(IR)からglum = 2(ILIR)/(IL+IR)と算出される。
[用語7]
複屈折:媒質中で光の進さ(屈折率)が、光の偏光方向によって異なる現象。一般に発光体濃度を高めるほど複屈折は高くなる。

論文情報

掲載誌:
Aggregate(アグリゲート)(Wiley, IF 13.7)
タイトル:
Development of a Cholesteric Liquid Crystal Comprising a Mesogenic Fluorophore for Circularly Polarized Luminescence with a High Dissymmetry Factor(和訳:高い非対称因子の円偏光発光を指向した、液晶性蛍光体から構成されるコレステリック液晶の開発)
著者:
Yuuto Iida,1 Masayuki Gon,2,* Hiroyuki Yoshida,3 Kazuo Tanaka,2 Gen-ichi Konishi,1,*(飯田優斗1, 権正行2,*, 吉田浩之3, 田中一生2, 小西玄一1,*)
所属:
1.東京科学大学 物質理工学院 応用化学系
2.京都大学 大学院工学研究科 高分子化学専攻
3.関西学院大学 工学部

研究者プロフィール

小西 玄一 Gen-ichi Konishi

東京科学大学 物質理工学院 応用化学系 准教授
研究分野:光化学、有機合成化学、高分子科学、生理学

田中 一生 Kazuo Tanaka

京都大学 大学院工学研究科 高分子化学専攻 教授
研究分野:ヘテロ元素含有高分子、ハイブリッド材料開発

関連リンク

お問い合わせ

東京科学大学 物質理工学院 応用化学系
准教授 小西 玄一

京都大学 大学院工学研究科 高分子化学専攻
教授 田中 一生

取材申し込み

東京科学大学 総務企画部 広報課