自然界に倣った高効率な人工光捕集システムの構築

2026年1月16日 公開

太陽電池や人工光合成への応用に期待

ポイント

  • 光合成に倣った高効率な人工光捕集システムを、液晶とナノリボンの融合で実現。
  • 可視光全域を捕集可能な、多環芳香族炭化水素ナノリボン色素群を創出。
  • 太陽電池や人工光合成などの光エネルギー変換の効率向上に期待。

概要

東京科学大学(Science Tokyo)物質理工学院 応用化学系の下村祥通大学院生(学術振興会特別研究員)、小西玄一准教授、ウィーン大学のダヴィデ・ボニファツィ(Davide Bonifazi)教授ら国際共同研究チームは、ペリ-キサンテノキサンテン(PXX)[用語1]を最小の構成単位としたナノリボン[用語2]ネマチック液晶[用語3]を組み合わせることで、太陽光に含まれる可視領域全体をカバーする高効率な人工光捕集システム[用語4]の構築に成功しました。

植物の光合成は究極の光捕集システム(LHS)であり、光アンテナが捕集した太陽光エネルギーを2段階のエネルギー移動により90%以上の効率で反応中心に移動できます。最近では、この光合成に倣った人工LHSが大きな注目を集めています。しかし既存の人工LHSでは、太陽光を広い波長領域で吸収するため、エネルギーを効率よく変換・輸送することが困難でした。

今回の研究では、研究チームがこれまでに開発してきたPXX骨格に着目し、光合成における色素分子として、酸素に対して安定で、さまざまな吸収・蛍光特性を示すPXXナノリボン分子を4種類開発しました。これらの色素分子を適切に組み合わせて、ネマチック液晶中にドープ(添加)することで、2段階のエネルギー移動効率が70%という高効率な人工LHSを実現しました。

本研究は、光エネルギー変換材料の設計に新たな視点を提供し、将来的な応用展開への基盤となることが期待されます。

本成果は、1月9日付(現地時間)に、ドイツ化学会とWiley-VCHが発行する「アンゲヴァンテ・ケミー ( Angewandte Chemie ) 」のVery Important Paper(VIP)に選ばれ、オンライン版に先行公開されました。

PXXナノリボンとネマチック液晶を用いた人工LHS

背景

光捕集システム(LHS)とは、光エネルギーを効率よく捕集・運搬し、そのエネルギーを活用する仕組みのことを指します。LHSは植物が行う光合成を参考にしています。植物の光合成では、光アンテナとなるクロロフィルなどの色素分子が捕集した光を、2段階のエネルギー移動によって、90%以上の効率で反応中心に移動させることができます。LHSは、太陽エネルギーの高効率利用やエネルギー変換・光機能材料の高度化などへの応用が期待されており、自然界の仕組みに学んださまざまな人工LHSの開発が盛んに進められています。

人工LHSの開発において最も重要な課題の1つは、「できるだけ多くの光を集め、そのエネルギーを無駄なく運搬すること」です。近年、人工LHSの材料として、多環芳香族炭化水素(PAHs)からなるナノリボン状分子が注目されています。このPAHsのナノリボン分子には、可視光の広い領域を吸収できることに加え、光吸収によって生じる励起子[用語5]が分子内で非局在化し、長距離にわたって輸送されるという特徴があります。特に、酸素原子を導入したPAHsの一種であるペリ-キサンテノキサンテン(PXX)骨格は、比較的穏やかな条件で合成できることや、分子のHOMO-LUMOギャップ[用語6]が小さいことから、可視光から近赤外領域の光を吸収しやすい有望な色素分子として研究されてきました。しかしPXX骨格には、HOMOのエネルギー準位が高く、酸素に対する安定性が低いという問題がありました。さらに、人工LHSでは色素間のエネルギー移動を有利にする配列も重要で、色素分子を規則的に配列させる必要があります。その配列手法の1つとして、分子があらかじめ配向した液晶場の利用がありますが、人工LHSへ応用した例はほとんどありません(図1)。

図1. 液晶場を用いた光捕集システムの概念図(色素分子が規則的に配列していると高い光捕集効率が得られる) ET:エネルギー移動

研究成果

研究チームはこれまで、PXXをモチーフ(最小の構成単位)としたさまざまな分子の設計と物性評価を行ってきました。その研究の過程で、1942年にPXXの擬似ペリ位にベンゾイル基を導入したケトン誘導体が報告されていたことを見いだしました。しかしこの分子については、構造データや詳細な物性評価が行われておらず、その特性は長年にわたり未解明でした。

そこで研究グループはこの分子の性質を追究し、その知見に基づいて、PXXのペリ位にベンゾイル誘導体を導入した分子を複数連結した、新規PXX ナノリボン分子を4種類(化合物8、1、4、6)開発しました(図2の構造式)。

開発した分子について、光学特性や電子構造の変化を系統的に分析しました。PXXの分子数を増やしてπ骨格を拡張すると、PXXナノリボン分子の吸収スペクトルと蛍光スペクトルは系統的に長波長側へシフトしました。特に化合物4と化合物6では、近赤外領域の光吸収に加えて、赤外領域での蛍光が確認されました(図2左)。

さらに、各化合物について電気化学測定を行い、HOMOエネルギー準位を評価しました。その結果、π骨格の拡張に伴ってHOMO準位は高くなる傾向があり、化合物6では-5.08 eVを示しました(図2右)。この値は、酸素に対する安定性が保たれる範囲にあり、ケトン拡張によるPXXナノリボンがHOMO準位の過度な上昇を抑えつつ、HOMO-LUMOギャップを縮小できる有効な分子設計であることが明らかとなりました。これらの光・電子特性は、エネルギー移動を基盤とする人工LHSの構築において理想的な条件を満たしています。

図2. 4種類の化合物(中央の構造式)の PXXナノリボンのジクロロメタン溶液中における吸収・蛍光スペクトル(左)とサイクリックボルタンメトリー(電気化学測定、右)

次に、これらの分子を最大3種類まで組み合わせることで、4通りの人工LHSを構築しました(図3a)。システムのホストには、エネルギー移動効率を高めるため、分子があらかじめ配向したネマチック液晶相を形成する5CB(液晶分子)を用いています。ネマチック液晶相中では、ドープした色素分子も同じ方向に配向しやすくなるため、光エネルギーの受け渡しが効率的に進行します。その結果、化合物8/1/4および化合物8/1/6からなる三元系システムでは、可視光全域を吸収しつつ(図3c)、優れた蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)効率とアンテナ効果(AE)が得られました(図3b)。また2段階のエネルギー移動効率は、光合成の90%に及ばないものの、70%という高い値になりました。これらの結果から、本研究で構築したシステムは、太陽光を効率よく捕集し、無駄なく光エネルギーを運搬する人工LHSであることが明らかになりました。

図3. (a)人工LHSのモデル図、(b)各システムのFRET効率とAE、(c)各システムの吸収・蛍光スペクトル

社会的インパクト

本研究で構築した人工LHSは、液晶の秩序構造と酸素ドープ型PAHsの高い設計自由度を融合することで、自然界の光捕集原理を人工的に実現しました。これにより、可視光全域を効率よく捕集可能で、分子設計によって特性を制御できる人工光アンテナを創出したことになります。こうした新しい分子アンテナは、太陽光を利用する太陽電池、人工光合成、光触媒やデータ暗号化、生体イメージングなど幅広い分野への展開が期待されます。

今後の展開

光捕集のさらなる効率化のためには、PXXナノリボンの配向性を向上させる必要があります。研究グループは今後、PXXの配列により適した液晶分子を設計し、それらを用いたさらに高性能な人工LHSの構築を目指します。

付記

本研究は、日本学術振興会(JSPS)の若手研究者海外挑戦プログラム(下村)の支援を受けて行われました。

用語説明

[用語1]
ペリ-キサンテノキサンテン(PXX):ナフタレン環が単結合と2つの酸素原子で連結された多環芳香族化合物。
ペリ-キサンテノキサンテン(PXX)
[用語2]
ナノリボン:多環芳香族化合物やグラフェンなどが、細い線のようなリボン状に結合した分子または高分子。
[用語3]
ネマチック液晶:長軸が一方向に揃った流動性を持つ液晶相。三次元的な配向秩序は持たない。
[用語4]
人工光捕集システム:植物の光合成における光捕集アンテナの仕組みを模倣し、効率的に光エネルギー変換を行う人工的なシステム。
[用語5]
励起子:負電荷の電子と正電荷の正孔(ホール)がクーロン力で結びついた状態(電子・正孔対)のこと。
[用語6]
HOMO-LUMOギャップ:分子の最高被占軌道(HOMO)と最低空軌道(LUMO)の間のエネルギー差のことで、物質の化学的・光学的性質(色、反応性、電気伝導性など)に関係する。

論文情報

掲載誌:
Angewandte Chemie International Edition
タイトル:
Benzoyl-xanthenoxanthenes: Versatile Chromophores for Light-Engaging Applications
(和訳:ベンゾイル-キサンテノキサンテン:多彩な発色団の光捕集への応用)
著者:
Cristian De Luca,1 El Czar Galleposo,1 Rúben R. Ferreira,1 Chiara Puccinelli,1 Herwig Peterlik,1 Pradip Kumar Mondal,1 Laurens van Dam,1 Leticia González,1 Yoshimichi Shimomura (下村祥通),2 Gen-ichi Konishi(小西玄一),2 and Davide Bonifazi1*
所属:
1.ウィーン大学
2.東京科学大学 物質理工学院 応用化学系

研究者プロフィール

小西 玄一 Gen-ichi Konishi

東京科学大学 物質理工学院 応用化学系 准教授
研究分野:光化学、有機合成化学、高分子科学、生理学

関連リンク

お問い合わせ

東京科学大学 物質理工学院 応用化学系

准教授 小西 玄一

取材申し込み

東京科学大学 総務企画部 広報課