ポイント
- 腎臓において、LRBAが水と塩の尿中排泄量を統合的に制御する新たな分子メカニズムを解明しました。
- 国際レジストリ解析とモデルマウス、膜タンパクの網羅的解析を組み合わせることで、水チャネルおよび塩輸送体の機能維持にLRBAが必要であることを明らかにしました。
- LRBA欠損症では免疫異常に加え、多尿と電解質異常が生じることを初めて示し、脱水リスクへの注意と個別化治療の必要性を示しました。
概要
東京科学大学(Science Tokyo) 医歯学総合研究科 腎臓内科学分野の安藤史顕助教、長岡可楠子大学院生、内田信一教授らの研究グループは、同大学 小児地域成育医療学講座の金兼弘和寄附講座教授らと共同で、腎臓においてLRBAが水と塩を体内に保持する仕組みを明らかにしました。
LRBA欠損症は、慢性的な下痢や繰り返す感染症を主症状とする先天性免疫異常症に分類される疾患として知られていますが、免疫以外にどのような異常をもたらすのかについては十分に解明されていませんでした。今回、研究グループは、LRBA欠損症患者の国際共同レジストリ解析[用語1]と、LRBA欠損症モデルマウスを用いた基礎研究により、多尿の症状が現れることを新たに同定しました。
LRBA欠損症患者の解析では、約20%に尿濃縮力の低下が認められ、さらに採血結果から、水だけでなく塩も尿中に排泄されていることが示唆されました。これらの臨床情報を基に、LRBAが腎臓尿細管においてAQP2・AQP4水チャネルおよび塩輸送体(NCC)の活性を統合的に制御し、体内に水と塩を保持する仕組みを明らかにしました。
本研究は、LRBA欠損症患者では免疫不全の症状に加え、尿濃縮障害や電解質異常にも注意が必要であることを示したものです。慢性下痢や感染症による食事量の低下は、体内の水と塩の欠乏を招きますが、腎臓から尿中へさらに水と塩が失われるため、適切な管理が必要となる可能性があります。一方で、LRBA欠損症の一部の遺伝子変異においては、抗利尿薬であるデスモプレシンが多尿に有効であることをモデルマウスを用いて示しており、今後の個別化医療への発展が期待されます。
本成果は、2026年4月27日(現地時間)付の「Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America 」誌に掲載されました。
国際レジストリ解析により、LRBA欠損症患者43例を集積し、そのうち5例を除外した38例を解析対象とした。尿比重は一般に1.015~1.024程度とされているが、本患者集団では中央値が1.009と著明に低下しており、希釈尿を示していた。さらに、5例が多尿と診断され、LRBA欠損症では多尿に伴う脱水を来しやすいことが示された。加えて、採血データの解析から、血清Na値も比較的低値であることが明らかとなった。
背景
LRBA欠損症は、先天性免疫異常症に分類される希少難病です。LRBAはT細胞において免疫チェックポイント分子であるCTLA-4受容体と結合し、CTLA-4の細胞膜への輸送を促進しますが、LRBA欠損症ではこの機能が障害され、慢性下痢や繰り返す感染症などの症状を来します。一方、近年の臨床研究では、CTLA-4を外的に補充しても十分な治療効果が得られないことが報告されており、LRBA欠損症の病態は「CTLA-4単一分子モデル」だけでは説明できない可能性が指摘されています。
今回、研究グループは、LRBA欠損症患者にみられる尿濃縮力障害に着目し、基礎研究を通じて、LRBAが活性を制御する新たな標的分子の解明に取り組みました。
研究成果
1. LRBA欠損症患者は腎臓で水を保持できない
LRBA欠損症は、常染色体潜性遺伝形式を取るまれな疾患です。患者数が非常に少ないため、日本国内の症例だけでは十分な解析が難しく、本研究では日本の複数施設に加え、イラン・テヘラン大学の協力を得て国際共同レジストリ解析を行いました。
遺伝学的にLRBA欠損症と診断された38人を対象に解析しました。その結果、患者の97%に本疾患の典型症状である慢性下痢が認められ、脱水に陥りやすい背景が確認されました。一方で、水を喪失しやすい状況にもかかわらず、尿比重の中央値は1.009と低く、腎臓が尿を十分に濃縮できていないことが明らかとなりました。実際に、多尿を自覚している患者も確認されました。LRBA欠損症では、「下痢で水が失われる」だけでなく、「尿からさらに水が失われる」ことが示されました。
2.LRBAは腎臓集合管においてAQP2とAQP4水チャネルを活性化する
研究グループはこれまでに、LRBAがPKAキナーゼの足場タンパクとして働き、PKAによるAQP2水チャネルのリン酸化を仲介する役割があることを報告していました[参考文献1]。LRBAが活性を制御する新たな標的タンパクを探索するため、LRBA欠損症モデルマウス(Lrba KO マウス)の腎臓膜分画を網羅的に解析したところ、AQP2に加えてAQP4水チャネルの活性もLrba KOマウスで低下していることが分かりました。
さらに、細胞を用いた実験により、LRBAが直接AQP4に結合することを証明し、LRBAがAQP2とAQP4を同時に細胞質から細胞膜へ送り届け、尿を濃縮する仕組みを明らかにしました(図1)。
腎臓は複数のセグメントから構成されており、それぞれが水や電解質の恒常性維持に重要な役割を果たしている。LRBAは、集合管ではAQP2およびAQP4を介した水の再吸収、遠位尿細管ではNCCを介した塩の再吸収を担うことが明らかとなった。LRBA欠損症では、これらの機能が障害されることで尿への水と塩の喪失が増加し、特にシックデイにおいて食事や水分の摂取が困難になると、脱水症や低血圧を来す可能性が示唆される。
3. LRBAは腎臓遠位尿細管において塩輸送体(NCC)を活性化する
一般に、尿から水が失われると血液中の塩分濃度は相対的に高くなります。ところが、今回のレジストリ解析では、多尿がみられる患者でも、むしろ血液中の塩分濃度は低下していました。このことから研究グループは、LRBA欠損症では腎臓における塩の回収機構にも異常があると考えました。
塩輸送に関わる分子の機能を解析するため、Lrba KOマウスを用いて複数の利尿薬負荷試験を行いました。その結果、ヒドロクロロチアジド[用語2]への反応性が著しく低下しており、LRBAがNCCの活性維持に必要であることが明らかとなりました。
さらに、LRBAがSPAKキナーゼの足場タンパクとして機能し、SPAKによるNCCのリン酸化を仲介することを明らかにしました。これらの結果から、LRBAは腎臓の複数の尿細管セグメントにおいて、水と塩の再吸収を協調的に制御するハブ分子であることが示されました(図1)。
4.ヒトLRBA欠損症モデルマウスではデスモプレシンが多尿に有効である
LRBA欠損症では、さまざまな遺伝子変異が報告されています。本研究では、そのうちR1445Q変異に着目し、ヒトLRBA欠損症を再現したモデルマウスを作製しました。この変異マウスでは、ヒトと同様に末梢血単核球におけるLRBAタンパクの発現量は減少していたものの、腎臓ではLRBAの発現が残存しており、その機能は完全には失われていませんでした。
抗利尿薬であるデスモプレシンを投与すると、1時間以内に尿が濃縮され、尿量の減少が認められました(図2)。これらの結果から、LRBA欠損症では遺伝子変異の種類を考慮した対応が重要であり、抗利尿薬デスモプレシンが多尿の治療に有効となる可能性が示されました。
LRBA欠損症を模倣したモデルマウスを作製し、ヒトでみられた尿濃縮障害の再現に成功した。これにより、LRBA欠損症における腎病態の解析をさらに進めることが可能となった。
WT:Wild-type mice(健常マウス)、KI:Lrba knock-in mice(LRBA欠損症患者を模したマウス)、KO:Lrba knockout mice(LRBA完全欠損マウス)
社会的インパクト
本研究により、LRBA欠損症患者では、免疫不全による慢性下痢や感染症のみならず、尿濃縮障害や電解質異常にも注意が必要であることが明らかとなりました。特に、体調不良時には水と塩が不足しやすく、適切な管理が必要となる可能性があり、今後の診療方針の改善に寄与することが期待されます。
今後の展開
LRBA欠損症では、遺伝子変異ごとに尿濃縮障害の程度や治療への反応性が異なることを明らかにすることが重要です。特に、一部の変異ではデスモプレシンが脱水症の治療に有効となる可能性があり、今後の個別化医療の発展につながることが期待されます。
付記
本研究は、文部科学省日本学術振興会(JSPS)科学研究費助成事業(21H02933、25K02567、22H03085、25K02666、24K19126、25K19484)、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)(JP22ek0109608、JP25ym0126803)、公益財団法人臨床薬理研究振興財団、公益財団法人武田科学振興財団、公益財団法人母子健康協会、公益財団法人小野医学研究財団、公益財団法人日本ワックスマン財団、公益財団法人難病医学研究財団(2024A01)、東京科学大学次世代研究者育成ユニットによる支援を受けて実施されました。
参考文献
- [参考文献1]
- Hara Y, Ando F, Oikawa D, Ichimura K, Yanagawa H, Sakamaki Y, Nanamatsu A, Fujiki T, Mori S, Suzuki S, Yui N, Mandai S, Susa K, Mori T, Sohara E, Rai T, Takahashi M, Sasaki S, Kagechika H, Tokunaga F, Uchida S. LRBA is essential for urinary concentration and body water homeostasis. Proc Natl Acad Sci U S A. 2022;119(30):e2202125119. doi: 10.1073/pnas.2202125119.
用語説明
- [用語1]
- レジストリ解析:特定の疾患や治療に関する患者情報を、複数の医療機関から体系的に収集・登録し、その集積データを用いて解析する研究手法。
- [用語2]
- ヒドロクロロチアジド:腎臓の遠位尿細管で塩輸送体(NCC)の機能を阻害し、塩の再吸収を抑える利尿薬。NCCの活性を調べるための負荷試験に用いた。
論文情報
- 掲載誌:
- Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America
- タイトル:
- LRBA Organizes Distinct Vesicular Trafficking Systems in Distal Nephron Segments for Water and Sodium Conservation
- 著者:
- Kanako Nagaoka, Fumiaki Ando, Tamami Fujiki, Hassan Abolhassani, Yu Hara, Hideki Yanagawa, Soichiro Suzuki, Yuriko Sakamaki, Daisuke Oikawa, Hiroaki Kikuchi, Shintaro Mandai, Yutaro Mori, Takayasu Mori, Koichiro Susa, Eisei Sohara, Akihiro Hoshino, Tsuyoshi Ito, Yuki Arakawa, Yoji Sasahara, Shinsuke Yasuda, Yoichiro Abe, Masato Yasui, Fuminori Tokunaga, Hirokazu Kanegane, Shinichi Uchida
研究者プロフィール
安藤 史顕 Fumiaki Ando
東京科学大学 医歯学総合研究科 腎臓内科学分野 助教
研究領域:腎臓、水・電解質輸送
長岡 可楠子 Kanako Nagaoka
東京科学大学 医歯学総合研究科 腎臓内科学分野 大学院生
研究領域:腎臓、水・電解質輸送
内田 信一 Shinichi Uchida
東京科学大学 医歯学総合研究科 腎臓内科学分野 教授
研究領域:腎臓、水・電解質輸送