「生命とは何か」を宇宙で問い直す

VI-Researcherインタビュー:Space Innovation Visionary Initiative

2026年8月19日 公開

瀧ノ上 正浩 教授(総合研究院)

瀧ノ上 正浩 教授(総合研究院)

2025年4月に導入したVisionary Initiatives(VI)は、現行の医学、歯学、理学、工学、情報学、物質理工学、環境・社会理工学、生命理工学、リベラルアーツといった分野別縦割りの研究体制を、分野横断型へと大きく変革する仕組みです。研究者はいずれかのVIを選択し、異分野融合研究を加速していきます。

瀧ノ上正浩教授が担当するSpace Innovation VIは、宇宙と生命の真理を探求し、人類の生活圏を宇宙へと拡張するためのエネルギー・通信等のインフラ構築や、医療を始めとする生活環境整備等を通じて宇宙における社会システムを開拓し、人類が新たな進化を遂げる未来を創造することを目指しています。

「なぜこのVIを選んだのか」「異分野研究者との出会いでこれから何が生まれるのか」、研究者一人一人のエピソードを紐解きます。

人工細胞と分子的AIで、宇宙に生きる生命様システムの創造へ

生体分子を組み合わせ、細胞のように自律的に働く「人工細胞」や、分子そのものが情報を処理する「分子的人工知能」の構築に取り組む瀧ノ上教授。Space Innovationへの参画によって、高校時代から抱いてきた生命と宇宙の起源への関心が、再び一つにつながりました。宇宙という新たな研究環境で、生命の可能性をどこまで広げられるのか。研究への思いを聞きました。

――専門分野と、現在の研究テーマを教えてください。

専門は、生物物理学、分子コンピューティング、エンジニアリングバイオロジーです。現在は、DNAやタンパク質などの生体分子を組み合わせ、細胞のように自律的に機能する人工細胞や、分子レベルで情報を処理し、判断する人工知能システムの構築に取り組んでいます。

私の研究の根底には、「生命とは何か」という問いがあります。生命を外から観察するだけでなく、生体分子を設計し組み合わせて、生命のようなシステムを実際に創る。その過程を通じて、生命が成り立つ仕組みを物理的・情報的な観点から理解したいと考えています。また、そこで生まれた新しい技術を、医薬、診断、分析、農業などへ応用する研究も進めてきました。

――なぜSpace Innovationを選んだのでしょうか。

Space Innovationが「生命の起源」に関する研究テーマを含み、さらに宇宙という極限環境を研究の舞台としていることに、強くひかれました。

高校生の頃から生命や宇宙の起源に関心があり、生物物理学と宇宙物理学の両方に興味を持っていました。大学では物理学を学び、その後、人工細胞や分子コンピューティングの研究へと進みました。Space Innovationへの参画によって、ようやく自分の原点に戻ってきたようにも感じています。

宇宙工学の専門家ではないという意味では、宇宙は専門外の領域です。しかし、もともとの興味という点では、決して専門外だとは思っていません。生命の起源を探究するとともに、自ら創り出した生命様システムを宇宙で活用する。基礎研究と応用研究の双方に広がりのある、夢のある研究領域だと感じています。

――VIへの参画によって、研究にどのような広がりが生まれましたか。

これまで、宇宙を志向した研究には取り組んでいませんでした。しかし、宇宙という新しい「境界条件(boundary conditions)」を得たことで、これまでとは異なる発想が生まれています。

重力、放射線、温度、利用できる資源など、地球とは異なる環境の中で、生命システムはどのように発展していくのか。人工的に創った生命様システムは宇宙でも機能できるのか。さらに、宇宙環境に適応し、そこで“生きる”と呼べるような生命様システムを創ることはできないか―。宇宙という視点が、新しい研究の問いやアイデアの源泉になっています。

――Science Tokyoならではの異分野融合に、どのような可能性を感じていますか。

これまでは基礎研究を中心に、一部で応用研究にも取り組むスタイルで研究を進めてきました。応用面では、医薬、診断、分析、農業などの分野と関わってきましたが、そこに新たに宇宙が加わることは、とても斬新で魅力的です。

Science Tokyoには、生命科学、情報科学、工学、医学をはじめ、多様な専門性を持つ研究者が集まっています。宇宙科学や宇宙工学の研究者と交流し、自分たちだけでは思いつかなかった課題や技術に出会うことで、人工細胞や分子的人工知能の研究を、これまでにない方向へ発展させられると期待しています。

――今後、Space Innovationを通じて実現したいことを教えてください。

人工細胞システムや分子的人工知能システムが持つ可能性を、「宇宙」というキーワードによって磨いていきたいと考えています。

地球上で生まれた生命の原理を、宇宙という新たな環境から捉え直すことで、生命の起源や本質への理解を深めることができるかもしれません。同時に、宇宙環境でも自律的に働き、将来の宇宙活動を支える新しい生命様システムの創造にもつなげたいと思います。

プロフィール

瀧ノ上 正浩(たきのうえ・まさひろ)

東京科学大学 総合研究院 化学生命科学研究所 教授。 Space Innovation VIのサブ・プログラム・ディレクター。博士(理学)。専門は生物物理学、分子コンピューティング、エンジニアリングバイオロジー。人工細胞、DNA分子システム、分子的人工知能など、生命と情報を融合した研究に取り組んでいる。

関連リンク

お問い合わせ

広報課