アンモニアをもっと低温でつくる:空気に強い「表面エレクトレン」を世界初実証

2026年9月22日 公開

表面に浮かぶ電子が窒素を反応しやすくし、安定化と再生を繰り返す仕組みを解明

どんな研究?

肥料の原料などに欠かせないアンモニア(NH3)は、窒素(N2)と水素(H2)からつくられます。しかし、空気中の約8割を占める窒素は非常に反応しにくいため、現在の工業的なアンモニア生産では、高温・高圧下で窒素と水素を反応させるハーバー・ボッシュ法が広く用いられており、多くのエネルギーを必要とします。

そこで、より少ないエネルギーで反応を進めるために重要なのが、窒素分子を反応しやすい状態にすることです。その方法の1つが、窒素分子に電子を与えることです。電子を受け取ると、窒素原子どうしの強い結びつきが弱まり、反応を進めやすくなります。

Juozas Baltiejus/Shutterstock.com

そこで注目されているのが、材料の表面に電子が浮かぶように存在するエレクトレンです。表面の電子を、近づいた分子に渡しやすいため、触媒への応用が期待されています。しかし、大きな弱点もありました。これまでのエレクトレンは空気や水分に非常に弱く、取り扱いが難しかったのです。

ここが重要

東京科学大学(Science Tokyo)の細野秀雄(ほその・ひでお)特命教授を中心とする研究チームは、酸素をわずかに含む窒化ケイ素バリウム(BaSiN₂)という材料を使い、空気中でも安定な「表面エレクトレン」を世界で初めて実現しました。これまでのエレクトレンの大きな弱点だった空気への不安定さを克服し、空気中に1週間さらした後も結晶構造が保たれることを確認しました。

興味深いのは、表面エレクトレンの不思議な性質です。表面に浮かぶ電子が窒素分子に渡ると、窒素分子は表面にとどまり、材料表面は一時的に安定な状態になります。ところが、そこに水素を加えると、窒素はアンモニアへと変わって表面から離れ、表面には再び電子が現れるます。つまり、窒素によって表面が守られ、反応が進むと再び電子を渡せる状態に戻ることが分かったのです。

また、この材料にルテニウム(Ru)を組み合わせることで、従来より低い温度・圧力でも、アンモニアをつくる反応がよく進むことを示しました。さらに、繰り返し空気にさらしても、その性能は維持されました。反応の仕組みを詳しく調べると、30℃でもアンモニアが生成されることが確認され、表面に浮かぶ電子が窒素を反応しやすくするという、この材料ならではの働きも明らかになりました。

今後の展望

アンモニアは肥料の原料だけでなく、水素を運ぶエネルギー媒体としても注目されています。低温で働き、空気にも強い触媒をさらに改良することで、再生可能エネルギーを使って必要な場所でアンモニアをつくる分散型生産への応用が期待されます。

研究者のひとこと

材料研究を長く続けてきましたが、物質は単純な予想では考えられなかった顔を見せてくれます。これが材料研究の醍醐味の一つです。今回の研究で明らかになったように、窒素が表面を安定にし、反応するとまた元の活性な状態に戻るという仕組みは、とても面白い発見でした。分かってしまえば、当たり前ですが、これを最初に見出すことが研究では肝です。こういう性質を見つけると、次に何ができるのか新しい切り口で試したくなります。最終的には、この物質ならではの性質を、実際に役に立つ技術へつなげたいと思っています。
(細野秀雄:東京科学大学 総合研究院 元素戦略MDX研究センター 特命教授 / 東京科学大学 栄誉教授)

細野秀雄特命教授

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