小惑星リュウグウは太陽系初期世代の天体の残骸

2026年9月11日 公開

リュウグウのもととなった天体は45.65億年以上前に誕生

ポイント

  • 小惑星「リュウグウ」の試料に含まれる炭酸塩鉱物ができた年代と温度を測定。
  • 「リュウグウ」のもととなった天体が、45.65億年以上前に誕生したことを解明。
  • 「リュウグウ」が、太陽系初期世代の炭素質微惑星の残骸であることを示唆。

概要

東京科学大学(Science Tokyo)理学院地球惑星科学系の横山哲也教授、北海道大学大学院理学研究院の川﨑教行准教授及び圦本尚義名誉教授、同大学総合イノベーション創発機構の坂本直哉准教授、茨城大学学術研究院基礎自然科学野の藤谷渉准教授、海洋研究開発機構の荒川創太研究員、東京大学大学院理学系研究科附属宇宙惑星科学機構(UTOPS)の橘省吾教授らの研究グループは、宇宙航空研究開発機構の小惑星探査機「はやぶさ2」が小惑星「リュウグウ」から採取した試料に含まれる炭酸塩鉱物ができた年代と温度を調べ、「リュウグウ」のもととなった天体が、現在から45.65億年以上前に誕生したことを明らかにしました。

小惑星「リュウグウ」は、水を含む鉱物や有機物に富む炭素質の小惑星であり、太陽系が誕生した頃の物質をよく残していると考えられています。これまでの研究から、「リュウグウ」の主要な構成物質は、もととなった天体の内部で氷が溶けて生じた水溶液と岩石との反応によって作られたことが分かっていました。しかし、そのような構成物質や、「リュウグウ」のもととなった天体そのものがいつ誕生したのかは、明らかになっていませんでした。

本研究では、北海道大学の同位体顕微鏡[用語1]を用いた測定により、「リュウグウ」試料に含まれる炭酸塩鉱物ができた年代と温度を明らかにしました。さらに、得られた年代と温度を、天体内部の温度変化を再現する数値シミュレーションと比較しました。その結果、「リュウグウ」のもととなった天体は、現在から45.65億年以上前、すなわち太陽系の形成が始まってから約200万年以内に誕生していたことが分かりました。これまで知られている他の多くの炭素質天体の誕生年は45.65億年ほど古くないので、この天体は、他の多くの炭素質天体に先駆けて誕生した、初期世代の炭素質微惑星であったと考えられます。現在の小惑星「リュウグウ」は、この天体が破砕され、その破片が集まってできた天体、すなわち初期世代の炭素質微惑星の残骸です。本研究成果により、太陽系形成の最初の数百万年間に、炭素質微惑星が複数の世代にわたって誕生した可能性が示唆されました。

なお、本研究成果は、日本時間2026年9月11日(金)公開のScience 誌にオンライン掲載されました。

「リュウグウ」のもととなった天体は45.65億年以上前に誕生した。その後、天体が破砕され、その破片が再集積して、現在の小惑星「リュウグウ」ができたと考えられている。

背景

小惑星「リュウグウ」は、水を含む鉱物や有機物に富む炭素質の小惑星です。宇宙航空研究開発機構の小惑星探査機「はやぶさ2」によって「リュウグウ」から地球に持ち帰られた試料は、太陽系が誕生した頃の物質をよく残していると考えられており、水・有機物に富む天体が形成された過程や天体内部における物質進化過程を詳しく調べられるようになりました。

これまでの研究から、現在の「リュウグウ」は、より大きな天体が壊れた後、その破片が集まってできた小惑星であることが分かっています。また、「リュウグウ」試料の大部分は、もととなった天体の内部で氷が溶けて生じた水溶液と岩石との反応によって作られた鉱物や有機物であることも分かっています。しかし、そのような構成物質や、「リュウグウ」のもととなった天体そのものがいつ誕生したのかは、明らかになっていませんでした。

研究手法

天体内部において水溶液と岩石との反応によって作られた炭酸塩鉱物や磁鉄鉱には、水溶液との反応が起こった時期や温度に関する情報が残されています。本研究では、「リュウグウ」試料に含まれる炭酸塩鉱物の一つであるドロマイト[用語2]について、北海道大学の同位体顕微鏡を用いて、マンガンとクロムの同位体組成を分析し、Mn–Cr放射年代測定法[用語3]によってドロマイトができた年代を調べました。

これまでにも「リュウグウ」のドロマイトの年代測定は行われていましたが、研究によって得られた年代に大きな違いがありました。その原因の一つとして、年代測定データの補正に用いる標準試料の違いが指摘されていました。そこで本研究では、茨城大学で合成されたマンガンとクロムの比が均一な人工ドロマイトを用いた先行研究(Sugawara et al. 2024, Geochimica et Cosmochimica Acta )の補正法を採用し、より正確な年代測定を行いました。

また、「リュウグウ」試料に含まれるドロマイトと磁鉄鉱の酸素同位体組成を測定し、酸素同位体平衡温度計[用語4]を用いて、これらの鉱物ができた温度を求めました。さらに、得られた年代と温度を、天体内部の温度変化を再現する数値シミュレーションと比較しました。

研究成果

Mn–Cr放射年代測定の結果、今回新たに分析した「リュウグウ」試料のドロマイトは、約45億6530万年前にできたことが分かりました(図1)。これは、上述の先行研究で分析された別の「リュウグウ」試料のドロマイトよりも古い年代です。また、酸素同位体平衡温度計によって、このドロマイトが約90℃の水溶液からできたことも明らかになりました。

「リュウグウ」のもととなった天体は、誕生した直後には非常に低温(約–200℃以下)でした。その後、放射性同位体の崩壊熱などにより内部が温められてドロマイトができた約90℃に達するまでには、数値シミュレーションによると、少なくとも数十万年の時間を要します。そのため、ドロマイトができるよりも数十万年以上前には、もととなった天体そのものが誕生していた必要があります。したがって、「リュウグウ」のもととなった天体は、約45億6530万年よりも前、すなわち太陽系の形成が始まってから約200万年以内に誕生していたことが分かりました。

他の多くの炭素質コンドライト隕石[用語5]には、コンドリュール[用語6]と呼ばれる、初期太陽系で高温に加熱されてできた球状の岩石粒子が豊富に含まれています。これらのコンドリュールの多くは、太陽系の形成が始まってから約220万年後以降にできたことが分かっています。そのため、「リュウグウ」のもととなった天体は、これらのコンドリュールが形成される以前に誕生していたことになります。つまり、「リュウグウ」のもととなった天体は、コンドリュールを豊富に含む他の炭素質コンドライト隕石のもととなった天体に先駆けて誕生した、初期世代の炭素質微惑星であったと考えられます。現在の「リュウグウ」は、その破片が集まってできた小惑星であり、この初期世代の炭素質微惑星の残骸です。本研究成果により、太陽系形成の最初の数百万年間に、炭素質微惑星が複数の世代にわたって誕生した可能性が示唆されました。

図1. 「リュウグウ」試料に含まれる炭酸塩鉱物ドロマイトのMn–Cr放射年代測定の結果。青色はC0002粒子(二度目のタッチダウンで採取された試料)、橙色はA0058粒子(一度目のタッチダウンで採取された試料)を示す。直線の傾きの違いから、両試料のドロマイトが異なる時期にできたことが分かる。本研究では新たに、C0002粒子のドロマイトが約45億6530万年前にできたことを明らかにした。また、その形成温度が約90℃と求められた。

今後の展開

本研究により、「リュウグウ」のもととなった天体の特異な形成時期が明らかになりました。今後は、「リュウグウ」と化学的に類似した炭素質小惑星「ベヌー」からアメリカ航空宇宙局(NASA)の小惑星探査機「OSIRIS-REx」により採取された試料についても年代を調べ、両者のもととなった天体ができた時期やその後の進化を比較することが重要です。こうした比較を通じて、水や有機物に富む炭素質微惑星の起源と進化の理解がさらに進むと期待されます。

付記

本研究は、日本学術振興会(JSPS)科研費JP22K18722、JP23K22550、JP24KK0072、JP25H00678、公益財団法人山田科学振興財団2022年度研究援助、公益財団法人北海道科学技術総合振興センター(ノーステック財団)2022年度若手研究人材育成事業、並びに公益財団法人日揮・実吉奨学会 2024年度研究助成の支援を受けて実施されました。

用語説明

[用語1]
同位体顕微鏡:二次イオン質量分析計の一種。試料表面にイオンビームを照射し、そこから放出されるイオン(二次イオン)を質量電荷比ごとに分けて測定する装置。鉱物中の微小な領域について、元素や同位体の組成を精密に調べることができる。
[用語2]
ドロマイト:カルシウムとマグネシウムを主成分とする炭酸塩鉱物の一種。化学式CaMg(CO3)2で表される。「リュウグウ」では、もととなった天体の内部で氷が溶けて生じた水溶液と岩石が反応する過程で形成された。
[用語3]
Mn–Cr放射年代測定法:放射性同位体Mn-53が半減期約370万年でCr-53に壊変することを利用した年代測定法。太陽系形成後の数百万年間に起こった現象の年代測定に適している。本研究では、ドロマイトのMn–Cr同位体組成から、その形成時期を決定した。
[用語4]
酸素同位体平衡温度計:同じ水溶液と酸素同位体平衡にあった二つの鉱物の間に生じる酸素同位体組成の差は、温度によって変化する。この温度依存性を利用して、二つの鉱物の酸素同位体組成の差から形成時の温度を求める方法。本研究では、ドロマイトと磁鉄鉱の酸素同位体組成の差から温度を求めた。
[用語5]
炭素質コンドライト隕石:太陽系初期の物質を比較的よく保存している始原的な隕石の一群。化学組成、鉱物組成、同位体組成などの違いによって、いくつかのグループに分類される。多くの炭素質コンドライトにはコンドリュールが豊富に含まれる一方、リュウグウとよく似たCI型(イヴナ型)にはコンドリュールがほとんど含まれない。
[用語6]
コンドリュール:CI型(イヴナ型)を除く多くの炭素質コンドライト隕石に豊富に含まれる、直径1 mm程度の球状の粒子。初期太陽系の原始惑星系円盤内で岩石物質が一度高温で溶融し、その後急速に冷却して形成されたと考えられている。

論文情報

掲載誌:
Science(米科学誌)
タイトル:
The parent bodies of Ryugu and Ivuna formed before those of other carbonaceous chondrites
著者:
川﨑教行1*、永島一秀2、坂本直哉3、藤谷渉4、荒川創太5、馬上謙一1、木多紀子6、北島宏輝6、Alexander N. Krot2、Gary R. Huss2、阿部善也7、Jérôme Aléon8、Conel M. O'D. Alexander9、甘利幸子10、Yuri Amelin11、Martin Bizzarro12、Audrey Bouvier13、Richard W. Carlson9、Marc Chaussidon14、Byeon Gak Choi15、Nicolas Dauphas16,17、Andrew M. Davis16、Tommaso Di Rocco18、深井稜汰19、Ikshu Gautam20、羽場麻希子20、日比谷由紀21,22、日高洋23、本間寿24、飯塚毅25、Trevor R. Ireland26、石川晃20、伊藤正一27、Thorsten Kleine28、駒谷慎太郎29、Ming-Chang Liu30,31、増田雄樹20、本村和子32、Frédéric Moynier14、中井泉33、Ann Nguyen34、Larry Nittler9、Andreas Pack18、Changkun Park35、Laurette Piani36、Liping Qin37、Sara S. Russell38、Maria Schönbächler39、寺田健太郎40、寺田靖子41、臼井寛裕19、和田壮平1、Meenakshi Wadhwa42、Richard J. Walker43、山下勝行44、Qing-Zhu Yin45、横山哲也20、米田成一46、Edward D. Young30、由井宏治47、Ai Cheng Zhang48、中村智樹49、奈良岡浩50、野口高明27、岡﨑隆司50、坂本佳奈子19、薮田ひかる51、安部正真19、宮﨑明子19、中藤亜衣子19、西村征洋19、岡田達明19、矢田達19、与賀田佳澄19、中澤暁19、佐伯孝尚19、田中智19、照井冬人52、津田雄一19、渡邊誠一郎23、吉川真19、橘省吾53、圦本尚義1
所属:
1北海道大学大学院理学研究院地球惑星科学部門
2Hawaiʻi Institute of Geophysics and Planetology, University of Hawaiʻi at Mānoa, Honolulu, USA、
3北海道大学総合イノベーション創発機構
4茨城大学理学部
5海洋研究開発機構数理科学・先端技術研究センター
6Department of Geoscience, University of Wisconsin-Madison, Madison, WI, USA
7東京電機大学大学院工学研究科
8Sorbonne Université, Muséum National d'Histoire Naturelle, Centre National de la Recherche Scientifique, Institut de Recherche pour le Développement, Paris, France
9Earth and Planets Laboratory, Carnegie Institution for Science, Washington, DC, USA
10Department of Physics and McDonnell Center for the Space Sciences, Washington University, St. Louis, USA
11Guangzhou Institute of Geochemistry, Chinese Academy of Sciences, Guangzhou, China
12Centre for Star and Planet Formation, Globe Institute, University of Copenhagen, Copenhagen, Denmark
13Bayerisches Geoinstitut, Universität Bayreuth, Bayreuth Germany
14Université Paris Cité, Institut de physique du globe de Paris, Centre National de la Recherche Scientifique, Institut de Recherche pour le Développement, Paris, France
15Department of Earth Science Education, Seoul National University, Seoul, Republic of Korea
16Department of the Geophysical Sciences, The University of Chicago, Chicago, IL, USA
17Department of Earth and Planetary Sciences, The University of Hong Kong, Pok Fu Lam, Hong Kong
18Faculty of Geosciences and Geography, University of Göttingen, Göttingen, Germany
19宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究所
20東京科学大学理学院地球惑星科学系
21東京大学総合システム工学研究室
22海洋研究開発機構海底資源研究プログラム
23名古屋大学理学部地球惑星科学科
24株式会社堀場テクノサービス分析技術本部
25東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻
26School of Earth and Environmental Sciences, The University of Queensland, St Lucia, Australia
27京都大学大学院理学研究科地球惑星科学専攻
28Max Planck Institute for Solar System Research, Göttingen, Germany
29株式会社堀場テクノサービス分析技術本部
30Earth, Planetary, and Space Sciences, University of California, Los Angeles, Los Angeles, USA
31Lawrence Livermore National Laboratory, Livermore, CA, USA
32株式会社リガクアプリケーションラボ熱分析グループ
33東京理科大学理学部応用化学科
34Astromaterials Research and Exploration Science, NASA Johnson Space Center, Houston, TX, USA
35Earth-System Sciences, Korea Polar Research Institute, Incheon, Republic of Korea
36Centre de Recherches Pétrographiques et Géochimiques, Centre national de la recherche scientifique, Université de Lorraine, Nancy, France
37University of Science and Technology of China, School of Earth and Space Sciences, Anhui, China
38Department of Earth Sciences, Natural History Museum, London, UK
39Institute for Geochemistry and Petrology, Department of Earth Sciences, Eidgenössische Technische Hochschule Zurich, Zurich, Switzerland
40大阪大学大学院理学研究科宇宙地球科学専攻
41高輝度光科学研究センター分光・イメージング推進室
42School of Earth and Space Exploration, Arizona State University, Tempe, AZ, USA
43Department of Geological, Environmental, and Planetary Science, University of Maryland, College Park, MD, USA
44岡山大学大学院環境生命自然科学研究科
45Earth and Planetary Sciences, University of California, Davis, CA, USA
46国立科学博物館 理工学研究部
47東京理科大学理学部第一部化学科
48School of Earth Sciences and Engineering, Nanjing University, Nanjing, China
49東北大学大学院理学研究科地学専攻
50九州大学大学院理学研究院地球惑星科学部門
51広島大学大学院理学研究科地球惑星システム学プログラム
52神奈川工科大学
53東京大学惑星・宇宙科学機構
*責任著者)
公表日:
日本時間2026年9月11日(金)午前3時(米国東部標準時(夏時間)2026年9月10日(木)午後2時)(オンライン公開)

関連リンク

お問い合わせ

東京科学大学 理学院 地球惑星科学系
教授 横山 哲也

北海道大学 大学院理学研究院
准教授 川﨑 教行

茨城大学 学術研究院 基礎自然科学野
准教授 藤谷 渉

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東京科学大学 総務企画部 広報課

北海道大学 社会共創部 広報課