東京科学大学(Science Tokyo)の産学協働プログラム「持続可能な社会を支える都市・インフラ学」の活動の一環として、7月15日、大岡山キャンパスにおいてシンポジウム「持続可能な社会を実現するために我々は何をすべきか?」を開催しました(対面とオンラインでのハイブリッド開催)。プログラムの参加企業や学内の関係者を含め100人を超える方々が参加しました。
プログラム総括の岩波光保環境・社会理工学院長の開会のあいさつとプログラムの概要説明に続き、大竹尚登理事長が「東京科学大学のVisionary Initiatives」と題した講演を行いました。善き生活、善き社会、善き地球をつくりあげるというScience Tokyoの基本的な考え方と、その実現のための研究教育組織「Visionary Initiatives(VI)」について紹介し、組織や分野の枠を超えたビジョン駆動型の共創の一環として、本プログラムの位置づけを述べました。
続いて、2題の講演がありました。
環境・社会理工学院の後藤美香教授は、「グリーントランスフォーメーションで持続可能な未来を実現する」と題し、VIの一つであり自身がPD(プログラムディレクター)を務めるGX Frontierについて、4つのキービジョンと、それぞれのもとで進められている研究を紹介しました。さらに、これらの研究を貫く理念として、気候変動と人類の健康危機を一体的な課題として捉える「グリーンホスピタル」を取り上げました。これは、気候変動に起因する健康問題への適応と、医療活動自体が気候変動に及ぼす影響の緩和を両立するアプローチであり、人と地球環境の持続的な在り方の指針となる概念であることを述べました。
鹿島建設株式会社 専務執行役員の北典夫氏は「100年をつくる」と題して講演を行いました。持続可能な社会を考える上で重要な、過去から学び新たな視点へつなげることを、国内外における建築作品と進行中のプロジェクトを通じていかに実践してきたかを紹介しました。執務者のアメニティに着目した先進事例である「KIビル」(1989年竣工)、環境の計測、人の快適性やウェルビーイング、自然環境の取り入れを試みたシンガポールのオフィスビル「The GEAR」 (2023年竣工)、建築と自然の一体化と地域資源の活用により人の心身の健康と回復を促す建築である「KX-FOREST KARUIZAWA」 (2024年竣工)、そして大阪・関西万博の「大屋根リング」の木材をリユースし、資源や材料に加え人の記憶を次世代に継承する木造タワー「KAJIMA TREE」 (2027年竣工予定)について解説しました。北氏は、一連の建築作品には、環境と人が双方に普遍的な価値を有することを認め、環境の持続可能性とウェルビーイングによる価値を創造するという考えが通底していると述べました。
次世代研究者によるパネルディスカッションでは、環境・社会理工学院の千々和伸浩教授がモデレーターを務め、多様な専門領域の若手教員5人が「持続可能な社会を実現するために、我々は何をすべきか」について議論しました。まず、現在進行している6つの産学連携研究について、それぞれの担当教員が概要や進行状況、今後の計画を報告しました。6つの研究テーマは以下の通りです。
- テーマ1:
- 自然に健康になれる環境づくり
- テーマ2:
- 未来のくらしとまち
- テーマ3:
- 都市・地域の空間分析
- テーマ4:
- 建設解体材の価値再創出による循環型経済システムの構築
- テーマ5:
- 循環経済への移行シナリオ
- テーマ6:
- オーシャンデジタルツイン/高度利用のための宇宙インフラ
続いて、5人のパネラーによるディスカッションを行いました。まず保健・医療分野から、宮部成菜実助教(大学院看護先進科学専攻保健衛生学研究科・テーマ1)は、自然に健康になれるまちの実現に向け、センシング技術等の活用や小さな現場の意見や状況の収集が必要であることを述べました。続いて、市毛博之助教(大学院医歯学総合研究科・テーマ2)は、人の快不快に配慮したデジタルヘルス推進や、人類と地球環境の持続可能性の両立を目指すプラネタリーヘルスへのシフトを取り上げ、人の身体や小さな生活圏に目を向けていく姿勢の大切さを強調しました。中西航特任准教授(環境・社会理工学院・テーマ3)は、複雑な現実社会において「理想的な社会像」を大上段に掲げる難しさに触れ、個々人のできることや幸福に着目しその集積として都市や交通の在り方を考えることが重要と述べました。分山達也准教授(同・テーマ5)も同様に、個人の行動のメカニズムに着目した循環経済の実現を目指し、エージェントとしての個人およびその行動の規範に着目したモデルを提示するなど、個人というミクロな存在の集合体として都市・社会を考える必要があると強調しました。中村隆志准教授(同・テーマ6)は、生態系と人間社会の共存を基盤とする社会を目指すこと、そのためには、不可視化されがちな生態系サービスの認知を広めていくことが重要であると述べました。
議論のまとめとして、千々和教授は、本プログラムの学際性に触れ、それぞれの専門性や意見を尊重しながら議論を重ね、大学という枠を越えて情報を共有し議論の機会を開くこと、そして参加者のアクションにつながることが肝要であると述べました。
最後に、岩波学院長がシンポジウムの総括を行い、本プログラムは持続可能な社会をつくるというビジョンのもと、分野を横断した企業・学内の参加者で継続して取り組んでいくと述べました。
シンポジウムに続いて開催した懇親会は、活発な意見交換の場となりました。
産学協働プログラム「持続可能な社会を支える都市・インフラ学」は、これから約1年半にわたり活動します。プログラムの成果は、研究論文、SNS配信、シンポジウムなどを通して参加企業とともに広く社会に提言します。