術前の奥歯のかみ合わせで食道がん手術後の肺炎リスクを予測

2026年8月5日 公開

歯科診察で評価できるFTUが新たな周術期リスク評価指標となる可能性

ポイント

  • 食道がん手術後の肺炎は重篤な術後合併症ですが、術前に肺炎リスクを簡便に評価する方法は限られていました。
  • 術前の歯科診察で評価できるFunctional Tooth Unit(FTU)が、食道がん手術後の肺炎リスクを予測する新たな指標となる可能性を示しました。
  • 術前のリスク評価に基づく口腔機能管理や医科・歯科連携を促進し、より安全ながん治療の実現につながることが期待されます。

概要

東京科学大学(Science Tokyo)医歯学総合研究科 消化管外科学分野の石原慶大学院生、奥野圭祐助教、絹笠祐介教授と、先端材料評価学分野の三上理沙子助教、地域・福祉口腔機能管理学分野の松尾浩一郎教授らの研究グループは、食道がん手術後の肺炎リスクを術前に予測する新たな指標として、奥歯のかみ合わせの状態を表す「Functional Tooth Unit(FTU)[用語1]」の有用性を明らかにしました。

近年、術後肺炎を予防するため、周術期口腔ケアが広く行われるようになりましたが、術前に肺炎リスクの高い患者を簡便に評価する方法は限られていました。本研究では、術前の歯科診察で評価できるFTUと術後肺炎との関連を検討した結果、FTUが低い患者(奥歯でのかみ合わせが少ない患者)は、FTUが高い患者(奥歯でのかみ合わせが多い患者)と比較して、術後肺炎の発症率が約6倍高いことが明らかとなり、FTUが術後肺炎の発症リスクを予測する有用な指標となる可能性が示されました。

本研究成果は、術前の歯科評価に基づく口腔機能管理の強化を通じて、食道がん手術後の肺炎発症の低減を目指す新たな周術期管理の実現につながることが期待されます。

本成果は、7月17日(英国時間)付で「European Journal of Surgical Oncology(EJSO)」誌に掲載されました。

図1. 本研究成果の概要。食道がん患者135人を対象に、術前の歯科診察で奥歯のかみ合わせの状態を示すFTUを評価し、食道亜全摘術後30日以内に発症した肺炎との関連を検討した。その結果、FTUが低い患者では術後肺炎の発症率が有意に高く、術前の歯科診察で評価したFTUが、術後肺炎のリスクを予測する指標となる可能性が示された。

背景

食道がんに対する食道切除術は、根治を目指す重要な治療法ですが、消化器外科手術の中でも侵襲が大きく、術後肺炎などの呼吸器合併症が依然として大きな課題となっています。術後肺炎は、入院期間の延長や医療費の増加に加え、長期予後にも影響を及ぼすことが報告されており、その予防は周術期管理における重要な課題です。

近年では、術後肺炎の予防を目的として周術期口腔ケアが広く実施されるようになりました。しかし、口腔内を清潔に保つだけでは術後肺炎を十分に予防することは難しく、術前に肺炎リスクの高い患者を簡便に評価できる新たな指標が求められていました。

研究成果

FTUは、奥歯のかみ合わせの状態を数値化した指標で、咀嚼や嚥下などの口腔機能を反映するとともに、歯科診察で簡便に評価できるという特徴があります。しかし、FTUと食道がん手術後の肺炎との関連については、これまで十分に検討されていませんでした。

本研究グループは、2022年4月から2025年12月までに東京科学大学病院で食道がんに対する食道亜全摘術を受けた135人を対象に、術前の歯科診察でFTUを評価し、術後30日以内に発生した肺炎を含む呼吸器合併症との関連を解析しました。患者をFTUが7未満の低FTU群(65人)と7以上の高FTU群(70人)に分類し、術後肺炎の発症率を比較しました。

その結果、術後肺炎の発症率は低FTU群で24.6%、高FTU群で4.3%と、低FTU群で約6倍高いことが明らかになりました。さらに、年齢や喫煙歴などの影響を考慮した解析でも、FTUが低い患者では術後肺炎の発症リスクが約6.5倍高く、FTUが食道がん手術後の肺炎リスクを予測する独立した因子であることが示されました。これらの結果から、FTUは術前に簡便に評価できる新たな術後肺炎リスク評価指標として有用である可能性が示されました。

社会的インパクト

本研究成果は、術前の歯科診察による簡便な評価を活用して、食道がん手術後の肺炎リスクが高い患者を早期に把握できる可能性を示したものです。今後は、患者ごとのリスクに応じた口腔機能管理や周術期管理の実現に加え、医科・歯科が連携した、より安全ながん治療の発展につながることが期待されます。また、FTUは特別な検査機器を必要とせず、日常の歯科診療で評価できることから、臨床現場への幅広い普及が期待されます。

今後の展開

現在、本研究成果を基に、術前FTU評価を組み込んだ前向き研究を進めています。また、FTUと食道がん治療との関連についても研究を進めており、FTUが食道がん治療全体を通じたリスク評価や治療戦略の指標として活用できるかを明らかにすることを目指しています。

用語説明

[用語1]
Functional Tooth Unit(FTU):奥歯のかみ合わせ(咬合支持)の状態を評価する指標です。上下でかみ合う天然歯の小臼歯1対を1点、大臼歯1対を2点として合計点(最大12点)を算出し、点数が高いほど奥歯によるかみ合わせの状態が良好であることを示します。本研究では、入れ歯、ブリッジ、インプラントによるかみ合わせは評価に含めず、天然歯のみを対象としました。

論文情報

掲載誌:
European Journal of Surgical Oncology
タイトル:
Clinical significance of functional tooth units in predicting pulmonary complications after subtotal esophagectomy for esophageal cancer
著者:
Kei Ishihara, Keisuke Okuno, Risako Mikami, Takashi Shigeno, Taichi Ogo, Toshiro Tanioka, Kenro Kawada, Hisashi Fujiwara, Masanori Tokunaga, Koichiro Matsuo, Yusuke Kinugasa

研究者プロフィール

石原 慶 Kei Ishihara

東京科学大学 医歯学総合研究科 消化管外科学分野 大学院生
研究分野:口腔機能と消化器癌治療との関連に関する研究

石原 慶 Kei Ishihara

奥野 圭祐 Keisuke Okuno

東京科学大学 医歯学総合研究科 消化管外科学分野 助教
研究分野:消化器癌の分子診断バイオマーカー開発、消化器癌の低侵襲治療、口腔機能と消化器癌治療との関連に関する研究

奥野 圭祐 Keisuke Okuno

三上 理沙子 Risako Mikami

東京科学大学 医歯学総合研究科 先端材料評価学分野 助教
研究分野:歯周病学、口腔疾患と全身疾患の関連

三上 理沙子 Risako Mikami

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助教 奥野 圭祐

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