歯内-歯周病変の予後予測に有用な「I-J-U分類」を提唱

2026年6月30日 公開

デンタルエックス線写真から歯の生存率を客観的に評価

ポイント

  • 歯内-歯周病変に対する治療後の経過を長期的に解析し、歯の寿命を予測する因子を明らかにしました。
  • デンタルエックス線写真から判定できる新たな予後予測指標「I-J-U分類」を提唱しました。
  • 骨欠損が歯根の両側に及ぶ「U-shape型」は抜歯リスクが特に高く、適切な治療選択や歯の保存判断に役立つことを示しました。

概要

東京科学大学(Science Tokyo)医歯学総合研究科 歯周病学分野の木村文彦大学院生と岩田隆紀教授、総合診療歯科学分野の水谷幸嗣講師、先端材料評価学分野の三上理沙子講師(キャリアアップ)らの研究チームは、歯内-歯周病変(歯髄と歯周組織の両方に及ぶ病変)[用語1]の予後を予測する因子を解析し、新たな指標として放射線画像に基づく「I-J-U分類」を提唱しました。

本研究では、同大学病院を受診し、歯内-歯周病変に対する治療を受けた187歯を対象に、最長8.4年にわたる長期経過を後ろ向きに調査し、歯の生存率に影響を及ぼす臨床的因子の特定を試みました。

その結果、放射線画像における骨欠損の形態を「I-shape型(片側性・根尖病変なし)」、「J-shape型(片側性・根尖病変あり)」、「U-shape型(両側性・根尖病変あり)」の3つに分類することで、治療後の歯の寿命を高い精度で予測できることを明らかにしました。特に、U-shape型の骨欠損形態を有する歯は、I-shape型の骨欠損形態を有する歯と比較して、抜歯に至るリスクが著しく高いことが分かりました(調整ハザード比:28.1)。また、既存の予後予測指標にI-J-U分類を組み合わせることで、歯の生存予測精度がさらに向上する可能性が示されました。

本研究は、難治性とされる歯内-歯周病変において、日常診療で広く用いられているデンタルエックス線写真を活用して予後予測が可能であることを示したものです。臨床現場における客観的な治療計画の立案や、患者への適切な説明に大きく寄与することが期待されます。

本成果は、5月19日付(現地時間)で「Journal of Clinical Periodontology 」誌にオンライン掲載されました。

背景

歯科医師も悩む「歯を保存できるか、抜歯せざるを得ないか」の判断

歯の神経(歯髄)と歯を支える組織(歯周組織)の両方に病変が及ぶ「歯内-歯周病変」は、歯科治療の中でも特に診断や治療が難しい疾患の一つです。重症化すると歯の周囲の骨が広範囲に失われるため、多くの場合、「保存不可能(抜歯)」と判断されてきました。

現在、国際的には2017年に米国歯周病学会・欧州歯周病連盟(AAP/EFP)が策定した分類が診断基準として用いられています。しかし、この分類は主に現在の病態を評価するためのものであり、治療後にその歯がどの程度長く機能するかといった予後を予測する指標としては、必ずしも十分ではありませんでした。

そのため、臨床現場では歯科医師の経験に基づいて歯を残せるかどうかを判断せざるを得ない場面が少なくありません。こうした背景から、科学的根拠に基づいた客観的な予後予測モデルの確立が強く求められていました。

研究成果

デンタルエックス線画像から「歯の寿命」を可視化する

本研究グループは、歯内-歯周病変を有する187歯を対象に、最長8.4年にわたる長期経過を詳細に調査しました 。その結果、エックス線画像における骨欠損の形態に基づき、新たに「I-J-U分類」を提唱しました(図1)。

  • I-shape型:歯根の片側に根尖部に至る垂直的な骨欠損が認められるが、根尖部に明らかな透過像(根尖病変)が認められないもの。
  • J-shape型:歯根の片側に沿った骨欠損が、根尖部の透過像(根尖病変)と連続し、J字型の骨欠損を呈するもの。
  • U-shape型:歯根の両側に沿って骨が失われ、根尖部の透過像(根尖病変)と連続し、U字型の骨欠損を呈するもの。
図1. 単根歯及び複根歯におけるI-J-U分類それぞれの骨吸収のイメージ
垂直方向の骨吸収と、根尖部の骨吸収の組み合わせでI型、J型、U型と分類する

解析の結果、U-shape型の歯はI-shape型の歯と比較して、抜歯に至るリスクが有意に高いことが明らかになりました(調整ハザード比:28.1)。このことは、これまで一括して「難治性」と考えられてきた歯内-歯周病変の中でも、特にU-shape型では治療方針の決定に慎重な判断が求められることを科学的に示しています。

さらに、既存の予後予測因子にI-J-U分類を組み合わせることで、歯の生存予測精度が向上する可能性が示されました。これにより、臨床現場において歯科医師が「歯を保存できる可能性が高い症例」と「早期の抜歯を検討すべき症例」を、より客観的に判断できるようになることが期待されます。

社会的インパクト

簡便で実用的な歯内-歯周病変の新たな予後予測指標

本研究で提唱した「I-J-U分類」は、歯科診療で日常的に撮影されるデンタルエックス線写真のみを用いて判定できる予後予測指標です。特別な検査機器や高度な解析技術を必要とせず、大学病院から地域の歯科医院まで、さまざまな臨床現場で容易に活用できる点が大きな特徴です。

この指標が広く普及することで、以下のような社会的意義が期待されます。

  • 不必要な抜歯の回避:これまで歯内-歯周病変によって、「難治性」と判断され、抜歯が選択されることの多かった症例の中から、保存できる可能性がある歯を客観的に見極めることが可能となります。これにより、より多くの歯の保存につながることが期待されます。
  • 治療の質と意思決定支援の向上:骨欠損形態による具体的なリスクの違いを踏まえた説明が可能になることで、歯の保存を試みるか、あるいは早期に抜歯し、失った歯を補う治療へ移行するかについて、その歯に適した治療方針決定の支援となります。また、患者さんにとっても分かりやすい画像所見であり、歯科医師が治療方針を患者と共有しながら意思決定を行ううえでも有用と考えられます。

今後の展開

科学的根拠に基づく最適な治療選択の実現へ

本研究では、提唱した「I-J-U分類」の治療後の歯の生存率への影響を解析しましたが、今後は各分類における治療への反応性や長期的な治療成績をさらに詳しく解析していく予定です。

また、本分類を用いることで、歯の保存治療を優先すべき症例と、早期に抜歯や補綴治療を検討すべき症例を、より客観的に判別できる診断基準の確立を目指します。

将来的には、歯内-歯周病変に対する治療方針の標準化や、患者一人ひとりに適した治療選択の実現に貢献することが期待されます。

付記

本研究は科学研究費助成事業(19K10125、23K16014)の助成を受けて実施されました。

用語説明

[用語1]
歯内-歯周病変:歯の内部組織(歯内病変)と歯の周囲組織(歯周病変)の両方に病変が及ぶ複合的な疾患。一般に治療が難しく、治療後の経過が不良となることも多いため、抜歯が選択される場合が少なくない。

論文情報

掲載誌:
Journal of Clinical Periodontology
タイトル:
Prognostic assessment of tooth survival after treatment of endodontic-periodontal lesions: A retrospective study
著者:
Fumihiko Kimura, Risako Mikami, Koji Mizutani, Daisuke Kido, Kohei Takeda, Keita Nakagawa, Shu Takemura, Hiromi Kominato, Natsumi Saito, Tatsuro Seike, Eri Sakaniwa, Ayu Sugiyama, Tomoki Nogami, Satoshi Watanabe, Jun Aida, Takanori Iwata

研究者プロフィール

木村 文彦 Fumihiko Kimura

東京科学大学 医歯学総合研究科 歯周病学分野 大学院生
研究分野:歯周病学

木村 文彦 Fumihiko Kimura

三上 理沙子 Risako Mikami

東京科学大学 医歯学総合研究科 先端材料評価額分野 講師(キャリアアップ)
研究分野:歯周病学

三上 理沙子 Risako Mikami

水谷 幸嗣 Koji Mizutani

東京科学大学 歯学総合研究科 総合診療歯科学分野 講師
研究分野:総合診療学、歯周病学

水谷 幸嗣 Koji Mizutani

岩田 隆紀 Takanori Iwata

東京科学大学 医歯学総合研究科 歯周病学分野 教授
研究分野:歯周病学

岩田 隆紀 Takanori Iwata

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東京科学大学 総務企画部 広報課