発光可能な有機太陽電池の開発に成功

2026年4月22日 公開

発電するディスプレイや高効率有機太陽電池の実現に期待

ポイント

  • 良好な発電性能と高輝度な赤色の発光機能を同一素子内で実現
  • 有機EL分野で利用される発光分子を組み合わせ、理想的なエネルギー構造を解明
  • 発電可能なディスプレイの実現や有機太陽電池の効率向上に貢献

概要

東京科学大学(Science Tokyo)総合研究院 フロンティア材料研究所の伊澤誠一郎准教授、北海道大学 総合イノベーション創発機構 化学反応創成研究拠点(WPI-ICReDD)の相澤直矢准教授らの研究チームは、発光機能と発電機能を併せ持つ有機太陽電池の開発に成功しました。

光発電素子である太陽電池と、発光素子であるLEDや有機ELは、ともにダイオード[用語1]素子である一方で、発電と発光の機能を1つの素子内で両立することは難しく、高い光発電効率と発光効率の両立を実現した例はほとんどありませんでした。

今回の研究では、有機EL分野で使われる発光分子を2種類組み合わせることで、1つの素子内で光発電機能と発光機能を両立させることに成功しました。具体的には、適切な分子の選択により、光りづらい励起三重項状態[用語2]への遷移を抑制する理想的なエネルギー構造を作り出すことで、2種類の材料の界面からの高輝度の発光を得ました。この素子は太陽光の下で良好な発電性能を示し、蓄電器に電気を貯めることができるとともに、貯めた電気を利用して発光することができます(図1)。また今回の素子による発電の際には理論限界に近い非常に高い電圧値が得られました。

今回の成果は、スマートフォンディスプレイを発電素子としても利用可能にするなどの応用展開や、同様の理想的なエネルギー構造を有機太陽電池素子に導入することでその変換効率の向上に大きく寄与すると期待できます。

本研究は主に科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業CREST、戦略的創造研究推進事業さきがけ、科学研究費助成事業の支援を受け、東京科学大学 総合研究院 フロンティア材料研究所の伊澤誠一郎准教授、真島豊教授、Shui Qingjun(スイ・チンジュン)大学院生(博士後期課程)、北海道大学の相澤直矢准教授、大阪大学 大学院工学研究科の中山健一教授、徐 金垚大学院生(博士後期課程)らによって実施されました。本成果は、4月21日付(現地時間)の「Advanced Materials 」誌に掲載されました。

図1. 同一素子で太陽光の下で発電し電気を貯め、自分自身で貯めた電気で発光する様子

背景

光発電素子である太陽電池と、発光素子であるLEDや有機ELは、ともにpn接合と呼ばれる共通のエネルギー構造を素子内に持つダイオード素子です。そのため、太陽電池に電圧を印加すれば光り、逆にLEDに光を当てれば発電するのではないかと考えられますが、一般的に1つの素子内で光発電と発光の機能を両立することは難しく、高い光発電効率と発光効率を保ちながら、人間の目で見える可視光の発光を実現した例はほとんどありません[参考文献1、2]。もし1つの素子内で光発電と発光機能の両立が実現できれば、スマートフォンディスプレイに太陽光を当てれば充電できるようになるなどの、魅力的な応用が期待できます。

光発電素子と発光素子はただ単に逆の機能を持つというだけでなく、実は理論的に密接なつながりがあります。太陽電池の最大変換効率を決める理論にショックレー・クワイサー限界(SQ限界)[用語3]がありますが、SQ限界に近い高い電圧値を得るためには、光らずに熱として失活する損失(無輻射再結合)を減らすこと、つまり太陽電池自身が光るようにすることが必要です。この無輻射再結合を減らすことは、軽量・薄型・柔軟性といった特長で次世代の光発電素子として注目される有機太陽電池の発電効率向上のために重要な要素です。有機太陽電池の発電効率は現在21%程度[参考文献3]まで向上しましたが、もし有機太陽電池に発光機能を付与(無輻射再結合の抑制)できれば、さらに高い電圧値を得られることが期待できます。ひいては、ガリウムヒ素(GaAs)太陽電池やペロブスカイト太陽電池といった高効率太陽電池と並ぶ高い変換効率を得るための重要な設計指針となります。

研究成果

本研究では、有機EL分野で使われる2種類の発光分子を組み合わせることで、1つの素子内で光発電機能と発光機能を両立させることに成功しました。一般的に有機太陽電池の発光効率が0.1%以下と非常に低いのは、光発電分子として使われる電子ドナー・アクセプターどちらかの分子へエネルギー移動が起き、発光に至らない励起三重項状態(T1)が生成してしまうことが原因でした。そこで本研究では、有機EL分野で発光分子として利用される多重共鳴型熱活性化遅延蛍光分子(MR-TADF分子)[用語4]、図2中のν-DABNA、DABNA-1、QAO)や一重項–三重項逆転分子(IST分子)[用語5]、図2中のHpXy、HpMF、HpDF)[参考文献4]を用いることで、理想的なエネルギー構造を構築しました(図2)。これらの分子はT1が高い位置にあるため、界面エネルギー準位である電荷移動状態(CT状態)[用語6]よりもドナー・アクセプターのT1の方が高い状況をつくることができ、結果的に非発光性のT1へのエネルギー移動を抑制し、界面エネルギー準位からの発光を観測できるようになりました。

図2. (上)本研究で用いたドナー・アクセプター分子の構造とエネルギー準位
(下)従来の有機太陽電池と今回実現した理想的なエネルギー構造の模式図(上に示した分子を組み合わせることで実現できる)

実際にMR-TADF分子やIST分子を用いてダイオード素子(図3a)を作り、疑似太陽光を当てたところ、特に最も性能が高かったν-DABNA/QAOの組み合わせでは、1.83 Vという高い開放端電圧(VOC[用語7]が得られ、1%以上の光電変換効率を達成しました(図3b)。逆に、光を照射せずにVOCよりも高い電圧を順方向に印加していくと、CT準位に対応する620 nm付近の赤色発光が観測されました。その発光効率は1%を超え、1,000 cd/m2以上の高い輝度を達成しました(図3c)。また、この素子を太陽光下に設置すると、発電し蓄電器に電気を貯めることができ、さらにその蓄えた電気を利用して自ら発光できることも分かりました(図1)。

図3.(a)本研究で作成したダイオード素子の構造、(b)ν-DABNA/QAOの組み合わせを用いた太陽電池性能、(c)有機EL性能

これらの分子の組み合わせが高い光発電効率と発光効率を両立できた要因を明らかにするために、CT発光[用語8]の過渡応答を評価したところ、発光寿命がµsオーダーに達する非常に緩やかな減衰挙動が確認されました(図4a)。ここから無輻射再結合速度を計算すると、一般的な有機太陽電池が示す値よりも100万倍程度遅いことが分かりました。つまり、今回MR-TADF分子やIST分子を用いたことにより、無輻射再結合が大幅に抑制されたことが分かりました。

図2の分子のさまざまな組み合わせを太陽電池として動作させたときに得られたVOCを、これまでの多くの有機太陽電池の報告値、そしてSQ限界が規定する理論限界値と比較しました(図4b)。これまでの多くの有機太陽電池の研究例では、理論限界値と比較して0.3 V程度の大きな電圧損失がありましたが、今回の実験では、SQ限界に漸近する高い電圧値が示されました。

図4.(a)ν-DABNA/QAO積層膜でのCT発光の減衰挙動、(b)本研究で得られた開放端電圧値(VOC)と理論限界の比較

社会的インパクト

1つの素子内での光発電と発光機能の両立は、有機ELディスプレイを備えたスマートフォンへの発電機能の付与を可能にします。そのため、スマートフォンに太陽の光を当てれば充電できるようになるなどの魅力的な応用展開が期待できます。また現在の有機太陽電池の変換効率を25%の大台まで向上させるためには、電圧値の向上が鍵であると考えられています。本研究で達成した有機太陽電池の発光効率の向上は、理論限界に迫る高い電圧値を得るための設計指針を提示するものです。

今後の展開

今後、光発電と発光機能を両立する素子を実用化するためには、発電・発光の双方の効率をさらに向上させる必要があります。発電効率の向上に向けては、太陽光の幅広い波長領域を吸収できるようにすることや素子内部での材料の混合状態の制御などが重要です。一方で、素子の発光効率の向上に向けては、界面のエネルギー準位からの発光だけでなく、分子自身からの発光も利用する戦略が有効です。また、本研究で示された非発光性の準位であるT1へのエネルギー移動が起こらない理想的なエネルギー構造を、高効率な有機太陽電池系でも取り入れることで、理論限界に近づく高い変換効率の有機太陽電池が実現できると考えています。

付記

本研究は、科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業 CREST(JPMJCR2541)、JST 次世代研究者挑戦的研究プログラム(SPRING、JPMJSP2180)、JST研究成果最適展開支援プログラム(A-STEP、JPMJTR23R8)、JST 戦略的創造研究推進事業 さきがけ(JPMJPR2101)、および科学研究費助成事業(JP21H05411、JP22K14592)の支援を受けて実施されました。

参考文献

[参考文献1]
S. Naka et al., Electrochem. 2017, 85, 280
[参考文献2]
H. Fukagawa et al., Nat. Commun. 2026, 17, 694
[参考文献3]
H. Huang et al., Nat. Mater. 2025, 24, 1626
[参考文献4]
N. Aizawa et al., Nature 2022, 609, 502

用語説明

[用語1]
ダイオード:整流効果と呼ばれる、電流を一方向にだけ流す性質を持つ電子部品。光に関連するダイオード素子としては、太陽電池や発光ダイオード(LED)や有機発光ダイオード(有機EL)がある。これらの素子は電子が不足しているp型半導体と電子が余っているn型半導体を接合したpn接合を主に利用している。
[用語2]
励起三重項状態:外部からエネルギーを受け取り、分子内の電子が通常よりもエネルギーの高い準位に存在する状態を励起状態という。その電子の自転が生み出す磁気情報をスピンと呼び、対となる2つの電子のスピンが平行で磁気情報が打ち消されない場合を三重項、逆に反平行で打ち消される場合を一重項と呼ぶ。励起一重項状態は光りやすく蛍光を生じるが、励起三重項状態は一般的には光りにくい。
[用語3]
ショックレー・クワイサー限界(SQ限界):単一接合の太陽電池において達成可能な変換効率の理論的な上限を示す概念。1961年にウィリアム・ショックレーとハンス・クワイサーによって提案された。まず太陽光のうち太陽電池に使用される半導体のエネルギー準位幅であるバンドギャップより大きなエネルギーの光のみ発電に寄与すると仮定している。さらに光らずに損失する無輻射再結合が起こらないと仮定している。これらの仮定から得られる単一接合の太陽電池の理論限界効率は約33%である。
[用語4]
多重共鳴型熱活性化遅延蛍光分子(MR-TADF分子):共役π電子系を持つ分子において、ホウ素や窒素を適切な位置に導入することで、アニオンやカチオンを持つ共鳴構造の寄与を増大でき、分子上のπ電子密度に偏りを生じさせることができる。実際に多重共鳴効果を用いたDABNA誘導体などではHOMOとLUMOが隣接する炭素原子に交互に局在化することで、三重項励起状態と一重項励起状態のエネルギー差を縮小できるとともに、発光に伴う化学結合の伸縮振動の影響を抑制でき、狭帯域発光を実現できることや、熱による分子振動の影響を受けづらいという特徴を持つ。
[用語5]
一重項–三重項逆転分子(IST分子):一般的にはフントの規則から三重項励起状態の方が一重項励起状態よりもエネルギーが低いが、それらのエネルギー準位が逆転した分子。光りやすい励起一重項状態に遷移しやすくなる特徴を持つため、有機ELの発光分子として近年注目されている。
[用語6]
電荷移動状態(CT状態):有機太陽電池や有機ELにおいて、電子ドナーとアクセプターの界面において、電子とホールがクーロン力によって弱く結びついた励起状態。有機太陽電池や有機ELにおいて発電・発光プロセスの中間体として存在するため、電荷移動状態を制御することがそれらの効率向上の鍵とされている。
[用語7]
開放端電圧(VOC:短絡電流密度、フィルファクターとともに太陽電池の光電変換効率を決定づけるパラメータの1つ。太陽電池に使われる半導体材料のバンドギャップから、損失プロセスを差し引いた電圧値として実際に得られる。有機太陽電池においては開放端電圧の損失が大きいことがGaAsやペロブスカイト、単結晶シリコンなどの高効率太陽電池に変換効率で及ばない原因であると知られている。
[用語8]
CT発光:電荷移動(CT)状態からの発光。有機太陽電池の輻射再結合過程にあたり、ドナー・アクセプターの界面で起こる。

論文情報

掲載誌:
Advanced Materials
タイトル:
Highly-Emissive Organic Photovoltaics Approaching Theoretical Limit Voltage and Enabling Multifunctional Energy-Harvesting Displays
著者:
Qing-Jun Shui, Naoya Aizawa, Jinyao Xu, Atsuko Nihonyanagi, Daigo Miyajima, Ken-ichi Nakayama, Yutaka Majima, Seiichiro Izawa

研究者プロフィール

伊澤 誠一郎 Seiichiro Izawa

東京科学大学 総合研究院 フロンティア材料研究所 准教授
研究分野:材料化学、光機能デバイス

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