超高感度ナノワイヤナノギャップガスセンサの開発に成功

2024年11月5日 公開

空隙を含むナノワイヤにより水素検出を超高感度化

要点

  • 空隙(くうげき)を含む酸化銅ナノワイヤをナノギャップ電極間に配置した水素ガスセンサを開発
  • 従来の水素ガスセンサと比較して、一桁低濃度の水素(5 ppb)を検出可能
  • リチウムイオンバッテリーの劣化防止への応用に期待

概要

東京科学大学(Science Tokyo) 総合研究院 フロンティア材料研究所の真島豊教授の研究グループは、酸化銅ガスセンサのナノ構造に注目し、空隙を含むナノワイヤナノギャップガスセンサとすることで、従来のガスセンサと比較して、一桁低濃度の水素を検出可能な水素ガスセンサを開発することに成功しました。

水素ガスセンサは、エネルギー・環境分野、医療・健康分野、安全分野などさまざまな用途で利用されていますが、リチウムイオンバッテリーの長寿命化、水素社会の実現、生活の質(QOL)の向上などに貢献するには、その高感度化・高機能化が欠かせません。本研究では、金属酸化物半導体型酸化銅ガスセンサにおいて、電子線リソグラフィ(EBL)[用語1]を用いてナノギャップ電極[用語2]間に銅ナノワイヤを作製しました。その後、2段階の加熱処理を用いて銅を酸化させ、酸化銅ナノワイヤに空隙を形成することで、ナノ微細構造とガスセンサ応答の関係を検討しました。その結果、5 ppb(10億分の1の割合(10億分率)で表す単位、10-7%のこと)という超低濃度の水素ガスに応答することが分かりました。本研究で開発した空隙を含む酸化銅ナノワイヤナノギャップガスセンサは、従来センサと比較して、一桁低濃度の水素を検出可能です。

今後、検出したいガスに応じて最適なガス検出材料を選択しナノギャップガスセンサを構築することで、多様なガスに対するガスセンサでも高速化・高機能化することが可能であるため、産業用途への幅広い応用が期待されます。

今回の成果は、ガスセンサ分野で最も権威のある学術誌の一つである「Advanced Functional Materials」のオンライン版に11月5日に掲載されました。

  • 2024年10月1日に東京医科歯科大学と東京工業大学が統合し、東京科学大学(Science Tokyo)となりました。

背景

水素ガスセンサは、大気または環境中の水素ガスの存在や、その濃度を検出するデバイスです。これまでに金属酸化物半導体型、接触燃焼型、気体熱伝導型などの水素ガスセンサが開発され、ガス警報器などで使用されています。これらのうち金属酸化物半導体型は反応によるキャリア濃度変化に伴ってガス検出材料の電気抵抗が変化することを利用して、ガス濃度を検出します。金属酸化物半導体型ガスセンサは、ガス検出材料の抵抗を測るために、対向する一対の電極でガス検出材料を挟む構造をとります。今回、真島教授らはこのガス検出材料として空隙を含むナノワイヤ構造を検討しました。

研究成果

真島教授らはこれまでの研究で、33 nm(ナノメートル、1 nmは10億分の1メートル)のギャップ長を有する白金ナノギャップ電極をEBLにて作製する技術を確立してきました。今回の研究では、EBLにより、ナノギャップ間を跨ぐように銅ナノワイヤを形成し、2段階のアニール処理により、酸化銅(CuO)ナノワイヤに空隙を含む構造とすることにより、超高感度な水素ガスセンサを作製する手法を確立しました(図1 a)、b))。

図1. a) 空隙を含む酸化銅ナノワイヤナノギャップガスセンサの構成要素とb) その構造、c) 大気中での電流の流れとd) 水素検出時の電流の流れ。水素が存在すると電流値が変化するので、その電流の大小から水素の存在やその濃度を検出できる。

作製した酸化銅ナノワイヤナノギャップガスセンサに、ppbオーダーの極低濃度の水素を導入したときの抵抗変化の応答速度を測定しました(図2 a))。その結果、5 ppbという極低濃度の水素を検出可能であることが分かりました(図2 b))。

さらにセンサの応答・回復速度のギャップ長依存性・印加電圧依存性を調べたところ、ギャップ長が33 nmと狭い場合、および印加電圧を上げた場合に、応答速度が格段に高速化することが明らかになりました(図3)。

図2. a)極低濃度の水素ガスのガス検出応答、b)5 ppbのガス導入時の抵抗変化
図3. センサ機能におけるa)応答速度およびb)回復速度の、ギャップ長および印加電圧依存性

社会的インパクトと今後の展開

真島教授のグループでは、以前からナノスケールガスセンサの高機能化に向けた研究を進めてきており、その中でナノギャップ電極ならびにナノワイヤ構築技術を確立してきました。今回の研究で開発した空隙を含むナノワイヤナノギャップガスセンサは、従来薄膜であったガスセンサ材料をナノワイヤ化し、ナノギャップ電極間に配置したものです。

今回報告したナノワイヤナノギャップガスセンサは、ガス検出材料としての酸化銅をナノワイヤ化し、空隙構造を形成し、ギャップ長を33 nmと狭くすることで、一般に使われている水素ガスセンサよりも高感度応答を実現しました。リチウムイオンバッテリーの長寿命化や水素漏洩(えい)検出など、工業的な応用価値が高いと考えるため、今後は企業などと連携して、実用化に向けた研究開発を展開し、社会に貢献していきます。

付記

本研究は、文部科学省 データ創出・活用型マテリアル研究開発プロジェクト、科学技術振興機構(JST) 知財活用支援事業スーパーハイウェイ「ナノワイヤ水素ガスセンサ」 、同 戦略的創造研究推進事業 CREST「光配向単分子架橋共鳴トンネルトランジスタのシステム機能化」(JPMJCR22B4)の支援を受けて行われました。

本成果に関して下記の特許出願がなされています。
発明の名称:水素ガスセンサ及びその製造方法
出願番号:特願2024-32582
出願人:科学技術振興機構

用語説明

[用語1]
電子線リソグラフィ(EBL):半導体集積回路の製造工程において、電子線を使って回路パターンを形成する方法。
[用語2]
ナノギャップ電極:間隔がナノメートルオーダーの電極対。

論文情報

掲載誌:
Advanced Functional Materials
論文タイトル:
Nano-Patterned CuO Nanowire Nanogap Hydrogen Gas Sensor with Voids
著者:
Muqing Zhao, Ryosuke Nitta, Seiichiro Izawa, Jun-ichi Yamaura, and Yutaka Majima

研究者プロフィール

真島豊 Yutaka MAJIMA

東京科学大学 総合研究院 フロンティア材料研究所 教授
研究分野:ナノスケールガスセンサ、ELGPナノポアシーケンサ、単分子トランジスタ

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