生命のナノマシンが「合成し、組み立てる」人工材料

2026年6月15日 公開

プログラマブル材料工学の基盤技術として期待

ポイント

  • DNA合成酵素と分子モーターという2種類の生体分子ナノマシンにより、DNAネットワーク材料の動的形成に成功。
  • 化学エネルギーを動力源として「分子合成」と「機械的操作」を行う2段階プロセスで、自己集合では実現できない階層的な構造を構築。
  • プログラマブル材料工学の基盤技術として、次世代の分子コンピュータや分子ロボットなどへの応用に期待。

概要

東京科学大学(Science Tokyo) 情報理工学院 情報工学系(CBI学会CBI研究機構兼務)の浜田省吾助教(テニュアトラック)と京都大学 大学院理学研究科の角五彰教授らの研究チームは、DNAポリメラーゼと分子モーターという2種類の生体分子ナノマシンを使い、化学エネルギーを動力源としてDNAネットワーク材料をボトムアップで動的に形成するシステムを開発しました。

生命は、自らの身体を形作る複雑な材料を、化学燃料を消費しながら合成し、自在に組み合わせることで動的に作り出します。こういった概念を人工的に模倣する試みとしては、人工代謝系で動く分子ロボット[用語1]の開発などが既に実施されています[参考文献1-3]。しかし生体内で行われているような、複数種類の酵素や分子モーターなどを組み合わせた多段階プロセスは、限定的にしか再現されていませんでした。

そこで本研究では、DNAを合成する酵素「DNAポリメラーゼ」によって、分子モーターのレールである微小管上に長鎖DNAを合成(化学的組み立て)した後、基板上に固定された分子モーター「キネシン[用語2]」がATPをエネルギー源として微小管を滑走させ、DNA同士を機械的に引き伸ばしながら連結する(機械的組み立て)という、2段階のプロセスを実現しました。この結果、自己集合では実現できない階層的なDNAネットワーク構造が動的に形成されることを実証しました。

本成果は、分子設計だけでなく、材料の合成から組み立てまでの多段階プロセスを設計することで、自律的・動的な構造形成を実現する新しい材料工学の基盤となるものであり、将来的には次世代の分子コンピュータや分子ロボット材料の実現にも道を拓くことが期待されます。

本研究は、北海道大学 大学院理学研究院の Farhana Afroze(ファルハナ・アフローズ)博士(当時)、東京科学大学 総合研究院 Richard Archer(リチャード・アーチャー)博士、台湾中央研究院の平岩徹也博士をはじめとした国内外7機関による国際共同研究として実施されました。

本成果は、6月12日付(現地時間)の「Small 」誌に掲載されました。

図. 2種類の生体分子ナノマシンによるDNAネットワークの動的形成(論文より)

背景

生命は、さまざまな種類の生体分子ナノマシンを巧みに協調させ、ATPなどの化学燃料を消費することで、複雑な材料を動的かつ階層的に形成・維持しています。この仕組みを人工的に再現し、その物理的特性や機能性をプログラムできるような材料を作成することは、材料科学・ナノテクノロジーにおける重要な課題の1つです。

この課題に対する取り組みとして、これまでに生命の代謝の概念を模倣することで動く分子ロボットなどが開発されてきました。しかし複数種類の生体分子ナノマシンを組み合わせて、材料を「合成し、さらに機械的に組み立てる」複数段階のプロセスを人工系で実現した例はありませんでした。そこで本研究では、分子ロボティクスの技術を応用することで、この課題に取り組みました。

研究成果

本研究では、DNAを合成する酵素(DNAポリメラーゼ)と、細胞内で物質を運ぶ分子モーター(キネシン)という、2種類の生体分子ナノマシンを組み合わせることで、「化学的組み立て」と「機械的組み立て」の2段階のプロセスを実現しました。このプロセスを用いることで、DNAでできたファイバー様構造が連結された階層的構造を持つ、2次元ネットワーク材料の動的形成に成功しました。

1. 化学的組み立て(分子合成): DNAポリメラーゼによる長鎖DNA合成(図a)

最初の段階では、DNAテンプレートおよびプライマーを結合した微小管を作製し、Φ29 DNAポリメラーゼを利用したローリングサークル増幅(RCA)[用語3]により、長鎖DNAを微小管上にin situ合成(その場合成)しました。合成時間(2〜10時間)によるDNA鎖長の違いを調べた結果、4時間以上でネットワーク形成が可能であることを確認しました。

2. 機械的組み立て(エネルギー散逸的な集合): キネシン・微小管によるDNAファイバー様構造作成・連結(図b)

次の段階では、キネシンをコーティングしたフローセルにDNA修飾微小管とATPを導入しました。すると、キネシンが微小管をランダム方向に滑走させ、各微小管が運ぶ長鎖DNA同士がさまざまな箇所で接触・連結・伸長しました。この過程が自発的に進行することで、マイクロスケールのファイバー様構造からなる2次元DNAネットワークが数分以内に形成されました(図c)。一方、ATPまたはキネシン活性を除去した対照実験ではネットワークは形成されず、構造形成には分子モーターの能動的な運動が不可欠であることが示されました。

これらの現象について、微小管濃度と上記で示したDNA合成時間を系統的に変化させる実験を実施し、得られた結果に対してフラクタル次元とグラフ理論による接続性の解析を行うことで、ネットワーク形成を定量的に評価しました。さらに、自己推進力(分子モーターに起因する運動)とDNA間の相互作用の組み合わせが、ネットワーク伸長・形成に本質的に寄与していることを、粗視化コンピュータシミュレーションを利用して確認しました。

社会的インパクト

本研究は、複数の生体分子ナノマシンが化学エネルギーを動力源として材料を「合成し、組み立てる」プロセスを人工系で実証したものです。熱力学的な平衡に基づく自己集合とは根本的に異なる「エネルギー散逸的な非平衡型のアセンブリ」という材料形成の原理を人工的な材料システムで実現する一歩を示したという点で、今回の成果は材料科学に新たな設計指針をもたらすものです。

また本研究では、DNAの化学的合成と分子モーターによる機械的組み立てを組み合わせることで、形成されるネットワーク構造を制御できることを示しました。これは、分子の設計だけでなく、材料形成プロセスそのものを設計対象とする「プログラマブル材料工学」の実現に向けた重要な一歩と位置付けられます。

今後の展開

今後は今回の成果を基に、エネルギー供給の下でナノマシンが材料構造を動的に更新し続ける、生体模倣型の自律的な自己修復・応答性材料の実現を目指します。また今回開発されたプロセスは、細胞骨格・分子ロボットのモデル系として、分子モーターの駆動力がネットワーク形成・空間パターンに与える影響を定量的に研究するプラットフォームとしての活用が期待されます。さらに長期的には、動的ネットワーク形成を応用した新たな生体分子コンピューティングや分子ロボットの基盤材料としての展開も視野に入れています。

付記

この研究は、JSPS 科学研究費助成事業(科研費)JP22K12239、JP22H05396、JP20H05969、JP25K22239、JP25K21817、JP25K01194、JP26H02543、JP26H00482(浜田); JP21H04434、JP18H05423、JP26H00387、JP25H00608(角五)、JST 戦略的創造研究推進事業 さきがけ JPMJPR23Q7(浜田)、双葉電子記念財団自然科学研究助成(浜田)、JACI 新科学技術研究推奨賞(浜田)、国際科学技術財団平成記念研究助成(浜田)、NEDO JPNP20006(角五)、台湾国家科学及技術委員会 NSTC113-2112-M-001-426051-MY3(平岩)の支援により実施されました。

参考文献

[参考文献1]
分子ロボティクスの概要:Hamada, S. (2021). Molecular Robotics. In: Ang, M.H., Khatib, O., Siciliano, B. (eds) Encyclopedia of Robotics. Springer, Berlin, Heidelberg. https://doi.org/10.1007/978-3-642-41610-1_189-1
[参考文献2]
本成果のDNA側の基盤技術となった「人工代謝系で駆動するスライム型分子ロボット」:Hamada, S. et al. (2019). Dynamic DNA material with emergent locomotion behavior powered by artificial metabolism. Sci. Robot. 10;4(29):eaaw3512. https://doi.org/10.1126/scirobotics.aaw3512
[参考文献3]
本成果の分子モーター側の基盤技術となった「分子群ロボット」:J. J. Keya et al. (2018). Nat. Commun. 9, 453. https://doi.org/10.1038/s41467-017-02778-5

用語説明

[用語1]
分子ロボット:センサ、プロセッサ、アクチュエータといったロボットを構成する要素を全て分子で作り、統合したシステム。これまでにアメーバ型、スライム型、群れロボットをはじめとする複数の分子ロボットが開発されてきており、本年度よりこれらを発展させて実空間に展開させるプロジェクトが開始している(学術変革領域研究(A)「分子ロボット・エクスプローラーズ」)。
[用語2]
キネシン:細胞内の物質輸送を担うタンパク質からなる生体分子モーターの1つ。ATPの加水分解により生じるエネルギーを力学的な運動に変換し、細胞骨格の一種である微小管上を一方向に移動することで積荷を運ぶ。本研究では、基板上に固定したキネシンがその上の微小管をランダム方向に滑走させる「グライディングアッセイ」を応用することで、DNAネットワークの動的形成を実現した。
[用語3]
ローリングサークル増幅(RCA):DNAポリメラーゼ酵素反応を使い、環状DNAをテンプレートとして長鎖DNAを等温下で合成する手法。スライム型分子ロボットの要素技術として用いられている。

論文情報

掲載誌:
Small
タイトル:
Bottom-Up Synthesis and Active Assembly of DNA Networks by Biomolecular Nanomachines
著者:
Farhana Afroze, Richard J Archer, Mahammad Mustakim, Rakesh Das, Arif Md. Rashedul Kabir, Yuuto Miura, Rubaya Rashid, Kazuki Sada, Tetsuya Hiraiwa, Shin-ichiro M. Nomura, Shogo Hamada*, Akira Kakugo*

研究者プロフィール

浜田 省吾 Shogo Hamada

東京科学大学 情報理工学院 情報工学系 助教(テニュアトラック)
工学院 システム制御系
総合研究院 自律システム材料学研究センター
CBI研究機構 生体分子デザイン研究所 所長
研究分野:分子ロボティクス、DNAナノテクノロジー、ナノバイオシステム工学

角五 彰 Akira Kakugo

京都大学 大学院理学研究科 物理学・宇宙物理学専攻 教授
研究分野:アクティブマター、生体分子モーター、分子ロボティクス

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助教(テニュアトラック) 浜田 省吾

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