アントレ機構認定講座「福島第一原発の“現場”に触れるフィールドワーク」を実施

2026年6月25日 公開

2026年7月10日 更新

東京科学大学(Science Tokyo)アントレプレナーシップ教育機構人材エコシステム連携室は、5月~6月にかけて、「福島第一原発の“現場”に触れるフィールドワーク」を実施しました。

このフィールドワークは、福島第一原子力発電所を訪問し、そこから何が学び取れるかを自ら考えることで、事故を起こした福島第一原発の現状と今後について理解を深め、さらには日本の原子力利用のあり方について考えるものです。

今回は、定員の倍以上の学生から参加希望があり、希望理由をもとに人材エコシステム連携室が24人を選抜しました。参加学生には、事前学習から現地見学、事後学習まで全てのプログラムへの参加が義務付けられました。

事前学習

5月22日に実施した事前学習では、まず、原子力システム研究の第一人者であるScienceTokyo総合研究院の小原徹教授が「放射線の人体への影響」「福島第一原発の事故の概要」について講義を行いました。

前半では、小原教授が、放射線の性質や人体への影響、自然界に存在する放射線などについて、動画も交えながら分かりやすく説明し、学生たちはメモを取りながら熱心に耳を傾けました。中でも、放射線の人体への影響には「確定的影響」と「確率的影響」があり、放射線と関連づけて言及されることの多い癌は「確率的影響」に分類されることや、身の周りのさまざまなものが微量ながら放射線を放っているという事実に、多くの学生が興味を示しました。

事前学習で講義を行う小原教授

後半では、2011年3月11日に発生した東日本大震災によって福島第一原発が受けた被害の概要や周辺地域への影響、現在も続く風評被害などについて説明がありました。小原教授は、原発事故に関連してたびたびメディアの取材を受けてきた経験を踏まえ、その中で感じたことも交えながら、現場感あふれる話を紹介しました。多くの学生は震災当時の記憶がほとんどありませんが、原発事故から15年経った今でも、その影響が多くの人に及んでいることに衝撃を受けていました。

その後、本学環境・社会理工学院博士後期課程の学生が、「フィールドワークの心構え」についてレクチャーを行いました。フィールドワークの学修効果を高めるためには、「事前に問いを磨く」「現場で見たことや聞いたことを書き留める」「事後に問い直す」ことが大切であると学びました。

事前学習でレクチャーを行う博士後期課程学生

レクチャー後、参加学生は学院や学年をまたいだ4人ずつのグループに分かれ、「何に着目して見学するか」を共有しました。専門分野や学年、興味の異なる学生同士が交流を通して、「放射線」「廃炉技術」「エネルギー政策」「社会への影響」「周辺地域の復興」「東京電力職員の仕事環境」など、さまざまな側面から原発の見学に臨めることを確認しました。

グループで見学のポイントを共有

現地見学

6月5日の見学では、参加学生たちは貸切バスで現地に向かいました。まず、廃炉資料館を訪れ、東京電力社員から、2011年の震災時の津波の状況や原発設備の被害状況、放射性物質濃度の状況、廃炉作業の状況、ALPS(多核種除去設備)処理水の処分などについて、映像や図を用いながら説明を受けました。その後、福島第一原発へ向かいました。

東京電力社員による説明

原発周辺地域では、窓ガラスが割れたままの民家や草が生い茂ったままの商業施設などが残されており、人が住んでいない空き地が広がっていました。事前学習で「周辺地域の人口は事故前の1~2割にとどまっている」と学んでいましたが、それを裏付ける現実を目の当たりにしました。

原発構内では、複数回の厳重なセキュリティチェックを経て緊張感が高まる中、参加者全員が線量計を身に着け、東京電力社員と一緒に構内バスに乗りました。さまざまな設備をバスの中から見学しながら、事故で大きな被害を受けた1~4号機に近づくにつれ、線量計の数値が急激に上昇する様子を目にし、「事故から15年が経った今なお事故は終わっていない」という現実に大きな衝撃を受けました。また、廃炉作業で発生した資材が大量に置かれている状況や、処理水を海洋放出している現場なども見学し、1日あたり約5,000人が従事する廃炉作業が想像以上に時間がかかるものであることを実感しました。さらに、廃炉作業従事者の労働環境を改善するさまざまな取り組みについても学びました。

見学後の質疑応答時には、多くの学生が、廃炉技術や廃炉作業の見通し、東京電力の周辺地域への貢献などについて積極的に質問しました。

見学に訪れた福島第一原発にて
被害の深刻さを知った福島第一原発の見学

事後学習

6月10日に実施した事後学習では、見学を通して感じたことや考えたことを学生同士で共有しました。最後に、「(学生、現地住民、メディアなど)自分たちの立場を想定した上で、福島第一原発について説明する」という課題についてグループごとに話し合い、想定した立場からの説明を試みました。
見学に参加した学生たちは、普段なかなか経験できない貴重な機会から、多くの学びを得ることができました。
事前学習、現地見学、事後学習の全てに参加した小原教授は、最後に、「数ヵ月前に新潟県にある東京電力の柏崎刈羽原子力発電所が再稼働し、首都圏への送電を再開している。今回の見学を機に、これからも原子力を自分ごとに感じてほしい」と呼びかけました。

事後学習で学生の発表に対してコメントする小原徹教授

参加学生の主なコメント

  • 15年経った今でも東日本大震災の面影を感じることができました。今後数十年単位で廃炉に向けた作業が続いていくそうなので、またいつか訪れてみたいとも思いました。
  • 実際に見学して印象的だったのは、線量計の装着や身体汚染検査、リアルタイムで線量を確認できるシステムなど、放射線管理が想像以上に厳密かつ体系的に行われていたことです。また、24時間体制で医療サポートが整備されていることを知り、作業員の方々の安全を最優先に考えた環境づくりが進められていることを実感しました。医療現場における放射線管理と共通する考え方も多く、講義で学んだ内容が現場で実際にどのように実践されているのかを具体的に理解することができました。
  • 福島に行ったのは初めてなので、原発事故以前に、震災を受けた町なのだということを再確認しました。その上で、10年は使われていないであろう、今より明らかに安い価格が表示されていたガソリンスタンドがとても痛ましく思えました。
  • ニュースや授業などの座学だけでは得られない、現場の空気感や周辺地域の現状を肌で感じることができ、非常に有意義な経験となりました。
  • 見学前はどこまで視察できるのか分からず、原子炉が直接見える位置まで視察できるとは思いませんでした。除染作業、廃炉作業がここまで進んでいるとは知りませんでした。座屈タンクの側面が凹んでおり、津波の威力の強さを実感することができました。
  • 学生として学ぶ中で、つい症例ばかりに目がいき、実際の人々の生活や感情についておろそかにしてしまうことがあるが、今回見学した復興現場においては至る所でその場で生きて生活している人の息遣いを感じることができました。自分も、社会が動くそばには常に人の働きと想いがあることを念頭に置き、感謝しながら生きていきたいと思いました。
  • 社会のために良かれと思って技術を開発し実装したとしても、思わぬきっかけで悪い方向に向かってしまうことがあるということを忘れてはならないと思います。起こりうる最悪の事態にも正面から向き合って対策を練り、社会のあらゆる構成員と丁寧に対話を重ねていく勇気を持ち続けたいです。
  • 危険ではないと理解していても、原発の敷地内に入るときは少し怖かったです。科学的な正しさだけでなく、なんとなく怖い、というような気持ちに向きあって、正しい科学の知識を適切な方法で伝える必要があると思いました。
  • 改めて、我々が勉強している工学分野の技術が社会に及ぼす影響の大きさを学びました。原発事故に限らず、工学的な技術が社会をより豊かにすることや、社会に大きな影響をもたらす事故に発展することは大いにあり得るため、一つひとつの自分の情報提示の質や情報の正確性に責任をもって行動していきたいと感じました。
  • 研究などを通してこの廃炉のような大規模なプロジェクトに参加することがあるかもしれないと考えると、その時に必要なのは、専門分野に特化した知識だけではなく、他分野の知識も伴って考える力なのではないかと思いました。プロジェクト全体の中での自分の専門分野の仕事を理解し、誠実に行う姿勢が求められると感じました。
  • 今回の見学を通じて、リスクをゼロにできない状況でも、科学的根拠に基づいてリスクを評価し、少しずつ改善を積み重ねていく姿勢が重要であると感じました。将来医療者として働く際にも、放射線診断や核医学などの分野で利益とリスクの両方を正しく理解し、患者さんに分かりやすく説明できるようになりたいと思います。
  • 科学的な根拠を大切にするだけでなく、その内容を分かりやすく社会に伝える姿勢を持ちたいと思いました。今回の見学を通して、たとえ正しい情報があっても、人々の理解や信頼を得ることは簡単ではないと痛感したからです。将来は専門知識とコミュニケーション能力の両方を身につけ、人々に寄り添いながら社会に貢献できる人になりたいです。

アントレプレナーシップ教育機構では、本学アントレプレナーシップ教育の5つの要素である「先見性」「国際性」「リーダーシップ」「価値創造」「キャリア構築」に関わる講演/セミナー/講座を「機構認定講座」として開催しています。
これからも「社会共修」「異分野共修」「国際共修」の場を提供することを通じて、本学学生のアントレプレナーシップを涵養することを目指します。

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更新履歴

  • 2026年7月10日 本文の編集を行いました。

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