
2024年12月11日(水)、東京科学大学大岡山キャンパスのTaki Plaza地下2階イベントスペースにて、アントレプレナーシップ教育機構設立を記念した特別トークイベントが対面・オンラインのハイブリッド形式で開催されました。今回は「スイカゲーム」の生みの親である、本学卒業生の程涛氏をお迎えし、ヒット商品の開発秘話や、学生時代の経験から起業に至るまでの道のりを語っていただきました。約85名の参加者が集まり、熱気に包まれた会場で、アントレプレナーシップの重要性や実践例について学ぶ貴重な機会となりました。
程 涛氏 プロフィール
1982年、中国・河南省生まれ。東京工業大学卒。シリアルアントレプレナー(連続起業家)。
2008年、東京大学情報理工系研究科創造情報学専攻の修士在学中に、研究成果のpopInインタフェースを元に、東大のベンチャー向け投資ファンド「東京大学エッジキャピタル(UTEC)」の支援を受けて、東大発ベンチャー popInを創業。
2015年に中国検索大手のBaiduと経営統合、2017年に世界初の照明一体型3in1プロジェクター popIn Aladdinを開発し、2021年12月、シリーズ累計販売台数25万台を突破し異例のヒット商品となる。同年12月にNintendo Switch™ソフト「スイカゲーム」を発売、現在1,000万DLを超える大ヒットゲームとなる。
2021年4月、issin株式会社を創業。2022年8月、popIn株式会社代表を退任。2022年4月、日常生活に溶け込んだ体重計「スマートバスマット」をリリースし、現在までユーザー数50,000人を超える。2023年9月、生活習慣改善サービス「Smart Daily」を提供開始。2023年12月、運動習慣サービス「Smart 5min」を発表。

オープニング
イベントは、本学リーダーシップ教育院の渡邊真由特任准教授による進行のもと、開会しました。アントレプレナーシップ教育機構副機構長の須佐匡裕特命教授による開会の挨拶で始まりました。
須佐副機構長は、本学の教育の特徴である「くさび型教育」を紹介し、学士1年生から博士課程まで提供される専門教育と教養教育の有機的な結びつきを強調しました。さらに、アントレプレナーシップ教育を新たな柱として導入することにより、医歯学系と理工系の学生が共に学ぶことで、専門性と実社会の関係を理解し、新しい価値を生み出すことを目指すと述べました。
続いて、本学イノベーションデザイン機構のINDESTコミュニティーマネージャー 湯原理恵氏が、田町キャンパスのインキューベーションスタジオINDESTの紹介を行い、学生が大学発スタートアップのアイディアを実現するためのサポートシステムについて詳しく説明しました。


基調講演
~アントレプレナーシップを生きる私が学んだこと~
基調講演には、シリアルアントレプレナーである程涛氏が登壇し、「アントレプレナーシップを生きる私が学んだこと」というテーマで自身の経験を語りました。
程氏は、2001年に中国河南省から来日し、2003年に東京工業大学に入学、2年間語学学校で日本語を学んだ後、東京大学の大学院に進学しました。在学中に、popIn株式会社およびissin株式会社を設立し、現在に至るまでの経緯を時系列で説明しました。
来日した理由については、中国の入試制度の説明とともに、親戚に日本の大学への進学を勧められたことを挙げました。また、コンピュータサイエンスや日本の家電製品に対する愛着も決断の要因となったということです。自分が留学生であり、日本語も完璧でなかったことを振り返り、イベントに参加している学生に対し、スタートラインはご自身よりも上であると励ましました。
東工大への入学を決めたのは、テレビで「鳥人間コンテスト」を観たことがきっかけであるということです。
学士課程学生時代を振り返ったエピソードも紹介しました。1年次に、課題で自作のサーバーを作成したことがきっかけで、ウェブページ制作に没頭し、2年次には、イベントで孫正義さんの講演を聴き非常に感銘を受けたということです。また3年次には、IT企業でアルバイトをしながら、起業したいという気持ちが芽生え、4年次には東工大の院試に失敗したが東大の冬入試に挑戦したところ合格して、最終的に進学を決めたという経緯も共有しました。


程氏は、ゼロからアイディアを生み出し商品化した実例やその経緯を挙げ、現在の成功と思われるヒット商品は、数多くの失敗を重ねた結果であることを話しました。そしてアントレプレナーシップを「前に進む力」と捉えており、その考えに至った経緯を自身の経験と共に説明しました。
2007年に在学中に立ち上げたpopInでの経験から、閃きが時に理性を超える感覚を生み出し、実現のために情熱を持って取り組めることこそが「良いアイディア」であると強調しました。アイディアを商品化するために、シリコンバレーでプレゼンを行い、起業の手ごたえを得たことも紹介しました。
資金獲得の方法については、起業や共同研究からの出資、スタートアップ支援の助成金を活用することを具体的に提案しました。また、プロダクトの重要性についてもその語源とともに言及し、全てのものはプロダクト(PRO-前に DUCT-進む)の中心であり、実現したい「想い」を形にすることが人類の前進に貢献することを説明しました。
最後に、プロダクト、資金、人材、顧客に加え、新しい価値を生み出すために、行動に移すことの重要性を強調しました。特に、IQやEQだけでなく逆境に耐える力(AQ)が重要であり、学生時代からAQを鍛えておくようにアドバイスしました。
講演は「前に進む力」がアントレプレナーシップにおいて何よりも重要であるという言葉で締めくくられました。

東京科学大生とのパネルディスカッション
パネリスト
医歯学総合研究科 修士課程2年 大島雄斗
物質理工学院 材料系 学士課程4年 上岡大栄
生命理工学院 学士課程1年 武田亜美
続いて程氏と東京科学大生3名とのパネルディスカッションが行われました。
パネリストはそれぞれ、スライドを用いて自己紹介や自身の興味について紹介しました。武田さんは、本学生命理工学院を目指した理由が、小学生の頃に祖母をがんで亡くしたことに起因していると説明しました。大学に入ってからは、様々な優秀な学生との交流を通じて刺激を受け、バイオインフォマティクスにも興味を持つようになったということです。
武田さんは、程氏に大学生活についてや、これまで開発したプロダクトの共通点について質問しました。それに対し程氏は、自分自身の悩みからアイディアが生まれることもあるため、プロダクトが多様に見えるのかもしれないが、ひとたびゴールが決まれば様々なアプローチの組み合わせを考えて開発するということは共通していると答えました。
おすすめのアルバイトとして、意思決定のプロセスを間近で見ることができ、起業の失敗例から学ぶことができるベンチャー企業でのアルバイト経験を挙げました。
続いて大島さんは、医歯学系の池内研究室に所属し、医療機器の開発を行うスタートアップでインターンをした経験を共有しました。程氏にはヘルスケアについて意見を聞きたいと思い、今回参加したそうです。大島さんは、通常の医療では病気など不健康な時に課題が見つかりやすいものではあるが、程氏のビジネスは健康な時に使用するような製品を扱っている点に興味を持ち、どのようにビジネスアイディアを得ているのか質問しました。
程氏は、習慣化が課題であるとし、ダイエット人口が何年も変わっていない現状を踏まえ、モチベーションに依存しないアプローチが習慣化につながると考えていると答えました。また、予防医療にチャンスがあると指摘しました。


上岡さんは、高専時代に参加したビジネスコンテストの経験を共有しました。「フードマネジャ」という冷蔵庫内の食材をモニターし在庫管理を手助けするサービスを動画で説明し、学内選考に残らなかった苦い経験を語りました。反省点を自分なりに分析した上で、程氏にアドバイスを頂きたいという思いから、参加したとのことです。
程氏は、ここまで具体的なアイディアを持つこと自体が称賛に値すると述べ、成功した商品の背後には多くの失敗があることを踏まえ、失敗することが当たり前というマインドを持ち、そこから修正点を見つけることが重要だとアドバイスしました。他のコンテストに参加することで精度が上がり、他の参加者や社会人から学ぶことができるとし、ブラッシュアップを重ねていくことこそが大切だと強調しました。何よりも、AQを持って前に進むことが重要であると締めくくりました。
続いてQ&Aセッションが行われ、聴講者から多くの質問が寄せられました。その後の交流会には多数の学生が参加し、程氏との会話を楽しみました。盛況のうちに予定時間を超えるほどの熱気の中、本トークイベントは幕を閉じました。


参加した学生の声
講演について
・学生時代にしていた努力の多さについて、具体的に知ることができた。同じことを目指すのであればどれほどの努力や打ち込む意欲が必要となるのかを知る機会となった。さらに、起業の具体的プロセスについて、「資金はどこから」調達するのか、「人材はどこから」集めるのか、「アイデアはどうやって」考えるのか、具体的で再現性のある講演内容であったと思った。
・起業についてのイメージが漠然としていたが、実は起業も研究も、求められるバイタリティと考え方は似ているところがあるのではないかという気づきを得ました。
・何かアイデアが浮かんだ時、最初のユーザーである自分が納得するまでアイデアの試作を繰り返すという話があったが、ものづくりをするうえで実践していきたいことだと感じた。私は将来ものつくりに関わる仕事をしたいと考えており、大学生活でもものつくりをしてきた。その中で感じたことは、試作品を作る大切さである。程さんが話したように、試作品を誰かに見てもらい、フィードバックをもらうというサイクルを意識してものづくりをしていきたい。
パネルディスカッションについて
・学生からの視点からの疑問点があることで、より再現性のある、情報を吸収しやすい身にしみやすい会になっていたと思う。さらに、学生が実際に話すことで、遠い存在に思える社長を身近に感じることができ、社会との近さを実感できるの良い点だと思った。
・質問への回答に、「数をこなして経験を積むと、次第に結果を予想できるようになり、行動の数を絞ることができる」というものがあった。大学入学以来、興味のあるものには手をつけてきたつもりだったが、それが経験として身になっているのか振り返ることができたと思う。
・それぞれ違うバックグラウンドと考えを持つ方が参加されていて、面白かった。
お問い合わせ
アントレプレナーシップ教育機構
グローバル教育実施室
ghrd.info@jim.titech.ac.jp