ポイント
- 東京の眼科受診患者を比較した結果、HTLV-1は眼科受診を契機に、HIVは眼症状出現前から感染が判明している例が多いことが明らかになりました。
- HTLV-1ではぶどう膜炎と自己免疫・炎症性の全身合併が多くみられた一方、HIVでは日和見感染や梅毒などを背景とした共感染による眼疾患が特徴的でした。
- HTLV-1感染者は20代・50代・70代にピークを持つ3峰性を示し、若年層のピークには都市部で増加する水平感染の関与が示唆されました。HIVは40代がピークでした。
概要
東京科学大学(Science Tokyo)医歯学総合研究科 眼科学分野の鴨居功樹准教授、楊明明大学院生、大野京子教授らの研究チームは、東京の眼科診療でみられるレトロウイルス(HTLV-1、HIV)[用語1]感染患者を比較しました。
HTLV-1ではHTLV-1ぶどう膜炎[用語2]が中心であり、眼科受診をきっかけに感染が見つかる例が多く、自己免疫・炎症関連の全身合併も目立ちました。一方、HIVでは、眼症状が出る前から感染が判明している例が多く、日和見感染や梅毒などの感染症がみられ、サイトメガロウイルス網膜炎などの共感染病原体による眼疾患が目立ちました。
また、HTLV-1感染患者では、年齢分布に20代、50代、70代の3つのピークがみられました。一方、HIVでは40代にピークがみられました。近年、東京などの都市部では、若年層におけるHTLV-1の水平感染[用語3]が指摘されています。特に、水平感染によるHTLV-1ぶどう膜炎は、感染から短期間で、ウイルス量が低くても発症しうることが示されており、若年層のピークには水平感染が関与している可能性が示唆されました。
本研究成果は、眼科がHTLV-1感染の早期発見の入り口となりうること、そして原因不明のぶどう膜炎を認めた際には、流行地域だけでなく都市部においてもHTLV-1検査を検討することが重要であることを示しています。東京のような都市部においては、レトロウイルスは若い世代も含めて注意すべき感染症であることが示唆されました。
本成果は、4月21日付(現地時間)の「International Journal of Infectious Diseases 」誌にオンライン速報版が掲載されました。
背景
HTLV-1とHIVはいずれもヒトに感染するレトロウイルスですが、体内で引き起こす病態は大きく異なります。HTLV-1感染者は国内に約70万人いると推定されており、ぶどう膜炎、神経疾患、白血病など、多彩な病態との関連が指摘されています。一方、HIV感染者は国内に約3万人規模と推定され、免疫不全を通じてさまざまな感染症を引き起こします。
近年、東京などの都市部では、水平感染によるHTLV-1感染者の増加が指摘されています。研究チームは、水平感染によってHTLV-1ぶどう膜炎が発症することを示し[参考文献1]、さらに、水平感染では感染期間が比較的短く、ウイルス量が低くても発症しうることを明らかにしています[参考文献2]。一方、HIVでは、抗HIV療法によるウイルス量の抑制や検査・予防対策の進展を背景に、臨床像が変化してきています。これらの知見が、現在のレトロウイルス感染症の眼科的な臨床像にどのような影響を与えているかは明らかではありませんでした。
そこで研究チームは、眼科を受診したHTLV-1感染患者とHIV感染患者を比較し、眼疾患、共感染、全身疾患の違いなどを調査することで、東京におけるレトロウイルス感染症の特徴を眼科学の観点から検討しました。
研究成果
今回の研究では、HTLV-1感染患者において、眼疾患の多くをHTLV-1ぶどう膜炎が占めていました。また、HTLV-1感染は眼科受診をきっかけに初めて見つかることが多く、眼科が感染発見の重要な入り口となっていることが示されました。
年齢分布には、20代、50代、70代にピークを持つ3峰性がみられました。特に若年層のピーク(20代)には、都市部で増加している水平感染や、HTLV-1ぶどう膜炎が短期間かつ低ウイルス量でも発症しうることが関与していると考えられました。
HTLV-1感染患者では、全身疾患や自己免疫疾患の頻度が高く、炎症性合併症の広がりが目立ちました。特に自己免疫疾患が多く認められ、甲状腺関連疾患や神経疾患もみられました。これらの結果は、HTLV-1が単に眼の病気を引き起こすだけでなく、慢性的な免疫活性化や炎症性合併症を伴う感染症であることを示しています。
一方、HIV感染患者では、日和見感染や梅毒などの感染症が多くみられ、サイトメガロウイルス網膜炎など、共感染病原体によって生じる眼疾患が特徴的でした。
HTLV-1とHIVは、いずれも眼科における重要な感染症ですが、診療上の注意点は異なります。HIVでは感染症管理が重要である一方、HTLV-1では炎症性・自己免疫性の全身合併症も視野に入れた対応が重要であることが明らかになりました。
社会的インパクト
本研究は、HTLV-1感染が眼科受診をきっかけに見つかることが多いことを示しており、眼科が感染症の早期発見の入り口となりうることを示しました。東京のような都市部では、若い世代においても眼病変を起こしうる感染症として再認識する必要があります。特に、原因不明のぶどう膜炎を伴う患者では、HTLV-1検査を必要に応じて検討することが重要です。
これは、眼科だけでなく、感染症内科、神経内科、血液内科などとの連携を進める上でも重要な視点であると考えられます。
今後の展開
今後は、レトロウイルスの中でも国内に感染者が多いHTLV-1感染症について、眼科学の観点からさらなる研究を進めていくとともに、都市部におけるHTLV-1の水平感染の重要性について啓発していく必要があると考えられます。
付記
本研究は、JSPS 科学研究費助成事業(JP20K09824、JP25K02864)、厚生労働省難治性疾患克服研究事業(22FC0201)、日本医療研究開発機構(AMED)(23fk0108671h0001、23fk0108672h0001)、武田科学振興財団(ハイリスク新興感染症研究)の助成を受けて行われました。
参考文献
- [参考文献1]
- Kamoi K, et al. Horizontal transmission of HTLV-1 causing uveitis.
Lancet Infectious Diseases. 2021;21(4):578. - [参考文献2]
- Kamoi K, et al. Sexual transmission of HTLV-1 resulting in uveitis with short-term latency and low proviral load.
Journal of Medical Virology. 2024;96(10):e70000.
用語説明
- [用語1]
- レトロウイルス:一度感染すると体内に残り、生涯にわたって感染が続くウイルスであり、HTLV-1(ヒトT細胞白血病ウイルス1型)やHIV(ヒト免疫不全ウイルス)などが含まれる。
- [用語2]
- ぶどう膜炎:眼の中に炎症が起こり、視力低下の原因となる疾患。
- [用語3]
- 水平感染:母子感染ではなく、性行為や血液などを介して人から人へ感染すること。
論文情報
- 掲載誌:
- International Journal of Infectious Diseases
- タイトル:
- Distinct Ocular and Systemic Profiles in Ophthalmic Patients with Retrovirus Infection in Tokyo: A Comparison of HTLV-1 and HIV
- 著者:
- Mingming Yang, Yuan Zong, Yaru Zou, Jing Zhang, Kyoko Ohno-Matsui, Koju Kamoi*
研究者プロフィール
鴨居 功樹 Koju Kamoi
東京科学大学 医歯学総合研究科 眼科学分野 准教授
研究分野:眼炎症・眼感染症・眼科手術
楊 明明 Mingming Yang
東京科学大学 医歯学総合研究科 眼科学分野 大学院生
研究分野:眼炎症・眼感染症
大野 京子 Kyoko Ohno-Matsui
東京科学大学 医歯学総合研究科 眼科学分野 教授
研究分野:近視、網膜疾患