7月30日から31日にかけて、大竹尚登理事長、森尾友宏理事をはじめとした東京科学大学(Science Tokyo)の代表団は、オーストラリアのメルボルン大学(The University of Melbourne)を訪問し、Glyn Davis AC暫定学長をはじめとする大学執行部、連携が深い部局や、特徴的な組織・施設の代表とミーティングを行いました。
メルボルン大学とは、旧・東京工業大学が1994年から全学協定を、旧・東京医科歯科大学では、1994年度から歯学部が部局間協定を結んでいます。直近では2025年にメルボルン大学からの訪問団を2度大岡山キャンパスに受け入れるとともに、複数回のオンラインミーティングを実施し、研究連携の強化に向けた意見交換を重ねてきました。特に、両大学が重視する学際的研究の推進方針や研究アプローチには共通点が多く、研究分野を横断した新たな連携の可能性について議論を深めてきました。
こうした継続的な交流を通じて、両大学は、今後さらに大きく発展可能な連携の可能性があると認識しており、より戦略的な大学間連携へ発展させていくことで一致しました。
これらの議論を踏まえ、今回、代表団がメルボルン大学を訪問し、今後の研究協力の深化、共同研究の創出、ならびに両大学の強みを生かした新たな連携機会について、関係者と直接意見交換を行う機会を得ました。
また、今後の研究連携の具体化・発展を支援するため、総合研究院 ゼロカーボンエネルギー研究所 兼 物質理工学院 材料系の吉田克己教授、環境・社会理工学院 土木・環境工学系の澤田茉伊准教授が代表団に同行しました。両教授は、それぞれのカウンターパートとなるメルボルン大学の研究者と個別に研究ミーティングと研究室見学を実施し、今後の共同研究の可能性や連携強化に向けた意見交換を行いました。
トップ会談
Science Tokyoの代表団は、7月31日にGlyn Davis AC暫定学長、Mark Cassidy研究担当副学長、Michael Wesley国際・文化・交流担当副学長と会談を行いました。
会談では、大学統合後に発足した本学のビジョナリーイニシアティブ(VI)について紹介しました。学際的研究を柱とした戦略的な研究体制の構築を進めていることから、両大学が目指す研究ビジョンや、今後戦略的に強化すべき研究分野について意見交換がされました。
また、7月28日に日本とオーストラリア間で量子技術分野における協力に関する覚書が締結されたことを踏まえ、量子技術分野における今後の連携可能性についても議論を行いました。さらに、メルボルン大学の徒歩圏内にあるバイオメディカル研究に関わる大学、病院、研究機関、スタートアップ企業が形成する南半球最大規模の地域であるメルボルン・バイオメディカル・プレシンクト(Melbourne Biomedical Precinct)を活用した、バイオメディカル分野における研究連携の可能性についても意見交換が行われました。
これらの議論を通じて、研究連携の可能性だけでなく、Science Tokyoが推進するステークホルダー戦略やキャンパス戦略の検討においても参考となる知見を得ることができました。
メルボルン大学とは、学際的研究の推進や社会課題の解決に向けた研究展開など、多くの共通するビジョンを有していることを改めて確認することができました。今後も両大学の強みを生かし、オーストラリア政府が行う近隣国との協力支援を活用しながら、研究を中心とした戦略的な連携強化を進めていきます。
各組織とのミーティング・施設見学
工学・情報技術学部と次世代の工学教育・研究連携について議論
前日の7月30日に、Science Tokyoの代表団は、メルボルン大学の工学・情報技術学部(Faculty of Engineering and Information Technology:FEIT)とミーティングを行いました。Science TokyoとFEITは、アジア・オセアニア工学系トップ大学リーグ(The Asia-Oceania Top University League on Engineering(AOTULE))にともに加盟しており、これまでも物質理工学院や歯学分野を中心に、学生交流や研究者交流を継続的に実施してきました。
今回のミーティングでは、企業と連携した教育プログラムの展開や、優秀な教員・研究者の獲得に向けた取り組みについて双方から紹介があり、既存の交流をさらに発展させ、教育・研究の両面における連携強化を進めていく方向性を確認しました。
研究・産学連携部門との産学連携エコシステムと共同研究推進体制に関する意見交換
7月31日には、Alastair Sloan副学長が統括するメルボルン大学研究・産学連携部門(Melbourne Research and Enterprise:MRE)とミーティングを行いました。MREの企業連携を推進するための学内体制やプロセス、大学が運用する研究支援ファンドについて説明を受けました。また、本学のVIと連携することにより相乗効果が期待できる、戦略的連携分野についても議論しました。今後、両大学の研究力を生かした共同研究や社会実装に向けた連携の深化が期待されます。さらに、研究交流を一層促進するため、今後の共同研究を支援するシードファンドの具体化についても検討していくことを確認しました。
医学・歯学・健康科学部及び理学部とのミーティング
医学・歯学・健康科学部(Faculty of Medicine, Dentistry and Health Sciences)とは、旧・東京医科歯科大学時代から歯学分野を中心とした連携が継続しています。今回の7月31日の訪問では、医学・歯学・健康科学部のMatt Watt教授(医学・歯学・健康科学部 副学部長)、Petros Papagerakis教授(歯学科長)、Mathew Lim博士(歯学科 国際研究部門 副ディレクター)、に加え、理学部(Faculty of Science)のWilla Huston教授(理学部 国際担当副学部長)とも意見交換を行い、Science Tokyoが重点的に推進している医工連携分野における研究協力の可能性について議論しました。
特に嚥下機能障害や口腔内細菌などの影響が、口腔内にとどまらず、全身の健康や疾患との関連に大きな影響を及ぼす点について、両大学の研究関心の高い共通領域として活発な意見交換が行われました。
また、量子センサの医療応用や気候変動が健康・医療に与える影響など、科学技術と医学の融合による新たな研究展開の可能性についても議論が行われました。
特徴的なキャンパス・施設
メルボルン・コネクト
メルボルン・コネクト(Melbourne Connect)は、民間企業と共同で運営するオープン・イノベーション・ハブ拠点であり、大学、企業、スタートアップ、研究者が集まり、新たな研究・事業創出を目指すエコシステムを形成しています。
施設内には人の流れや光、地熱、太陽光、気温等を計測する1,000個以上のセンサが設置されており、取得したデータを活用して、利用状況に応じたエネルギー制御を行うなど、環境負荷の低減を実現しています。また、これらのデータは建物入り口に設置されたLED作品「The Heart」のデータソースとして活用され、建物の状態や人の活動を光の変化として表現しています。
建物内には、多数のスタートアップ企業や、大学の複合分野型研究組織が入居しており、共用のエリアを多く配置することで、異なる分野・組織間の偶発的な交流が生まれるよう設計されています。また、大学が企業の課題やニーズを把握し、共同研究や新たな連携につなげるため、定期的にイベントの開催や、共用のカフェスペースの設置など、日常的なコミュニケーションを促進する環境づくりが進められています。
さらに、施設に隣接して約500名規模の学生・研究者向け宿舎が整備されており、こちらも民間企業が運営しています。
ドハーティ研究所で意見交換
森尾理事は、7月31日にドハーティ研究所(The Peter Doherty Institute for Infection and Immunity)を訪れました。ドハーティ研究所は、T細胞がウィルスを認識する仕組みの解明により、1996年にノーベル生理学・医学賞を受賞したPeter Charles Doherty氏の名を冠する、感染症・免疫研究を専門とする研究所です。本研究所は、メルボルン大学とロイヤル・メルボルン病院(Royal Melbourne Hospital)が2014年に設立した共同研究拠点であり、両機関が有する既存の研究・臨床組織を統合する形で運営されています。大学の基礎研究力と、病院が有する臨床・公衆衛生分野の知見を融合できる点が大きな特徴であり、研究成果を社会実装や医療現場へ迅速につなげる体制が強みとなっています。
今回の訪問では、免疫学を専門とする森尾理事が、ドハーティ研究所のPaul Gorry教授と、それぞれの研究内容や感染症・免疫研究の最新動向について意見交換を行いました。両者は専門分野における知見を共有し、専門家同士の有意義な交流の機会となりました。
アイケンヘッド医療研究イノベーションセンターを視察
アイケンヘッド医療研究センター(Aikenhead Centre for Medical Discovery:ACMD) は、セント・ビンセント・ホスピタル・メルボルン(St Vincent’s Hospital Melbourne)に隣接する医工連携拠点であり、メルボルン大学以外の大学をはじめ、複数の大学・研究機関、ライフサイエンス分野の企業が参画するオープン・イノベーション・ハブです。施設内の企業や研究機関が、研究設備を共有することで、異なる組織間の交流や新たな共同研究の創出を促進しています。高度な実験設備を共用する施設は世界的にも珍しく、設備利用だけでなく、研究者や企業間の偶発的な出会いや日常的な情報交換が生まれる点が大きな特徴となっています。
メルボルン大学の利用エリアには、外部磁場の影響を遮断した環境で脳活動を計測できるファラデーケージ、高速連続撮影が可能なステレオX線撮影装置、歩行データを取得できる感圧計を備えたモーションキャプチャーシステムなど、先端的な研究設備が整備されています。これらの設備を活用し、基礎研究から臨床応用、さらには産業化までを一体的に推進する研究・イノベーション拠点として機能しています。
パークビル・キャンパス
今回訪問を行ったパークビル・キャンパスは、メルボルンのビジネス中心地区であるCBD(Central Business District)から近接した場所に位置し、市内最大規模の公園や、動物園、王立博物館などに囲まれた、緑豊かで魅力的な環境にあります。
キャンパスは、歴史的な建物や、モダンな研究施設、芝生のオープンスペースが織りなす開放的な空間を、歩行者中心の小道がつないでいます。学生や研究者が自然に交流できる場が随所に設けられており、学修・研究活動だけでなく、課外活動やコミュニティ形成を促進するキャンパス環境となっています。
また、キャンパス内には、かつて教授用宿舎として使用されていた建物を改装した会員制の交流施設「ユニバーシティ・ハウス(University House)」があります。教職員や卒業生などの大学関係者が会員になることができ、会食や各種イベントの会場として利用されています。教職員をはじめとする大学関係者同士が自然に交流できる場としても機能しています。
メルボルン大学が持つコラボレーション施設や、近隣の大学、病院、研究機関、企業、スタートアップが近接することで、研究成果の社会展開を促進する学術・イノベーション地区が形成されており、研究・教育・産業界をつなぐエコシステムの中心を担っています。
今後の発展へ向けて
今回の訪問では、メルボルン大学やその周辺の充実した環境、大学・企業・病院を巻き込んだエコシステムを体感し、Science Tokyoの大学運営に活かせる知見が得られました。
各ミーティングでは、ビジョンの共有ができ、これまでの研究者間のコネクションを活かした連携に加え、戦略分野やビジョンでつながる連携に発展させる点が重要視されました。
既存の連携を活かしつつ、シードファンドの実施を中心に、多くの分野で広く大学連携がされるよう、協力を進めていきます。