キャラクター動作のニュアンスを連続制御する生成AI

2026年9月4日 公開

感情・勢い・誇張の度合いを中間データなしでコントロール

ポイント

  • 人間の動きを生成するAIにおいて、演技のスタイルを連続的に調整する「Motion Style Slider」を開発
  • 中間的な強さの教師データを用いず、通常の動作とスタイルを付加した動作の2点のデータから学習し、滑らかな表現の変化を生成
  • ゲーム、映像、アニメーションなどで、クリエイターの演出意図に応じた直感的な動きの調整を支援

概要

東京科学大学(Science Tokyo)情報理工学院 情報工学系のリャオ・チェンチェー(廖振傑)特任助教と小池英樹教授、株式会社Cygamesの研究チームは、3Dキャラクターアニメーションなどで用いる人間動作生成AIにおいて、動きのスタイルの強さを連続的に制御する技術「Motion Style Slider」を開発しました。

ゲームや映像の製作では、「もう少し楽しそうに」「少し抑えた表現に」「さらに大げさに」といった演出上の指示に合わせ、キャラクターの動きの印象を細かく調整する必要があります。しかし、従来のアニメーション生成技術では、喜びや怒りなどを固定的なカテゴリとして扱うことが多く、表現の強さを連続的かつ安定して操作・変更することは容易ではありませんでした。また、弱い・中程度・強いといった各段階の動作データを多数集めて学習させることは、モーションキャプチャ[用語1]収録の負担が大きく、実用上の課題がありました。

本研究では、通常の動作と、同じ内容にスタイルを付加した動作という2つの端点データから、動きのスタイルが変化する方向を学習します。生成時にはスライダーに数値を指定することで、ニュートラルな動作からスタイルを付加した動作へ、さらに強調した表現までを段階的に生成できます。複数のモーションデータセットによる評価では、既存手法と比べ、スタイル強度の一貫した制御、滑らかな変化、および強い表現への外挿において良好な結果を示しました。

本研究成果は、コンピュータ・ビジョン分野の国際会議「European Conference on Computer Vision 2026(ECCV 2026)」で発表されます。同会議は2026年9月8日から12日(現地時間)に、スウェーデン・Malmöで開催される予定です。

背景

ゲーム、映像、アニメーション、バーチャルキャラクターなどの製作では、キャラクターの動きが作品の印象や感情表現を大きく左右します。同じ歩行や跳躍、キックといった動作でも、キャラクターの感情や性格、勢い、誇張などの演出の度合いによって、受け手が感じる印象は異なるものとなります。そのため製作現場では、演出担当者やアニメーターが「もう少し強く」「少し抑えて」「さらに誇張して」といった指示を繰り返し、動きを調整しています。

近年、拡散モデル[用語2]を用いた人間動作生成技術は発展し、自然で多様な動きを生成できるようになりました。一方、既存のモーションスタイル変換[用語3]技術の多くは、スタイル(感情や勢い、個性などの動きの印象)を「喜び」「悲しみ」「怒り」などの離散的なカテゴリとして扱っています。このため、製作に必要な表現の強弱を連続的に調整することや、演出の強弱の指示に忠実した変化を得ることには課題がありました。

さらに、表現の強さを学習させるには、スタイルの弱い演技、中程度の演技、強い演技といった段階的なモーションデータが必要になると考えられてきました。しかし、同じ動作内容・同じスタイルについて多段階のデータをモーションキャプチャで大量に収集することは容易ではありません。

研究成果

本研究チームは、通常の動作とスタイル付き動作の2つの端点だけを用いて、スタイルの変化方向を学習する「Motion Style Slider」を提案しました(図1)。入力となる通常の動作(Content)とスタイル付き動作(Style)を基に、スライダー値αを変えることで、スタイルの強さを連続的に制御して動作を生成します。

図1. Motion Style Sliderの概要
入力となる通常の動作とスタイル付き動作を基に、スライダー値αを変えることで、スタイルの強さを連続的に制御して動作を生成する。

提案手法は、動作の内容を保つ情報と、スタイルの変化方向を表す情報を分けて扱い、スライダー値αに応じた情報を拡散モデルに入力します(図2)。これにより、中間的な強さに関する正解データがなくても、スタイルの程度が弱い動作から強い動作までを滑らかに生成できます。また、学習時にスタイル強度の直線性と単調性を促す仕組みを導入しました。これは、スライダー値を大きくした際に、スタイルの変化が不規則に戻ったり飛んだりせず、予測可能な順序で強くなるようにするものです。

図2. Motion Style Sliderのネットワーク構成
タイル付き動作と通常動作からスタイルの変化方向を求め、利用者が指定するスライダー値αに応じたスタイル情報と動作内容の情報を、事前学習済みの動作生成モデルに入力する。

本研究では、既存のスタイル変換手法との比較として、スタイルの再現性、内容動作の保持、動きの自然さ、スライダー操作への追従性について共通の条件下で検証しました。その結果、提案手法はスタイル強度の制御に関する指標で良好な性能を示しました。生成例の比較でも、提案手法は指定したスタイルの強弱に応じて動きを段階的に変化させました(図3)。さらに、学習に用いない、評価用にキャプチャしたより強い「オーバーリアクション」のモーションと本手法で生成したオーバーリアクションとの比較により、端点を超えた強い表現を生成する能力も検証しました。

図3. 既存手法との生成例比較
同じ内容の動作に対してスタイル強度を変化させた際の、提案手法(OURS)と既存手法(ABERMAN, MCM-LDM)の生成例。提案手法は、指定したスタイルの強弱に応じて、動きを段階的に変化させる。

なお、この評価用モーションの一部は、株式会社Cygames大阪のモーションキャプチャスタジオの協力を得て収録しました。

社会的インパクト

本技術により、動作のスタイルを固定的なカテゴリから選ぶだけでなく、クリエイターの演出意図に合わせて強さを直感的に調整できるようになる可能性があります。多数の中間段階データを新たに収集しなくても表現の強弱を扱うことができるため、ゲーム、映像、アニメーション、バーチャルキャラクター製作における試行錯誤や製作支援への応用が期待されます。

本研究が目指したのは、誰にとっても同じ絶対的な「2倍」の強さを定めることではなく、利用者が指定するスライダーの増減に対して、予測可能な順序で表現を変化させることです。このような制御性は、生成AIを製作工程に組み込むうえで重要な要素となります。

今後の展開

今後は、より自然で破綻の少ない動作生成、さまざまなキャラクターや演技スタイルへの適用、ゲーム・映像・アニメーション製作のワークフローとの統合を目指します。また、より大きなスタイル強度でも安定した動作を生成するための身体的制約の導入や、未経験のスタイル・テキストによる制御への拡張にも取り組む予定です。

付記

本研究は、東京科学大学と株式会社Cygamesによる共同研究として実施しました。研究の評価には、株式会社Cygames大阪のモーションキャプチャスタジオの協力を得て収録したモーションデータの一部を用いています。

用語説明

[用語1]
モーションキャプチャ:人の身体に装着したセンサーやカメラなどを使って、身体の動きをデジタルデータとして記録する技術
[用語2]
拡散モデル:データに徐々に加えたノイズを取り除く学習を通じて、新しい画像、音声、動作などを生成するAI技術
[用語3]
モーションスタイル変換:歩く、走るなどの動作内容を保ちながら、感情や勢い、個性などの動きの印象(スタイル)を別のものへ変換する技術

学会情報

発表学会:
European Conference on Computer Vision 2026(ECCV 2026)
タイトル:
Motion Style Slider: Endpoint-Supervised Continuous Style Control for Human Motion Diffusion
著者:
Chen-Chieh Liao, Yichen Peng, Yiyi Cai, Yûi Ono, Hiroki Hanaoka, Erwin Wu, Hideki Koike, Shuichi Kurabayashi
プロジェクトページ:
Motion Style Slider | Chen-Chieh (Jacky) Liao

研究者プロフィール(論文著者順)

リャオ・チェンチェー(廖 振傑) Chen-Chieh Liao

東京科学大学 情報理工学院 情報工学系 特任助教
研究分野:ヒューマンコンピュータインタラクション

ホウ・イシン Yichen Peng

東京科学大学 情報理工学院 情報工学系 特任助教
研究分野:ヒューマンコンピュータインタラクション

サイ・イイツ Yiyi Cai

東京大学 情報理工学系研究科 創造情報学 大学院生
研究分野:コンピューターグラフィックス

小野 祐為 Yûi Ono

株式会社Cygames リサーチャー
研究分野:生成AI

花岡 洋輝 Hiroki Hanaoka

株式会社Cygames シニアリサーチエンジニア
研究分野:生成AI

ウー・エアウィン Erwin Wu

東京科学大学 情報理工学院 情報工学系 特任准教授
研究分野:ヒューマンコンピュータインタラクション

小池 英樹 Hideki Koike

東京科学大学 情報理工学院 情報工学系 教授
研究分野:ヒューマンコンピュータインタラクション

倉林 修一 Shuichi Kurabayashi

株式会社Cygames 技術顧問/Cygames Research 所長/Cygames AI Studio 取締役(研究担当)
研究分野:生成AI

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東京科学大学 情報理工学院 情報工学系
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