ポイント
- 小型衛星でも強い電波を送れる「折り紙展開アンテナ」の成立性を打ち上げ前の試験にて実機で実証
- 織物とフレキシブル基板を用いた折り紙構造により、小型収納と強い電波の両立を実現
- 小型衛星の通信能力を向上し、宇宙インターネットや災害監視への応用に期待
概要
東京科学大学(Science Tokyo) 工学院 電気電子系の戸村崇准教授、鈴木皓大修士課程学生(研究当時)、黒川晴希修士課程学生(研究当時)、機械系の坂本啓教授らの研究チームは、織物とフレキシブル基板[用語1]を用いた折り紙構造のリフレクトアレーアンテナ[用語2]を提案し、小さく収納して宇宙で大きく展開できる方式を地上にて実証しました。2種の織物[用語3]の間にフレキシブル基板を縫合するアンテナ構造を Flasher折り紙パターン[用語4]で折り畳み、飛び出す絵本方式によりアンテナを展開します。さらに、アンテナをコンパクトに配置できるビームチルト給電[用語5]と偏波変換機能[用語6]を組み合わせることで、超小型衛星[用語7]への搭載と強い電波の両立を確認しました。本成果により、小型衛星でも高速通信が可能となることを示しました。
近年、超小型衛星を用いた通信や地球観測の利用が拡大していますが、搭載スペースの制約により利得の高い大型アンテナを積めず、通信性能が制限される課題がありました。本研究は、小型衛星でも大型アンテナに匹敵する高い通信能力を持てる可能性を示し、広域通信網や災害監視、宇宙インターネットの実現に貢献することが期待されます。今後は3U CubeSat「OrigamiSat-2」に搭載して宇宙実証を行い、実用的な宇宙通信基盤への展開を目指します。
本成果は、1月27日付の「IEEE Transactions on Antennas and Propagation 」誌に掲載されました。
背景
近年、小型で安価な人工衛星「小型衛星・超小型衛星(CubeSat)」を低軌道上に多数打ち上げて、地球観測や通信サービスに利用する計画が世界中で進んでいます。衛星を小さくできればコストを大きく下げられるため、将来の宇宙インターネットや災害監視などへの応用が期待されています。
しかし、小型衛星には大きな問題があります。衛星が小さいほど搭載できるアンテナも小さくなり、電波が弱くなるため実効的な通信速度が遅くなってしまいます。本来、遠くまで強く電波を送るには大きなアンテナが必要ですが、ロケットに搭載するためには小さく収めなければなりません。この「小さく収納」と「強い電波」を両立することが、小型衛星の大きな課題でした。
研究成果
本研究では、折り紙のように小さくたたんで宇宙で大きく広がる「膜構造リフレクトアレーアンテナ」を提案し、成立することを実機によって確認しました。アンテナは2種類の織物と柔軟なフレキシブル基板で構成されており、収納時は手のひらサイズに収まりながら、50 cm×50 cmサイズに展開し、強い電波を実現します。
折りパターンにはFlasher折り紙パターンを採用し、絶縁性織物と導電性織物の間にコの字型に折り曲げたフレキシブル基板を縫合する構成としました。フレキシブル基板には、電波の反射のタイミングを制御する銅箔パッチを配置しています。アンテナとして機能させるためには、パッチと導電性織物を5mm離す必要があります。四隅を引っ張りながら展開すると、飛び出す絵本のようにフレキシブル基板が立ち上がり、両者の間隔を確保できます。
さらに、アンテナを超小型衛星の小さな筐体に搭載するため、展開機構を必要としないビームチルト一次放射器と偏波変換反射素子を採用しました。ビームチルト一次放射器は6素子のアンテナから構成され、各素子を適切な位相で給電することで、リフレクトアレーを効率よく照射します。偏波変換素子は一次放射器から放射される直線偏波を、衛星通信で用いられる円偏波に変換します。これらを組み合わせることで、超小型衛星への搭載と強い電波を同時に満たせることを示しました。すなわち、「小さく収納できるのに遠くまで届く電波」を実現できる可能性を、数値解析と地上試験の両方で明らかにしました。数値解析でビームチルト一次放射器による効率的な照射と直線偏波から円偏波への変換が確認されました。また、高利得なアンテナ特性つまり「強い電波」の放射が地上の電波暗室試験で確認されました。
社会的インパクト
本成果により、小型衛星でも大型衛星に近い通信能力を持たせられる可能性が示されました。これにより、多数の低コスト衛星による広域通信網の構築や、災害時の緊急通信、高頻度な地球観測の実現が期待されます。宇宙利用はこれまで一部の大型衛星に限られていましたが、小型衛星の性能が向上することで、宇宙サービスがより身近な社会インフラへと発展していきます。
今後の展開
今後は、本アンテナを3U CubeSat「OrigamiSat-2」に搭載し、宇宙環境での実証を行う予定です。実際の宇宙では、打ち上げ時の振動や温度変化、真空環境などの影響により、地上試験とは異なる挙動が生じる可能性があります。そのため、展開動作の確実性や通信性能の変化を観測し、宇宙での動作条件を明らかにします。
また、膜構造特有の変形によって電波強度が低下する可能性があるため、その影響を補償する設計手法の検討を進めます。これにより、軽量で折りたためる構造を維持したまま、より安定した通信性能を実現することを目指します。
将来的には、小型衛星を多数連携させる衛星コンステレーションへの応用を想定しています。本技術により、小型で低コストな衛星でも高速通信や高精度観測が可能となり、広域通信サービスやリアルタイム観測などの宇宙利用の普及につながることが期待されます。さらに、宇宙だけでなく、展開型構造と高周波通信を組み合わせた新しいアンテナ技術として、災害対応や移動体通信など地上用途への展開も視野に入れています。
付記
本研究の一部はJSPS科学研究費助成事業 20H02146、23K26105、24H00358の助成、総務省SCOPE(受付番号JP205003030)の委託を受けたものです。
用語説明
- [用語1]
- フレキシブル基板:ポリイミドで構成される柔軟な基板。高精度にアンテナ銅箔パターンを形成できる。
- [用語2]
- リフレクトアレーアンテナ:パラボラアンテナと同等の特性を平面構造で実現するアンテナである。おわん型の代わりに形状の異なる反射素子を配置し、電波の反射位相(タイミング)をコントロールし、平面でもあたかもそこにパラボラ形状があるかのようにふるまう。
- [用語3]
- 2種の織物:絶縁性の織物と導電性の織物で、それぞれ絶縁性・導電性の糸を織り込んで作られる。織物特有の伸縮性によりアンテナの小型収納を可能にしている。
- [用語4]
- Flasher折り紙パターン:山折りと谷折りを組み合わせ、平らなシートを渦巻き状に小さく折りたため、四隅を引っ張るだけでスムーズに広げることができる。
- [用語5]
- ビームチルト給電:複数の放射素子でアンテナを構成し、各素子の励振位相(タイミング)を適切に調整し、電波の放射方向を制御する方式。
- [用語6]
- 偏波変換機能:到来した電波の電界の向き(偏波)を直線偏波(直線軌道)から円偏波(円軌道)に変換する機能。円偏波はアンテナの向きのみを合わせれば良いため、衛星通信や衛星放送では円偏波が用いられる。
- [用語7]
- 超小型衛星:10cm×10cm×10cmの立方体を基本単位(1U)とする、規格化された小型の人工衛星のこと。大型衛星に比べて低コスト・短期間で製作できるため、大学や企業でも宇宙実験を行えるようになり、地球観測、通信、技術実証など幅広い分野で利用が拡大している。一方で搭載スペースが限られるため、大きなアンテナや高性能機器を積みにくいという課題がある。
論文情報
- 掲載誌:
- IEEE Transactions on Antennas and Propagation
- タイトル:
- A 5.8-GHz-Band Origami Deployable Reflectarray Antenna for CubeSats
- 著者:
- Kodai Suzuki, Haruki Kurokawa, Gen Nakayama, Mitsuhiko Yasuhara, Atsuki Ochi, Suk So Yeon, Hiraku Sakamoto, Takashi Tomura
研究者プロフィール
戸村 崇 Takashi Tomura
東京科学大学 工学院 電気電子系 准教授
研究分野:電磁波工学、アンテナ工学、電磁界解析
鈴木 皓大 Kodai Suzuki
東京科学大学 工学院 電気電子系 修士課程学生(研究当時)
研究分野:アンテナ工学
黒川 晴希 Haruki Kurokawa
東京科学大学 工学院 電気電子系 修士課程学生(研究当時)
研究分野:アンテナ工学
坂本 啓 Hiraku Sakamoto
東京科学大学 工学院 機械系 教授
研究分野:宇宙システム工学、構造工学