「国際医工共創研究院キックオフシンポジウム —医と工が交わる、その先へ—」を開催

2026年1月27日 公開

国際医工共創研究院キックオフシンポジウム登壇者の集合写真

東京科学大学(Science Tokyo)は2025年12月11日、湯島キャンパスの鈴木章夫記念講堂において「国際医工共創研究院キックオフシンポジウム —医と工が交わる、その先へ—」を開催しました。

国際医工共創研究院(略称:医工研)は、医療分野における知の創出とその社会実装をさらに加速させるべく、2025年7月1日に設置されました。東京科学大学病院を主な実践の場として、Science Tokyoの医歯学系研究者・理工学系研究者がアイデア段階から協働して医工共創研究を推進するほか、企業との共同研究などによるトランスレーショナル研究の展開を目指しています。

本シンポジウムでは、医工研の設置目的や方向性を紹介するとともに、現在進行中の医工共創研究に関する講演、「医工研に期待すること」をテーマとしたパネルディスカッションなどを行いました。

シンポジウムはハイブリッド形式で実施され、本学の教職員・学生をはじめとして、他の大学・研究機関や民間企業など、会場とオンラインを合わせて約380人が参加しました。

開会あいさつ

笹野哲郎(国際医工共創研究院 研究院長)

国際医工共創研究院の笹野哲郎研究院長は開会あいさつで、医工研は病院隣接という立地を活かし、基盤技術の開発から臨床まで一体化した医工共創研究を推進すると述べました。医歯学系および理工学系の研究者、医療従事者がアイデア段階から協働する「研究ネットワーク」の取り組みを紹介し、こうしたネットワークや研究センター、ジョイントリサーチ講座を核として企業や海外機関との協働を進め社会実装を目指す考えを示しました。また、研究ネットワークの拡充と実践の場の整備を通じて、医工連携の新しいモデルを築いていきたいと述べました。

開会あいさつをする笹野研究院長

学長あいさつ

田中雄二郎(東京科学大学 学長)

続いて、Science Tokyoの田中雄二郎学長が登壇しました。田中学長は、「『科学の進歩』と『人々の幸せ』とを探求し、社会とともに新たな価値を創造する」というScience Tokyoの理念に触れ、医工研はまさにこの理念を体現する場として、病院と隣接する環境を活かし、医療者と理工学系研究者が共に社会に還元できる成果を生み出すことを目指すと述べました。本シンポジウムを通じて、学内外の皆さまに医工共創の取り組みへの理解を深めていただき、本学が目指す「善き未来」の実現に向けた挑戦を後押ししてほしいと語りました。

あいさつをする田中学長

来賓あいさつ

倉田佳奈江氏(文部科学省 研究振興局ライフサイエンス課 課長)

文部科学省 研究振興局ライフサイエンス課の倉田佳奈江課長より来賓あいさつをいただきました。倉田氏は、医歯学と理工学の知を融合し、医療・ヘルスケアに革新的な価値を創出する中核的組織として医工研が設立されたことに触れました。さらに、医療現場の課題に根差したテーマ設定や、国際的視野に基づく研究推進は、我が国の医工連携研究の新たなモデルになると期待を示しました。また、政府が掲げる健康医療戦略やAI for Scienceの重要性に言及し、基礎から社会実装まで一貫した研究推進と、分野横断的な連携の必要性を強調しました。最後に、医工研が国内外の連携を深め、未来の医療・福祉を支える知の拠点として発展することを期待すると述べました。

来賓あいさつをする文部科学省の倉田課長

特別講演

室伏広治(東京科学大学 副学長/グローバルスポーツサイエンスセンター準備室長)

2025年10月に就任した室伏広治Science Tokyo副学長が特別講演を行いました。室伏副学長は、スポーツ科学を軸に医工共創の可能性を語り、2026年4月設置予定の「グローバルスポーツサイエンスセンター(仮称)」の構想を紹介しました。トップアスリートや宇宙飛行士の能力強化、重力・非重力環境での研究、さらには宇宙でのスポーツといった未来志向のテーマを提示し、新たな価値創造を目指す姿勢を強調しました。また、ハイパフォーマンスで得られた知見をライフパフォーマンスへ応用し、健康寿命の延伸やウェルビーイング向上に寄与する取り組みについても紹介しました。

スポーツ科学を軸に医工共創の可能性を語った室伏副学長

海外研究者からのメッセージ

スヴェン・インゲブラント教授(ドイツ・アーヘン工科大学)

アーヘン工科大学のスヴェン・インゲブラント教授は、アーヘン工科大学とScience Tokyoの戦略的パートナーシップ協定の締結を歓迎し、両大学が医工学分野で共通の強みを持つことを強調しました。さらに、アーヘン工科大学における生体医工学研究の歴史を紹介し、医工研の発展に期待を寄せました。今後は研究者間の交流を促進し、医療技術の革新と社会貢献を目指すと述べ、「団結は力なり」という諺を引用し、日独連携の未来に強い意欲を示しました。

インゲブラント教授からのメッセージ

フォンチン・スー教授(台湾・国立成功大学)

台湾のトップ大学である国立成功大学のフォンチン・スー教授は、医工研の設立を祝福するとともに、医工学分野における課題として、技術者と臨床医の文化や優先順位の違いなどを挙げ、相互理解と構造的協働の必要性を強調しました。さらに、イノベーションハブや臨床工学部門の設置といった制度的・文化的支援が連携を促進すると述べました。また、AI診断、ウェアラブル技術、手術ロボットなどの分野における共同研究や人材育成への期待を示し、グローバルな視点から医工共創を推進していく必要性を呼びかけました。

スー教授からのメッセージ

国際医工共創研究院研究紹介

脳統合機能研究センター

髙橋英彦(脳統合機能研究センター長/教授)

脳統合機能研究センターでは、基礎から臨床まで幅広い脳神経研究を推進しています。髙橋英彦センター長は、今後は理工学系研究者の参画を拡大していきたいと述べました。また、「世界脳週間」といった脳科学の啓蒙活動を通じた若手研究者の育成に加え、KDDIとのジョイントリサーチ講座やスマート精神科病棟など、IoTやデジタル技術を活用した取り組みを紹介しました。出口を見据えた研究を進めることで、脳神経研究の新たなモデル創出を目指す姿勢を示しました。

髙橋脳統合機能研究センター長

再生医療研究センター

関矢一郎(再生医療研究センター長/教授)

関矢一郎センター長は、AIを活用した膝MRI 3D解析システムと滑膜幹細胞による半月板再生医療の取り組みを紹介しました。膝MRI 3D解析システムは国内150以上の病院で導入され、膝疾患の進行や介入治療後の経過を定量的に評価するうえで効果をあげていることを説明しました。また、再生医療では損傷した半月板の修復・再生が確認されており、保険収載に向けた試験が進行中であると述べ、診断と治療の両面から膝疾患に革新をもたらす取り組みであることを強調しました。

関矢再生医療研究センター長

核酸・ペプチド創薬治療研究センター

程久美子(核酸・ペプチド創薬治療研究センター長/特任教授)

核酸・ペプチド創薬治療研究センターは、核酸・ペプチド医薬の創薬から臨床までを一貫して推進する国内唯一の拠点です。程久美子センター長は、独自に開発した核酸医薬技術に加え、mRNA医薬やペプチド医薬の開発を進めており、希少疾患に対応する「N of 1」治療も視野に入れていると述べました。また、昨年10月には産学官連携による「中分子創薬コンソーシアム」を立ち上げ、大学発ベンチャーや企業との協働を通じて社会実装を加速していることを紹介しました。

程核酸・ペプチド創薬治療研究センター長

口腔科学センター

森山啓司(口腔科学センター長/教授)

口腔科学センターは、歯科医療を「歯」から「口腔」、さらに「全身との連関」へと拡張する研究を推進しています。基礎研究から社会実装まで一貫した研究・開発を行うとともに、国内外での研究拠点形成や人材育成を通じてトータルヘルスケアに貢献することをミッションとしています。森山啓司センター長は、共同実験施設を活用し、異分野連携による研究を推進することで、医工研から社会実装を目指していきたいと述べました。

森山口腔科学センター長

「研究ネットワーク」による医工共創研究の活動事例

ARグラス

雨宮智宏(工学院 准教授)

雨宮智宏准教授は、大学病院の泌尿器科と連携し、医療用に特化したARグラスを素材から設計まで一から開発する取り組みを紹介しました。三井化学株式会社による素材開発、本学工学院クリーンルームでのレンズ開発、スタートアップによる実装、病院での臨床試験という産学連携体制を構築していると述べました。視認性と安全性を重視し、眼球運動データを解析しながら最適化を進めていることを説明しました。

雨宮工学院准教授

スモールデータ・メディカルAI

鈴木賢治(総合研究院 教授)

鈴木賢治教授は、症例数が少ない疾患でも高精度学習を可能にするスモールデータAI技術「MTANN」について紹介しました。口腔がんリンパ節転移診断では90%以上の精度を達成し、肝がん鑑別診断では説明可能なAIを実装しているほか、舟状骨骨折検出においても高い感度を示していると述べました。また、多数の診療科と連携し、希少疾患から主要疾患まで幅広く対応できるAI開発を推進していることを強調しました。

鈴木総合研究院教授

国際医工共創研究院の研究支援体制

産学連携サポート体制

飯田香緒里(医療イノベーション機構 機構長/教授)

飯田香緒里機構長は、医療イノベーション機構による産学連携支援の取り組みを紹介しました。企業と研究者のマッチング、病院を核とした実証、薬事・倫理対応を含む伴走支援を提供しているほか、知財戦略や資金調達、インキュベーション施設の活用、契約・リスク管理にも取り組んでいると述べました。また、大学病院の臨床力を活かしたオンデマンド型連携を強みとし、病院発スタートアップや大学子会社の活用など、社会実装を見据えた体制づくりを推進していく方針を示しました。

飯田医療イノベーション機構長

ヘルステックデザインプログラム

藤田浩二(医療イノベーション機構 教授/国際医工共創研究院医療工学推進コア コア長)

藤田浩二教授は、医療現場の課題と企業・研究者の技術を結びつける「ヘルステックデザインプログラム」について紹介しました。病院見学や医療者とのディスカッションを通じて、現場のニーズを起点とした共創を促進しており、開始から1年で約300人が参加し、共同研究案件も進行中であると述べました。また、大学病院内の「ヘルステックデザインラボ」を拠点に、医工共創の加速を目指す方針を示しました。

藤田医療イノベーション機構教授

ロボット未来創造センター

神田元紀(ロボット未来創造センター 副センター長/教授)

神田元紀副センター長は、AI搭載ロボットによる自律的な生物学実験の実現を目指す「ロボット未来創造センター」の構想を紹介しました。双腕ロボット「まほろ」を用いた多様な実験の自動化を進めており、将来的にはクラウド型実験プラットフォームを構築し、世界の研究を革新することを目標としていると述べました。また、医歯学系研究者が利用できる柔軟なインフラを整え、医工連携のさらなる加速を図りたいと意欲を示しました。

神田ロボット未来創造センター副センター長

パネルディスカッション

医工連携による社会実装とエコシステムの構築 〜「技術」と「現場」のギャップを越え、共創のプラットフォームへ〜

ファシリテーター

  • 南百合子氏(株式会社みらい創造インベストメンツ)

パネリスト

  • 棟近茂博氏(日本電気株式会社 メディカルソリューション部門)
  • 藤澤克樹(総合研究院 デジタルツイン研究ユニット 教授)
  • 齊藤滋規(環境・社会理工学院 融合理工学系 教授)
  • 石井馨子(大学院保健衛生学研究科 在宅・緩和ケア看護学分野 特任講師)
  • 若林健二(東京科学大学病院 集中治療部 教授)

シンポジウムの最後を飾るパネルディスカッションでは、株式会社みらい創造インベストメンツの南百合子氏をモデレーターに迎え、医学・工学・産業界の各分野を牽引する5人のパネリストが登壇しました。個々の講演で示された技術や事例をさらに深掘りし、「現場(医療)」と「技術(工学)」の間にあるギャップをどう乗り越え社会実装につなげるか、医工研がどのようなプラットフォーム機能を果たすべきか、多角的な視点から議論が展開されました。

医工連携について多角的な視点から議論が展開されたパネルディスカッション

「共通言語」と「シェアード・ビジョン」の必要性

議論の口火を切ったのは、デザイン思考を専門とする齊藤滋規教授と、実装科学を専門とする石井馨子特任講師です。齊藤教授は、技術先行になりがちな工学者と、現場課題を抱える医療従事者の間には「言語と文化の壁」が存在すると指摘。その壁を越える共通言語として「デザイン思考」や「ナラティブ(物語)」の共有が不可欠であると語りました。 また、石井特任講師と藤澤克樹教授は、新しい技術を現場に定着させるためには、関係者全員が「自分ごと」として捉えられる「シェアード・ビジョン(共有された価値観)」の醸成が鍵であると強調しました。藤澤教授は、スマートホスピタル化の推進において、効率化だけでなく、患者や職員が「楽しい」「快適だ」と感じる「トータル・ウェルビーイング」の視点が重要であると提言しました。

「越境」する人材と、混ざり合う「場」の創出

実際の医療現場からは、集中治療部(ICU)の若林健二教授が登壇。「現場は変わりたいという切実なニーズを持っている」としつつ、プロとしての矜持を持ちながら互いの領域へ一歩踏み込む「越境」の姿勢こそが、真の連携を生むと訴えました。 産業界からは日本電気株式会社の棟近茂博氏が、企業と研究者が「はじめまして」の段階から同じ空間で過ごし、雑談が生まれるような物理的な「場」の重要性を提示。日本発の課題解決モデルを海外へ輸出する展望を語りました。

結論:新研究院が果たすべきプラットフォーム機能

総括として、国際医工共創研究院は単なる技術開発の場にとどまらず、異分野のプロフェッショナルが互いにリスペクトし合いながら混ざり合うプラットフォームとして機能すべきだという示唆が示されました。技術だけでなく、人や組織文化の変革を促すエコシステムとして、医工研の今後の展開への期待が一層高まるパネルディスカッションとなりました。

ファシリテーターを務めた南氏
パネリストを務めた棟近氏
パネリストを務めた藤澤教授
パネリストを務めた齊藤教授
パネリストを務めた石井特任講師
パネリストを務めた若林教授

閉会あいさつ

大竹尚登(東京科学大学 理事長)

閉会にあたり、Science Tokyoの大竹尚登理事長があいさつを行いました。本シンポジウムの内容を振り返り、医工連携の新たなモデルを築く医工研への期待、多様な技術シーズと広い研究領域を結ぶためには互いに前に踏み出す努力が必要であること、そして患者を中心に据えた研究の重要性について所感を述べました。最後に、医工研とScience Tokyoの挑戦を応援してほしいと呼びかけ、閉会のあいさつとしました。

閉会あいさつをする大竹理事長

関連リンク

お問い合わせ

湯島研究院業務推進課 湯島研究院総務グループ