7月8日、東京科学大学において「国際医工共創研究院(医工研)創設記者会見」を開催しました。国際医工共創研究院(医工研)は、医療従事者と医歯学、理工学分野の研究者が連携し、医療技術の革新と社会実装を加速させることを目的に、2025年7月1日に設置され、会見では、医工研設置の目的や意義、今後の展望、具体的な研究プロジェクトについて、報道関係者に説明を行いました。

医工研設置の背景と目的
古川哲史執行役副理事(総合戦略担当)・執行役副学長(研究・産学官連携担当)
大学統合に伴い、医歯学と理工学の融合の機運が予想をはるかに超えて高まっていることを背景に、「この機運を逃さず、医療技術の革新と社会実装を加速するため医工研を設置した」と述べました。
また、インペリアル・カレッジ・ロンドンの事例をもとに、理工学と医歯学の融合が研究力の向上やヘルスケアイノベーションの推進に寄与することを強調しました。さらに、国際的な連携を強化し、マサチューセッツ工科大学(MIT)やハーバード大学、アーヘン工科大学などの世界的な研究機関との協力を進めていることを紹介しました。

医療従事者から見た医工研の意義と期待
笹野哲郎(国際医工共創研究院長)
医療従事者の視点から、医工研の意義と期待について「医療現場と理工学の知見を結集し、国際的に通用する医療技術を創出する」と述べ、現場感覚とスピード感を重視した研究体制の重要性を強調しました。また、研究ネットワークを活用し、医歯学系と理工学系の研究者がアイデア段階から協力することで、革新的な研究を推進する意欲を示しました。
理工学系研究者から見た医工研の意義と期待
小池康晴(国際医工共創研究院副研究院長)
理工学系研究者の視点から、医療現場との連携の重要性を語りました。「病院という現場で医療従事者と直接対話することで、基礎研究が臨床課題に直結しやすくなる」と述べ、これが医療イノベーションの原動力になると強調しました。また、歯科口腔領域における精密ロボット手術や再生医療技術の応用についても触れ、高齢化社会における生活の質の向上や医療費の抑制に貢献する可能性を示しました。

研究ネットワークと具体的な研究プロジェクトの紹介
臨床現場を活用した複数の研究プロジェクトの紹介も行い、小池副研究院長は、「医療従事者の視点を直接取り入れることで、基礎研究を臨床課題に直結させる」と述べ、医歯学と理工学の共創がもたらす可能性を示しました。
1.ヒューマン・マシン・インターフェース/インタラクション
藤枝俊宣(生命理工学院 生命理工学系 教授)
脳波や筋電を用いたロボット操作技術について紹介しました。極薄膜の電極センサーを用いた低侵襲な技術開発や、てんかん患者の脳波計測技術の進展について説明し、医療分野におけるバイオインテグレーションの可能性を示しました。

2.AIを備えたECMOの開発と心臓移植への応用
土方亘(工学院 機械系 准教授)/藤原立樹(医歯学総合研究科 心臓血管外科学分野 講師)
人工知能を搭載したECMO(エクモ:体外式膜型人工肺)の開発について紹介しました。
本研究はCOVID-19パンデミックを契機に進められ、ポンプの回転数を制御することで人工肺を通過する血流に速流と遅流を交互に生じさせる「拍動流」を導入し、ECMO回路内の血栓形成を抑制する技術や、心拍同期制御によって自己心機能の回復を促進する技術などを搭載した次世代ECMOの開発が進められています。
このような次世代ECMOは、心臓移植を必要とする重症心不全治療への応用も期待されています。


3.磁気を用いた嚥下機能評価や心臓活動計測
猪越正直(医歯学総合研究科 口腔デバイス・マテリアル学分野 教授)
磁気を用いた嚥下機能の定量評価や心臓活動の計測技術について紹介しました。超高齢社会における嚥下機能障害の早期発見や、非侵襲的な心臓機能評価の実現を目指した研究が進行中です。

4.ICTを活用した医療的ケア児のサポート
谷口麻希(保健衛生学研究科 精神保健看護学分野 教授)/中谷桃子(工学院 情報通信系 准教授)
医療的ケア児とその家族をICTを活用して支援するプロジェクトや、トラウマケアを支援するAI学習プログラムについて紹介しました。多職種連携を促進するデータプラットフォームの構築や、VRを活用した支援者のレジリエンス向上プログラムの開発が進められています。


記者会見後の口腔科学センター見学会
会見終了後には口腔科学センターの見学会が行われ、医工研の具体的な取り組みを体感する機会が提供されました。参加者からは、医工学の融合がもたらす未来への期待が寄せられました。
今後の展望
医工研では、既に多くの研究プロジェクトが進行しており、医歯学と理工学の融合による新たな価値創出が期待されています。今後、国内外の研究機関や企業との連携をさらに強化し、医療分野における社会実装を加速させる方針です。
笹野研究院長は、「現場感とスピード感を大切にしながら、国際的に通用するプロダクトを生み出していきたい」と述べ、医工研のさらなる発展に意欲を示しました。
関連リンク
お問い合わせ
湯島研究院業務推進課
湯島研究院総務グループ
Email yushimaken-soumu@ml.tmd.ac.jp