慢性腎臓病患者のたんぱく質摂取量と血中尿素窒素の関連に食物繊維摂取量が影響する可能性
慢性腎臓病患者274名の解析から、より柔軟で持続可能な食事療法への手がかり
ポイント
- 慢性腎臓病では、病状に応じたたんぱく質摂取量の調整が重要ですが、食物繊維の摂取量が、たんぱく質摂取量と血中尿素窒素(BUN)濃度との関係に及ぼす影響は明らかになっていませんでした。
- 慢性腎臓病患者274名を対象に、たんぱく質摂取量、食物繊維摂取量、BUN濃度の関連を解析しました。
- 全体では、たんぱく質摂取量が多いほどBUN濃度が高い傾向が見られましたが、食物繊維摂取量が多い群では、両者に明確な関連は見られませんでした。
- 本研究から、食物繊維の摂取量が、たんぱく質摂取量とBUN濃度との関連に影響を及ぼす可能性が示され、より柔軟で持続可能な食事療法につながることが期待されます。
概要
東京科学大学(Science Tokyo)病院 医療情報部の森本靖久特任助教、東京科学大学病院 血液浄化療法部の飯盛聡一郎准教授らの研究チームは、慢性腎臓病[用語1]患者274名のデータを用いて、食事から摂取する「たんぱく質[用語2]の量」と「血中尿素窒素(BUN)[用語3]の濃度」との関係、および「食物繊維[用語4]」の摂取量がその関係にどのような影響を及ぼすかを解析しました。
BUN濃度は、腎機能が低下すると上昇しやすくなります。慢性腎臓病の病状が進行して尿毒症[用語5]と呼ばれる状態になると、透析や腎移植などの腎代替療法[用語6]が必要となります。また、BUNの濃度が高い状態は、体内に尿毒素[用語7]が蓄積することとも関連すると考えられています。BUNのもととなる尿素や一部の尿毒素は、たんぱく質が体内で分解される過程で生じます。そのため、BUNや尿毒素の上昇を抑える目的で、慢性腎臓病の食事療法では、たんぱく質の摂取制限が推奨されています。
今回の研究では、全体として、たんぱく質の摂取量が多い人ほどBUN濃度が高いことが分かりました。しかし、食物繊維の摂取量別に詳しく解析したところ、この関係は、食物繊維の摂取量が「少ないグループ」と「中間のグループ」で見られた一方、「多いグループ」では見られませんでした。これらの結果から、食物繊維の摂取量が、たんぱく質摂取量とBUN濃度との関連に影響を及ぼす可能性が示されました。ただし、本研究は一時点のデータを解析したものであるため、食物繊維の摂取量を増やすことで、たんぱく質摂取量とBUN濃度の関連が実際に弱まるかどうかについては、今後さらなる研究が必要です。
本研究成果は、8月21日付(現地時間)の「Kidney360」誌に掲載されました。
背景
慢性腎臓病では、なぜたんぱく質の摂取量が重要なのか
慢性腎臓病は、世界的に重要な健康問題であり、心血管疾患などのリスクを高めることが知られています。腎機能が低下すると、本来は尿中に排泄される老廃物を十分に排泄できなくなり、血液中の尿素窒素(BUN)や尿毒素などの濃度が上昇します。
尿素や尿毒素は、食事から摂取したたんぱく質が体内で分解(代謝[用語8])される過程で生じます。そのため、慢性腎臓病の食事療法では、病状や腎機能、栄養状態などに応じて、たんぱく質の摂取量を調整することが重要とされています。
一方、慢性腎臓病患者にとって、たんぱく質を含む食品を長期間にわたって制限することは、大きな負担となる場合があります。実際、食事制限を継続できる患者の割合は低いことも報告されています[参考文献1]。特に高齢の患者では、過度なたんぱく質制限による低栄養や筋肉量の低下も懸念されます。そのため、慢性腎臓病におけるたんぱく質摂取量を、より柔軟かつ持続可能な方法で管理するための新たな知見が求められています。
そこで研究チームは、「食物繊維」に注目しました。食物繊維には、たんぱく質を分解して体に有害な尿毒素を産生する腸内細菌[用語9]の増殖を抑えたり、尿素窒素の便中への排泄を促したりする働きがあることが報告されています[参考文献2]。しかし、実際の慢性腎臓病患者において、食物繊維の摂取量が「たんぱく質摂取量とBUN濃度との関連」にどのような影響を及ぼすのかは、これまで十分に明らかになっていませんでした。
研究成果
慢性腎臓病患者274名のたんぱく質摂取量とBUNの関連を解析
研究チームは、2022年度に東京科学大学病院、都立駒込病院、同愛記念病院を受診した慢性腎臓病患者274名のデータを解析しました。食事内容については、過去30日間の食品摂取頻度や食習慣に関する質問票である「簡易型自記式食事歴法質問票(BDHQ)」を用いて、たんぱく質や食物繊維などの摂取量を推定しました。
調査に参加した患者の平均年齢は72歳で、34%が女性でした。腎機能の指標である推算糸球体濾過量(eGFR)[用語10]の平均値は33 mL/min/1.73m2、BUNの中央値[用語11]は24 mg/dLでした。解析の結果、全体として、たんぱく質摂取量が多いほどBUN濃度が高い傾向が見られました。
次に、患者を食物繊維の摂取量に応じて、「少ないグループ」「中間のグループ」「多いグループ」の3群に分けて解析しました。食物繊維の摂取量が「多いグループ」では、他のグループと比べて、野菜類、果物類、魚類、卵類の摂取量が多い傾向が見られました。また、食物繊維の摂取量が「少ないグループ」と「中間のグループ」では、たんぱく質摂取量が多いほどBUN濃度が高い傾向が見られました。一方、「多いグループ」では、たんぱく質摂取量とBUN濃度との間に明確な関連は見られませんでした。
これらの結果から、慢性腎臓病患者において、食物繊維の摂取量が、たんぱく質摂取量とBUN濃度との関連に影響を及ぼす可能性が示されました。
社会的インパクト
慢性腎臓病のたんぱく質管理と食事療法への応用に期待
慢性腎臓病の食事療法では、たんぱく質摂取量の管理が重要です。しかし、厳格な食事制限を長期間継続することは、患者にとって大きな負担となる場合があります。
特に高齢の患者では、過度な食事制限による栄養不足や、筋肉量や筋力が低下するサルコペニア[用語12]が問題となっています。
今回の研究では、食物繊維の摂取量が多い場合、たんぱく質摂取量とBUN濃度との関連が弱まる可能性が示されました。
今後、この関係についてさらに研究が進めば、慢性腎臓病患者のたんぱく質管理において、食物繊維を含めた食事全体の質を考慮するという新たな視点につながる可能性があります。患者の食事の選択肢を必要以上に狭めることなく、生活の質(QOL)を保ちながら継続できる、より持続可能な食事療法の実現につながることが期待されます。
今後の展開
慢性腎臓病における食物繊維とたんぱく質の関係をさらに検証
ただし、今回の研究は、一時点における食事摂取状況とBUN濃度との関係を調べたものです。そのため、食物繊維を多く摂取することで、たんぱく質摂取量とBUN濃度の関連が実際に弱まるかどうかは明らかになっていません。
今後は、慢性腎臓病患者のたんぱく質や食物繊維の摂取量、血液検査の結果、腎機能などを長期間にわたって追跡し、食物繊維とたんぱく質の摂取量の組み合わせがBUN濃度や腎機能、慢性腎臓病の経過にどのような影響を及ぼすのかを詳しく検証していく必要があります。
本研究成果の捉え方に関するご留意点
慢性腎臓病患者のたんぱく質・食物繊維の摂取量について
今回の研究は274名の慢性腎臓病患者を対象としたものであり、その結果がすべての患者にそのまま当てはまるとは限りません。
慢性腎臓病患者に適したたんぱく質や食物繊維の摂取量は、腎機能、血液検査の結果、栄養状態、年齢、併存疾患などによって異なります。
食物繊維を多く含む野菜や果物には、カリウムを多く含むものもあります。そのため、自己判断で食物繊維の摂取量を増やしたり、たんぱく質の摂取制限を変更したりすることは推奨されません。具体的な食事内容や、たんぱく質・食物繊維の摂取量については、担当医や管理栄養士にご相談ください。
参考文献
- [参考文献1]
- Cianciaruso B, Pota A, Pisani A, Torraca S, Annecchini R, Lombardi P, Capuano A, Nazzaro P, Bellizzi V, Sabbatini M: Metabolic effects of two low protein diets in chronic kidney disease stage 4-5--a randomized controlled trial. Nephrol Dial Transplant 23: 636–644, 2008
- [参考文献2]
- Bliss DZ, Stein TP, Schleifer CR, Settle RG: Supplementation with gum arabic fiber increases fecal nitrogen excretion and lowers serum urea nitrogen concentration in chronic renal failure patients consuming a low-protein diet. Am J Clin Nutr 63: 392–398, 1996
用語説明
- [用語1]
- 慢性腎臓病:腎臓の働きが長期間にわたって低下する病気。初期には自覚症状がほとんどないことが多い。
- [用語2]
- たんぱく質:体をつくる大切な栄養素で、三大栄養素の1つ。肉、魚、卵、大豆などに多く含まれ、筋肉や皮膚、髪の毛などの材料となるほか、体内で働く酵素などのもとにもなる。
- [用語3]
- 血中尿素窒素(Blood urea nitrogen:BUN):たんぱく質が体内で分解される過程で生じる尿素に含まれる窒素の量を、血液中で測定した値。通常は腎臓から尿中に排泄されるが、腎機能が低下すると血液中の濃度が上昇する。
- [用語4]
- 食物繊維:野菜、果物、きのこ、海藻、穀類などに多く含まれ、人の消化酵素では消化されにくい食品成分。
- [用語5]
- 尿毒症:腎機能が著しく低下し、本来は尿中に排泄される老廃物などが体内に蓄積することで、さまざまな症状が現れる状態。吐き気、食欲低下、強いだるさなどの症状がみられることがある。
- [用語6]
- 腎代替療法:低下した腎機能を補い、体内の老廃物や余分な水分などを除去するための治療。血液透析や腹膜透析などの「透析療法」と、提供された腎臓を移植する「腎移植」がある。
- [用語7]
- 尿毒素:体内で生じる老廃物などのうち、腎機能の低下によって体内に蓄積すると、体にさまざまな悪影響を及ぼす物質。
- [用語8]
- 代謝:体内に取り込んだ栄養素をエネルギーに変えたり、体を構成する物質をつくったり分解したりするなど、生命を維持するために体内で起こるさまざまな化学反応。
- [用語9]
- 腸内細菌:人の腸内に生息する細菌。食物の消化・代謝などに関わり、健康状態にもさまざまな影響を及ぼす。
- [用語10]
- 推算糸球体濾過量(eGFR):腎臓が血液をろ過する能力を推定した、腎機能の指標。この値が低いほど、腎機能が低下していることを示す。
- [用語11]
- 中央値:データを大きさの順に並べたときに、中央に位置する値。
- [用語12]
- サルコペニア:加齢や栄養不足、病気などに伴って筋肉量が減少し、筋力や身体機能が低下した状態。
論文情報
- 掲載誌:
- Kidney360
- タイトル:
- Dietary Fiber Attenuates the Association between Protein Intake and BUN in Patients with CKD
- 著者:
- Nobuhisa Morimoto, Tamami Fujiki, Shintaro Mandai, Fumiaki Ando, Takayasu Mori, Koichiro Susa, Shotaro Naito, Eisei Sohara, Tatsuhiko Anzai, Kunihiko Takahashi, Wataru Akita, Akihito Ohta, Shinichi Uchida, Soichiro Iimori
研究者プロフィール
森本 靖久 Nobuhisa Morimoto
東京科学大学病院 医療情報部 特任助教
東京科学大学 医歯学総合研究科 腎臓内科学分野
研究分野:腎臓内科学、臨床栄養学、脂質代謝学、環境疫学
飯盛 聡一郎 Soichiro Iimori
東京科学大学病院 血液浄化療法部 准教授
研究分野:腎臓内科学、血液浄化療法、アフェレシス療法