クローン病の腸管狭窄、治療後の残存リスクをMRIで層別化

2026年10月16日 公開

炎症と構造的重症度を組み合わせた新たな評価法を開発

ポイント

  • クローン病に伴う腸管狭窄について、治療開始前のMRE(MRエンテログラフィー)画像から、治療後に狭窄が残存するリスクを層別化する新たな評価法を開発しました。
  • 炎症活動性を評価するA-scoreと、構造的な重症度を評価するP-scoreを組み合わせることで、狭窄改善の識別能はAUC 0.90を示し、既存のMRE指標よりも高い値を示しました。
  • 治療後も狭窄が残存した群では、その後の腸管手術を受けた割合が29%と、改善した群の3%より高く、狭窄の残存がその後の手術と関連することが示されました。

概要

東京科学大学病院 光学医療診療部の竹中健人講師、東京科学大学 医歯学総合研究科 消化器病態学分野の岡本隆一教授らの研究チームは、クローン病[用語1]に伴う腸管狭窄[用語2]について、治療開始前のMRE(MRエンテログラフィー)[用語3]画像から「治療後も狭窄が残りやすい」リスクを層別化する評価法を開発し、その有用性を検証しました。クローン病に伴う狭窄は、腸閉塞や入院、手術につながる重要な合併症ですが、薬物治療によって改善する狭窄と治療後も残存する狭窄を、治療前に客観的に評価する方法は十分に確立されていません。

本研究では、炎症に関連する画像所見をまとめたA-score(腸壁厚、潰瘍、comb sign)と、構造的な重症度に関連するP-score(狭窄長、口側腸管拡張、腸壁内浮腫の欠如)を作成しました。検証コホートでは、A-scoreとP-scoreを合算した指標のAUC(Area Under the Curve)[用語4]は0.90で、既存のMRE指標よりも高い識別能を示しました。また、治療後も狭窄が残存した群では、改善した群と比べて、その後に腸管手術を受けた患者が多く認められました。

本評価法は、治療前の画像から狭窄の重症度と残存リスクを評価するための新たな枠組みです。今後、さらに前向きな検証を進めることで、クローン病に伴う狭窄に対する、より個別化された経過観察や診療方針の検討に役立つ可能性があります。

本研究成果は、「Clinical Gastroenterology and Hepatology」誌に2026年9月15日付(現地時間)でオンライン公開されました。

背景

クローン病は、消化管に慢性的な炎症を引き起こす炎症性腸疾患で、厚生労働省が指定する難病です。炎症を繰り返す過程で腸管が狭くなる「狭窄」を形成することがあり、食べ物が通りにくなることで腸閉塞を起こしたり、入院や腸管切除が必要になることがあります。とくに小腸は通常の大腸内視鏡では観察しにくいため、これまで狭窄を正確に評価することが困難でした。

MREは、放射線被ばくを伴わずに小腸を含む腸管全体を画像化でき、腸壁の厚さだけでなく、狭窄の長さ、狭窄より口側の腸管拡張、周囲の血管変化などを評価できます。一方、従来のMRE指標の多くは「炎症の強さ」を中心に評価するものであり、治療後も狭窄が残存するリスクを、炎症と構造的変化の両面から評価する方法は限られていました。

研究成果

1. 東京科学大学病院のMRE画像を用いて評価スコアを開発

2012~2020年の115人、161か所の狭窄のMRE画像を用いて、評価スコアを作成しました。A-scoreは「腸壁厚>6 mm」「潰瘍」「comb sign[用語5]」の3項目、P-scoreは「狭窄長>3 cm」「狭窄より口側の腸管径>3 cm」「腸壁内浮腫なし(2点)」の3項目で構成されます。A-scoreは炎症活動性に関連する画像異常、P-scoreは狭窄の構造的な重症度に関連する画像所見を表します。

図1. 腸管狭窄に対する評価スコアを開発

2. 異なる時期の臨床データを用いて評価スコアを検証

A-scoreとP-scoreを合算した指標のAUCは0.90で、既存のMRE指標であるsegmental MaRIA(0.76)やsegmental sMaRIA(0.63)よりも高い値を示しました。また、A-scoreが高いほど狭窄の改善率は低下し、P-scoreが高い狭窄でも改善しにくい傾向がみられました。

3. 治療後の狭窄の残存は、その後の腸管手術と関連

検証コホートでは、治療後のMREで狭窄が残存していた70か所のうち20か所(29%)で、その後に腸管手術が行われました。一方、狭窄が改善した34か所のうち、その後に手術が行われたのは1か所(3%)でした。また、A/P分類によって、手術を回避できる期間に有意な差が認められました(P<0.01)。

図2. 評価スコアの検証

社会的インパクト

クローン病に伴う狭窄では、「炎症を抑える薬物治療によってどこまで改善が期待できるか」「どのような狭窄で将来的に手術が必要となる可能性があるか」を判断することが難しい場合があります。本研究では、薬物治療前のMREから得られる6つの画像所見を組み合わせることで、治療後に狭窄が残存するリスクを客観的に層別化できる可能性を示しました。

特に、炎症活動性だけでなく、狭窄の長さや狭窄部より口側の腸管拡張といった「構造的な重症度」を同時に評価した点が特徴です。P-scoreは、既存の炎症指標であるMaRIA/sMaRIAとはほとんど相関せず、従来の炎症評価だけでは捉えにくい情報を補完できる可能性が示されました。

さらに、最終的なスコアに採用された6つの画像所見は、造影MRIや拡散強調画像といった撮影方法を必須としません。今後、外部検証によって再現性が確認されれば、比較的シンプルな画像評価法として、日常診療への応用が期待されます。

今後の展開

本評価法を実際の診療判断に用いるためには、多施設での前向き研究による外部検証が必要です。また、P-scoreは、病理組織学的に確認された「線維化の程度」を直接評価したものではありません。したがって、現時点では、本評価法を「炎症性狭窄」と「線維性狭窄」を明確に区別する分類法として解釈することはできません。

今後は、標準化したMRE評価に加えて、症状、内視鏡所見、手術転帰などを組み合わせた検証を進め、どのような患者や狭窄をより注意深く経過観察すべきか、また、本評価法が診療の個別化にどこまで役立つかを明らかにしていきます。

参考文献

[参考文献1]
Takenaka K, Kawamoto A, Hibiya S, et al. Stricture dynamics and prognosis during biologic therapy in ileal Crohn's disease: a real-world cohort. Inflamm Bowel Dis. 2026;32(7):1211–1218.
[参考文献2]
Takenaka K, Ohtsuka K, Kitazume Y, et al. Comparison of magnetic resonance and balloon enteroscopic examination of the small intestine in patients with Crohn's disease. Gastroenterology. 2014 Aug;147(2):334-342.e3.

用語説明

[用語1]
クローン病:消化管に慢性的な炎症が起こる炎症性腸疾患の1つで、国の指定難病。口から肛門までの消化管のどこにでも病変が生じる可能性があるが、特に小腸や大腸に多くみられる。炎症を繰り返すことで、腸管が狭くなる「狭窄」や腸閉塞を生じ、手術が必要となることもある。日本では患者数が増加しており、2023年度の指定難病受給者証所持者は約5万2千人。10~20歳代での発症が多く、長期にわたる治療が必要となるため、進学、就職、結婚、妊娠・出産など、人生の重要な時期に影響を及ぼすこともある。
[用語2]
腸管狭窄:炎症や組織の構造的な変化などによって、腸管の内腔が狭くなった状態。狭窄が強い場合には、腹痛や嘔吐などの腸閉塞症状を引き起こし、手術が必要となることがある。
[用語3]
MRE(MRエンテログラフィー):MRIを用いて、小腸を含む腸管を広範囲に評価する画像検査。放射線被ばくを伴わず、腸壁や腸管周囲の状態も評価できる。
[用語4]
AUC(Area Under the Curve):検査や指標が2つの状態をどの程度正確に見分けられるかを示す統計指標。0.5は偶然と同程度の識別能を示し、1.0に近いほど識別能が高い。
[用語5]
comb sign:炎症のある腸管の周囲で、腸間膜の血管が目立ち、櫛(comb)の歯のように見える画像所見。

論文情報

掲載誌:
Clinical Gastroenterology and Hepatology
タイトル:
Baseline Magnetic Resonance Enterography Stratifies Persistence Risk of Crohn’s Disease Strictures
著者:
Kento Takenaka, Junichi Tsuchiya, Ami Kawamoto, Momo Wakui, Shuji Hibiya, Akiko Tamura, Sakurako Kobayashi, Hiromichi Shimizu, Toshimitsu Fujii, Kazuo Ohtsuka, Ryuichi Okamoto

研究者プロフィール

竹中 健人 Kento Takenaka

東京科学大学病院 光学医療診療部 講師
研究分野:炎症性腸疾患(クローン病含む)、小腸疾患、内視鏡・画像診断

竹中 健人 Kento Takenaka

土屋純一 Junichi Tsuchiya

東京科学大学病院 放射線診断科 准教授
研究分野:画像診断、核医学

土屋純一 Junichi Tsuchiya

岡本 隆一 Ryuichi Okamoto

東京科学大学 医歯学総合研究科 消化器病態学分野 教授
研究分野:消化器内科学、炎症性腸疾患、再生医療

岡本 隆一 Ryuichi Okamoto

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