体の中で起きる「ウイルス探知」の最前線

2026年5月8日 公開

脇役の分子が、免疫の結果を左右する

どんな研究?

ウイルスが体に入り込むと、私たちの体はすぐにそれを見つけて反応します。この最初の防御を担うのが「自然免疫」です。

一方で、「免疫」と聞いて多くの人が思い浮かべるワクチンや抗体は、そのあとに働く仕組みで、「獲得免疫」のことを指します。自然免疫は、いち早くウイルスの侵入を察知する見張り役のような存在なのです。

自然免疫で中心となるのは、MDA5というタンパク質です。ウイルス由来のRNAを見つけて、体内に敵が侵入したことを知らせる役割を担っています。MDA5がうまく働くためには、LGP2と呼ばれる別のタンパク質が関わっていることが、すでに明らかになっています。

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しかし、研究者たちは「LGP2はいったいどのようにMDA5を助けているのだろうか」という疑問に直面しました。たとえば、LGP2がRNAに結合し、MDA5の働きを助けることは、すでに実験で確かめられていましたが、LGP2がどのようにRNAと結合するのかという基本的な点については、研究ごとに結果が食い違い、長年の議論となっていました。

そこで東京科学大学(Science Tokyo)の加藤一希(かとう・かずき)テニュアトラック准教授らの研究チームは、分子の動きを細かく観察できるクライオ顕微鏡や、分子の動きを動画のように捉える高速原子間力顕微鏡を用いて、この問題に挑みました。

ここが重要

加藤准教授らの研究で明らかになったのは、LGP2の動きが単発のものではなく、一連の流れとして起こる現象だったという点です。LGP2はまずRNAの端に結合し、その後、ATPと呼ばれるエネルギーを使ってRNAの内部へ移動します。そして移動した先で、MDA5が集まりやすい足場を作ることがわかりました。

このLGP2の働きによって、本来は長いRNAにだけ反応するMDA5が、短いRNAにも反応できるようになります。さらに、短いRNA上にできた構造が集まり、マイクロクラスターと呼ばれるかたまりを形成し、強い免疫反応を引き起こすことも明らかになりました。

これまでの研究では、「LGP2は端に結合するのか、それとも内部に結合するのか」という対立した見方がありましたが、本研究によって「まず端に結合してから内部へ移動する」という一連の流れを示すことで、この議論に終止符を打ちました。

今後の展望

ウイルスは感染の過程で、断片化した短いRNAを数多く生み出します。これまでは、こうした短いRNAは免疫に見逃される可能性があると考えられていました。

しかし今回の研究により、LGP2の働きによって、それらの短いRNAも効率よく検知できることが示されました。この発見は、インフルエンザやはしかなど、さまざまなRNAウイルスに対する新しい治療法や予防法の開発につながる可能性があります。

また、免疫の働きが強すぎることで起こる炎症や自己免疫疾患の理解への新たな手がかりになると期待されます。

研究者のひとこと

MDA5やLGP2はさまざまなウイルスの感染に対する免疫応答に関わります。今後、読者の皆様が風邪を引いた際には、LGP2がウイルスRNA上を移動し、MDA5が集まってくる様子を想像してみてください。
(加藤一希:東京科学大学 総合研究院 免疫機構研究ユニット テニュアトラック准教授)

加藤一希准教授

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