在宅精神科訪問診療患者における未治療のむし歯と口腔衛生不良の実態

2026年2月9日 公開

無料の訪問歯科健診が明らかにした「歯科につながらない」実態と支援の鍵

ポイント

  • 東京都内の在宅精神科訪問診療患者22人を対象に調査した結果、未治療のむし歯や残根、口腔衛生不良が多く、長期間歯科受診を受診していない人が多いことが明らかとなった。
  • 精神科の在宅訪問に歯科医師が同行し、無料の訪問歯科健診を行うことで、複数の指標を用いた実装可能な口腔スクリーニング手法を提示。
  • 公的扶助を受けていない場合、訪問歯科診療の自己負担(約2,000~6,000円/回)が受診の障壁となり得ることが示され、家族等の支援や費用支援を含めた医療・福祉連携の重要性が明らかとなった。

概要

東京科学大学(Science Tokyo) 大学院医歯学総合研究科 歯科心身医学分野の豊福 明教授、須賀隆行助教らの研究チームは、東京都内で在宅精神科訪問診療を受けている患者を対象に、精神科の在宅訪問に同行する形で無料の訪問歯科健診を実施し、口腔内の状態と「治療が必要であるにもかかわらず受けられていない歯科ニーズ(未充足ニーズ)[用語1]」との関連を調べました。

その結果、未治療のむし歯や残根、口腔衛生不良が多く認められ、数年単位で歯科受診のない人が多いことが示されました。また、参加者の68.18%が公的扶助受給者であり、非受給者においては、訪問歯科診療の自己負担が受診の障壁となり得ることが示唆されました。

本研究成果は、1月9日付(現地時間)の「Scientific Reports 」に掲載されました。

図. 本研究の概要

背景

重い精神疾患のある人では、服薬の影響(口渇など)や意欲低下、不安などが重なり、日常的な口腔ケアや歯科受診が困難になりやすいことが指摘されています。さらに、在宅で精神科の訪問診療を受けている人は、外出困難などの要因により、歯科医療機関に通院するハードルが一層高くなります。

しかし、在宅精神科訪問診療の現場において、口腔内の問題がどの程度存在するのか、また、どのような支援が「歯科につながる鍵」となるのかについては、これまで十分に明らかにされていませんでした。そこで本研究では、在宅精神科訪問診療と歯科医療をつなぐ第一歩として無料の訪問歯科健診を実施し、口腔内の実態把握を試みました。

研究成果

東京都内で在宅精神科訪問診療を受けている患者183人に健診参加の案内を行い、希望のあった人のうち、最終的に22人が参加しました。無料の訪問歯科健診は、2025年1月8日から2月6日にかけて実施しました。

その結果、未治療のむし歯や残根が多く認められ、複数の口腔衛生指標において口腔衛生不良が示されました。具体的には、OHAT[用語2]6.91±1.51、OHI[用語3]4.08±2.61、PI[用語4]1.68±0.95であり、TCI[用語5]において不良と判定された人は31.82%でした。

受診動機をみると、40.91%は本人の自発的な希望というよりも、主治医や家族など介護者側の心配がきっかけとなっていました。健診後には81.82%が治療や口腔ケアを希望した一方で、一部では、訪問歯科診療の自己負担(約2,000~6,000円/回)が受診の障壁となることが明らかになりました。

社会的インパクト

在宅精神科訪問診療は、重い精神症状や生活上の困難を抱える人の地域生活を支える重要な仕組みです。本研究は、こうした現場において口腔の問題が見過ごされやすく、治療が必要であるにもかかわらず受けられていない「未充足の歯科ニーズ」が生じている可能性を示しました。

さらに、費用面の壁が存在する一方で、家族などによる支援や福祉制度の利用が整うことで、訪問歯科治療につながりやすくなることが示されました。これにより、歯科医療と精神医療・福祉が切れ目なく連携する仕組みづくりの必要性が、改めて浮き彫りになりました。

今後の展開

研究チームは今後、

  1. より大規模な調査を通じて実態を精緻化すること
  2. 在宅の現場で実施しやすい治療手法や、継続的な口腔ケア支援プログラムの有効性を検証すること
  3. 精神科の在宅訪問の場において口腔スクリーニングを定着させ、支援が必要な人を訪問歯科へ確実につなぐ仕組みを検討すること

を目指します。

付記

本研究は、CHCPグループから研究助成を受けて実施されました。

参考文献

[参考文献1]
Suga, T., Gamo, Y., Iida, S. & Toyofuku, A. Potential needs of outreach dental care for patients with mental conditions. Psychogeriatrics 25, e13239 (2025). DOI:10.1111/psyg.13239

用語説明

[用語1]
未充足の歯科ニーズ:治療が必要でも、費用・心理・移動などの理由で受診できず、必要な歯科治療や口腔ケアが満たされていない状態。
[用語2]
OHAT:非歯科職種でも使いやすい口腔評価ツールで、医科から歯科への紹介を円滑にする目的でも用いられる。
[用語3]
OHI:口腔清掃状態(プラーク等)を示す指標。
[用語4]
PI:歯面のプラーク付着を示す指標。
[用語5]
TCI:舌苔(ぜったい)の付着を示す指標。

論文情報

掲載誌:
Scientific Reports
タイトル:
A Preliminary Study on Oral Health Status and Unmet Dental Needs in Patients with Home-Based Psychiatric Services
著者:
Takayuki Suga, Trang Thi Huyen Tu, Yuji Gamo, Takafumi Asakura, Shigeru Iida, Yoko Iwase & Akira Toyofuku

研究者プロフィール

須賀 隆行 Takayuki Suga

東京科学大学 大学院医歯学総合研究科 歯科心身医学分野 助教
研究分野:歯科心身医学

豊福 明 Akira Toyofuku

東京科学大学 大学院医歯学総合研究科 歯科心身医学分野 教授
研究分野:歯科心身医学

豊福教授(前列中央)、須賀助教(前列右)

関連リンク

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助教 須賀 隆行

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