東京科学大学(Science Tokyo)未来の人類研究センター「人口プロジェクト」メンバーの教員3人が7月24日、ワークショップ「人口問題について考えてみよう—都会の孤独と幸福—」をHisao & Hiroko Taki Plazaワークショップルーム2で開催しました。Science Tokyoの学部生と大学院生合わせて13人が参加しました。

未来の人類研究センター「人口プロジェクト」メンバー
山根 亮一(リベラルアーツ研究教育院 准教授)アメリカ文学・文化論
江原 慶(リベラルアーツ研究教育院 特定准教授)マルクス経済学
栗山 直子(リベラルアーツ研究教育院 講師)認知心理学・教育心理学
都会に住む孤独や幸福に関するアンケートを実施
未来の人類研究センターの「人口プロジェクト」では2024年秋に、東京23区に住む20~60代の500人に対して、都会に住む孤独や幸福に関するアンケートを実施しました。
ワークショップではまず、未来の人類研究センターで実施している異分野(文学・経済学・心理学)の教員3人による「人口プロジェクト」の説明と、アンケート調査の概要の説明を行いました。
続いてアンケートの結果を紹介し、若者の代表として学生の皆さんの意見を伺いました。
3つの異分野(心理学・文学・経済学)からの問い
ワークショップでは次の3つのセッションを行いました。
- セッション1 世代間の「幸福」「孤独」について
- セッション2 世代間の「ダイアローグ」について
- セッション3 「経済成長」について
セッション1では、世代による幸福、孤独、劣等感についてのアンケート結果を紹介しました。「今の社会で幸せに暮らせていると思いますか?」という質問に対しては、回答した全世代(20代、30代、40代、60代)で普通程度と答える人が多く(5段階評価の3)、世代間の差はみられませんでした。しかし、「孤独」「劣等感」については、世代が上がるにつれ低くなる傾向が統計的に示されました。この結果を説明したうえで、「これはなぜだと思いますか?」という問いについて参加学生がディスカッションを行いました。自分自身が歳をとったときのことを想像したり、身近なその世代の人を思い出して考え、「アイデンティティを確立して他人の目が気にならなくなるのでは?」「流行や周囲との同調圧力は、若年層の方が強いからでは?」などのさまざまな意見が出されました。
セッション2では、とくに孤独を感じている60代、30代の人々の中で、幸福をどのように感じているかを示すデータをもとに、議論を行いました。なかでも、それぞれの年代が多様な物語(映画、小説、マンガなどだけではなく、他者への憧れ)を通じて幸福を感じる方法や、他世代との関わりのなかで幸せを感じるという結果を踏まえて、なぜそのような感覚を持っているのかを想像してもらいました。そうした議論を踏まえた上で、最後に、「具体的にどのような映画、マンガ、小説などのフィクションが、東京で孤独を感じる60代の幸福に寄与すると想像しますか?」などの質問に個別で回答してもらいました。実際のドラマや映画を想起する参加者もいれば、そうした物語の傾向や特徴をとらえようとする回答もあり、多様な反応が得られました。
セッション3では、経済成長についての簡単な説明の後、経済成長と人口問題の関係についてのアンケート結果をめぐって、学生の皆さんに考えてもらいました。アンケートでは、経済成長はしたほうが良いが、経済成長は経済格差や少子化、環境破壊などの社会問題の解決には必ずしもつながらないという声が多く寄せられました。この結果については、「経済成長が、個人の資産や賃金の増加としてイメージされているからではないか」「社会問題の解決には、経済成長以外の要因も必要だと考えられているからではないか」といった考察がなされました。また、男性より女性のほうが、経済成長と人口問題は関係がないと考える傾向があるというアンケート結果については、「経済成長して金銭的に豊かになったとしても、子育ての負担は金銭的なものだけではないということを、女性がより意識するからではないか」といった意見が出されました。


参加者からの声
参加者からは、「3つの専門それぞれの視点から人口問題について学ぶことができ、勉強になった」「意外とディスカッションが盛り上がっていたので、もうちょっとディスカッションの時間がほしかった」「先生たちの意見をお聞きしたかった。ただ、議論をする中でそうした意見に絶対に流されてしまうので、最後に総括がもらえたら嬉しい」といった声がありました。
教員3人からの「問い」について学生の皆さんが熱心に考え、ディスカッションが盛り上がりました。予定の時間をオーバーしたこともあり、教員3人による総括が短くなってしまいましたが、詳しくは未来の人類研究センターのホームページ内Reportに「6030問題──東京都内の孤独感調査から見る世代横断型ダイアローグの可能性」としてまとめていますので、ぜひご覧ください。
人口プロジェクトでは今後、多世代型居場所など、学外でも調査データに基づいたワークショップやインタビュー調査を実施する予定です。
今回のワークショップでいただいた学生の皆さんの貴重な意見も紹介し、さらにいろいろな世代の方の意見を伺い、人口問題と人の幸福や孤独についてより深く考えていきます。
関連リンク
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未来の人類研究センター
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