どんな研究?
力をかけると、分子の中の一部が動き、それまで弱められていた光が現れる。今回、そんな小さな仕組みを利用して、光を繰り返しオン・オフすることに成功しました。
なぜ、こうした仕組みが必要なのでしょうか。材料を曲げたり引っぱったりすると、その内部には外からは見えない力がかかります。その力を分子が受け取り、光の変化として知らせることができれば、材料の中で何が起きているのかを知る手がかりになります。実際、力を受けると明るさや色が変わる分子は、材料にかかる力を調べる方法として研究されてきました。
今回、東京科学大学(Science Tokyo)の相良剛光(さがら・よしみつ)准教授らの研究チームが挑んだのは、単に光を明るくするだけではありません。右回りと左回りの違いを持つ特殊な光である円偏光発光の強度を、力によって制御することを目指しました。
円偏光発光は、3D表示や偽造防止、生体分子を見分けるセンサーなどへの応用が期待されています。これまで、薬品を加えたり、酸性・アルカリ性を変えたりして円偏光発光を制御する研究はありましたが、力による分子の動きでオン・オフすることは実現していませんでした。
ここが重要
研究チームがつくったのは、力が加わると光のスイッチが入るような分子の仕掛けです。使ったのは、細長い分子にリング状の分子を通したロタキサンという分子です。リングには光を出す部分を、細長い分子にはその光を弱める部分を組み込みました。普段はこの2つが近くにあるため、光は抑えられています。
研究チームは、このロタキサンを、液体を取り込むと膨らむ柔らかい材料であるゲルの中に組み込みました。ゲルが大きく膨らむと、その力がロタキサンまで伝わってリングが移動します。すると、光を出す部分と光を弱める部分が離れ、それまで抑えられていた円偏光発光が現れました。ゲルを縮ませると元の状態に戻り、光のオン・オフを繰り返すこともできました。つまり、材料にかかった力を分子の動きに変え、さらにその動きを光の変化として取り出すことに成功したのです(図1)。
さらに研究チームは、その光を正しく測る方法も工夫しました。材料を一方向に引っぱると、材料全体の向きがそろい、本来調べたい光とは別の強い信号が生まれてしまいます。そこで、ゲルを一方向に引っぱるのではなく、全方向に均等に膨らませました。これによって余計な影響を抑え、分子そのものの動きによって生じた円偏光発光を確かめることができました。
今後の展望
今回の成果によって、力を受けた分子の動きを、円偏光発光の変化として捉えられるようになりました。研究チームは今後、円偏光発光だけでなく、さまざまな光の性質を力によって変化させる分子の開発を進めます。将来的には、材料の内部にかかる力を光で調べるセンサーなどへの応用が期待されます。
また、今回開発したゲルを均等に膨らませる方法は、力に反応する発光材料を正確に調べるための手法としても、幅広く活用できる可能性があります。論文でも、他の光機能を制御する分子の開発と、今回の測定法をさまざまな材料へ応用する方向が示されています。
研究者のひとこと
力で光り方が変わる材料のおもしろさは、分子のほんの小さな動きを、光の変化として捉えられることです。今回、円偏光発光まで力で切り替えられるようになり、分子でできることがまた一つ広がりました。これからも、予想を超える現象を楽しみながら、力を感じる分子の新しい可能性を探っていきたいです。
(相良剛光:東京科学大学 物質理工学院 材料系 准教授)
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