発電するディスプレイは実現できるのか?

2026年7月14日 公開

発電・発光・光検出を1つのデバイスで実現―未来のディスプレイへの道を切り開く

どんな研究?

スマートフォンの画面は、指で触れるたびに明るく光り、写真や動画を鮮やかに映し出します。しかし、その画面は電気を使って光る部品であり、光を受けて発電する部品ではありません。

一方で、太陽電池は光を電気に変えることができます。もし、画面そのものが光を集めて発電し、必要なときにはスマートフォンの画面として機能することができれば、電子機器はもっと薄く、軽く、省エネルギーになるかもしれません。発電と表示を別々の部品で行う必要がなくなるためです。

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そのため近年、こうした多機能デバイスの研究が進められてきました。これまでのところ、無機材料を使った実証例はありました。しかし、その多くは人の目には見えない近赤外光で動作するもので、ディスプレイとして利用することはできませんでした。また、一部の材料には重金属が含まれており、環境面での課題も残されていました。

こうした課題を解決できる材料として期待されているのが、有機半導体です。有機半導体は、炭素を含む分子から作られており、従来の硬い半導体とは異なり、軽くて柔らかいという特長があります。そのため、曲げられるディスプレイやウェアラブル機器への応用が期待されています。

しかし、有機半導体にも大きな課題がありました。発電や発光に使われるはずのエネルギーの一部が、熱として失われてしまうのです。そのため、発電性能を高めることはできても発光性能が伸びなかったり、逆によく光っても発電性能が下がったりして、1つのデバイスで両方の機能を高いレベルで実現することが難しかったのです。

東京科学大学(Science Tokyo)の伊澤誠一郎(いざわ・せいいちろう)准教授らの研究チームは、この課題を克服するための研究に挑みました。そして、材料分子の構造を工夫することで、発電・発光・光検出の3つの機能を1つの有機半導体デバイスで実現しました。

ここが重要

発電と発光を両立させるうえで最大の障害となっていたのは、電子のエネルギーが熱として失われてしまうことでした。研究チームは、電子が分子の中を移動しても分子の形が変わりにくい特殊な材料に着目しました。

通常の有機半導体では、電子が動くと分子が振動し、そのエネルギーが熱として逃げてしまいます。そこで、電子が動いても分子が揺れにくい材料を利用しました。すると、熱として失われるエネルギーを大幅に減らすことに成功したのです。その効果は非常に大きく、熱として逃げる速さを従来の有機太陽電池の10万分の1以下まで遅くすることができました。

開発されたデバイスは発電と発光の両方で高い性能を実現しました。これまでの研究では、「発電は得意だが光りにくい」「よく光るが発電しにくい」というケースがほとんどでした。しかし今回の研究では、その両方を同時に実現することに成功したのです。

さらに重要なのは、このデバイスが人の目に見える可視光で高い性能を示したことです。これまでの多機能デバイスの多くは近赤外光での動作に限られていました。しかし、今回はディスプレイに利用できる赤色の光で、スマートフォンの画面に近い明るさを実現しました。

また、これまでの研究では、発電に優れたデバイスや、高効率で光るデバイスはそれぞれ開発されていましたが、発電、発光、光検出という3つの機能を1つの接合部で実現した例はありませんでした。今回の成果は、「光を集める部品」と「光る部品」を別々に用意するという従来の考え方を変える可能性を示したのです。

今後の展望

この成果は、画面がただ電気を消費するだけでなく、光を集めてエネルギーを生み出す新しいディスプレイ技術につながる可能性があります。

将来的には、昼間は光を受けて発電し、夜は表示装置として働く自己発電型ディスプレイへの応用が期待されます。また、有機半導体は軽くて曲げやすいため、ウェアラブル機器、皮膚に貼る健康管理センサー、発電と照明を兼ねたスマートウィンドウなどにも展開できる可能性があります。

さらに、このデバイスは光センサーとしても働きます。1つの部品が「光を集める」「光る」「光を感じる」という3つの役割を担うことで、電子機器の設計そのものが変わるかもしれません。

研究者のひとこと

今回の研究成果は、太陽電池の中で熱としてエネルギーを失うのを防ぐにはどのような分子設計をすればとよいかという基礎的な問いに答えようとしたことから生まれました。有機半導体の研究は、分子の設計が光デバイスの性能に如実に表れる点がとても面白いです。
未来のディスプレイは、映像を映すだけの存在ではなく、自ら光を集め、必要なときに光り、周囲の光を感じ取る存在へと進化していくかもしれません。
(伊澤誠一郎:東京科学大学 総合研究院 フロンティア材料研究所 准教授)

伊澤誠一郎准教授

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