どんな研究?
スマートフォンを長時間使っていると、本体が熱くなったり、大切な場面でバッテリーが切れて画面が真っ暗になったりした経験はありませんか。その原因の一つは、内部の電子回路やメモリが電気を消費する際に熱を出すことにあります。
一般的なコンピュータのメモリは、電気の流れ方の違いを使って0と1を記録します。もし電気をほとんど使わずに情報を記録できるメモリが作れれば、スマートフォンやコンピュータの消費電力を大きく減らすことができます。
この問題を解決する方法として、1971年に「強誘電トンネル接合」という新しい仕組みが提案されました。これは、内部の電気の向きが切り替わる性質(強誘電性)を利用して、電気の通りやすさを変えることで情報を記録するメモリです。しかし、これまでの材料では、装置を小さく作ろうとすると性能が落ちてしまうという大きな欠点がありました。
Cover artwork by Yutaka Majima. Courtesy of the Royal Society of Chemistry.
転機が訪れたのは2011年です。どこにでもある酸化ハフニウムという材料に、非常に薄くしても電気の向きを保てるという特殊な性質があることが発見されました。東京科学大学(Science Tokyo)の真島豊(まじま・ゆたか)教授らの研究チームは、この材料を使って、極めて小さな25ナノメートルのメモリ(髪の毛の太さの約3,000分の1)の開発に挑みました。
ここが重要
このメモリを極限まで小さく作ろうとすると、材料の中にある結晶の境目から電気が漏れてしまうことが、開発を阻む巨大な壁として立ちはだかっていました。そこで、真島教授が下した大きな決断は、「漏れの原因となる継ぎ目の影響を減らすため、メモリそのものをさらに小さくする」ことでした。
そして、熱を加えことで電極の形を半円形に変えるという独自の工夫を凝らし、結晶の境目が少ない、一粒の結晶に近い状態を作り出しました。この工夫と、極限の微細化にあえて挑むという判断によって、世界最高レベルの性能が引き出されました。その結果、小さくするほど高性能になるという未知の扉が開かれたのです。
今後の展望
この技術が実用化されれば、私たちの生活は劇的に変わると期待されています。例えば、一度の充電で数ヶ月も使い続けられるスマートウォッチや、インターネットにつながる無数のセンサーが電池交換なしで動き続ける未来がやってくるかもしれません。
また、膨大なデータを処理する人工知能(AI)の世界でも、消費電力を抑えながら圧倒的なスピードで計算を行うことが可能になるでしょう。既存の半導体工場でも作りやすい材料であるため、近い将来、私たちの身近な製品にこの小さくて強いメモリが搭載される日が来るはずです。
研究者のひとこと
「これ以上は小さくできない」「小さくすると壊れる」という科学の限界に挑むことは、暗闇の中を歩くような苦労の連続です。しかし、常識を疑い、壁を乗り越えるための新しい構造を追求したことで、私たちは新しい景色を見ることができました。この成果が、次世代を担う若い皆さんの知的好奇心を刺激し、より豊かな未来を創り出す一助となれば、これほど嬉しいことはありません。
(真島豊:東京科学大学 総合研究院 フロンティア材料研究所 教授)
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