ポイント
- 京都の伝統漬物「しば漬け」から、強い粘りを示す乳酸菌KY5-ES5を発見。
- この菌が作る菌体外多糖(EPS)には、乳酸菌ではほとんど例のないグリセロールが含まれており、多様な糖結合や分岐構造、グリセロールリン酸修飾を持つ新規構造であることを解明。
- 培養で得られたEPSは、他の乳酸菌株のEPSとは異なる単糖構成であることを解明。また、KY5-ES5が非常に高い粘度形成能を持つことを確認。
- 新規EPSは高粘度食感の植物性ヨーグルトなど、添加物に頼らない食品づくりに貢献。整腸や抗酸化などの機能性から、発酵食品産業や健康食品市場への応用に期待。
概要
東京科学大学(Science Tokyo) 生命理工学院 生命理工学系の山田拓司教授と株式会社ぐるなびの澤田和典博士らの研究チームは、日本の伝統的な漬物である「しば漬け」から分離した乳酸菌[用語1]Lactiplantibacillus plantarum KY5-ES5を発見し、この乳酸菌がグリセロールを含む新しいタイプの菌体外多糖(Exopolysaccharide:EPS)[用語2]を産生することを明らかにしました。乳酸菌がつくるEPSは、食品の「とろみ」や「なめらかさ」に関わる重要な成分です。
本研究では、このEPSの性質を正確に調べるため、天然物由来の成分が混ざらない合成培地[用語3]を用いて菌を培養し、得られたEPSを分析しました。NMR(核磁気共鳴)分析により、このEPSは複数の糖が複雑に結びついた構造を持ち、さらに一部がグリセロールリン酸[用語4]によって修飾されている可能性が確認されました。このような構造は、乳酸菌のEPSとしては極めて珍しく、強い粘りや高い粘度に寄与していると考えられます。
今回発見されたEPSは、植物性ヨーグルトなどの発酵食品における自然なとろみづけや食感の改善に応用できる可能性があります。また、一般的に乳酸菌のEPSには腸内環境の改善など健康への良い働きが知られており、本EPSの新しい構造も将来的には機能性研究につながることが期待されます。
本成果は、2025年12月12日付(現地時間)の「Scientific Reports」誌に掲載されました。
背景
発酵食品は日本の食文化を支える重要な存在であり、そのおいしさや食感には乳酸菌が作り出す成分が深く関わっています。乳酸菌の種類によって味や食感が異なることから、より良い食品の開発のため常に新たな有能乳酸菌が求められています。本研究チームではこれまでに京都の伝統的な発酵漬物である「しば漬」の発酵微生物に関する研究を行ってきました [参考文献1]。この研究の過程で新たに発見した特徴的な乳酸菌の性質を解明し、食品産業の発展や新しい健康価値の創出につなげることを目的として今回の研究を行いました。
研究成果
本研究では、しば漬から、強い粘りを示す乳酸菌Lactiplantibacillus plantarum KY5-ES5を発見しました。菌株が培地に使用する天然物由来成分の影響を受けないよう合成培地を用いて培養し、この菌株が産生した菌体外多糖(Exopolysaccharide:EPS)について詳細な解析を行いました。まず、HPCL(高速液体クロマトグラフ)では、EPSがグルコース、ガラクトース、グリセロールといった種類の単糖からできており、その比がおよそ6:3:1だと分かりました。このようにグリセロールを含むEPSはこれまでほとんど報告がありません。さらにNMR(核磁気共鳴)分析によって、このEPSでは単糖がさまざまな結合様式でつながっていることや、分岐構造、グリセロールリン酸修飾を持っていることが確認されました。この特徴的な構造により、EPSは高い粘性やなめらかな食感を生み出す可能性が示されました。
そのほか曳糸性[用語5]を持たないL. plantarumの基準株との比較により、KY5-ES5の優れた粘度形成能も確認しています。
社会的インパクト
本研究で明らかになった新規の菌体外多糖は、植物性ヨーグルトや発酵飲料などの食感を自然に向上させることができ、発酵食品の品質改善に寄与します。化学的な添加物を用いずにとろみやなめらかさを加えられるため、近年需要が高まっている、添加物不使用に価値を置くクリーンラベル食品の開発にも貢献します。また、本乳酸菌が生成するEPSはこれまでに報告のない構造であるため、免疫調節作用や抗酸化作用など、今後、新たな機能性を有することが明らかになる可能性があり、発酵食品の機能性における重要な基盤となります。さらに、伝統食品由来の微生物を活用する本成果は、発酵食品産業の高付加価値化や日本発の食品素材開発にもつながることが期待されます。本乳酸菌株は国内特許出願および国際特許出願を行っています [参考文献 2, 3]。
今後の展開
今後は、この新しく発見されたEPSの機能をさらに研究して、腸内環境を整えたり、酸化ストレスを和らげたり、免疫のバランスを整えたりといった作用があるのかを探ります。また、植物性の発酵飲料や代替乳製品への産業応用も目指します。
付記
本研究は「ぐるなび食の価値創成共同研究」として実施されました。
参考文献
- [参考文献1]
- Kazunori Sawada and Takuji Yamada, Influence of the initial microbiota on eggplant shibazuke pickle and eggplant juice fermentation. Microbiology Spectrum 2024 e00464-24. doi: 10.1128/spectrum.00464-24
- [参考文献2]
- 特開2025-089946, 食品に曵糸性を付与する乳酸菌
- [参考文献3]
- WO/2025/121281, LACTIC ACID BACTERIUM CAPABLE OF IMPARTING STRINGINESS TO FOOD
用語説明
- [用語1]
- 乳酸菌:発酵食品を作るのに広く利用されている微生物。ヨーグルト・漬物などに含まれる。
- [用語2]
- 菌体外多糖(Exopolysaccharide; EPS):細菌が外部に作り出す多糖。食品のとろみや食感に影響する。
- [用語3]
- 合成培地:成分が明確に定義された培地。そこで生育した乳酸菌が産生するEPSであれば純粋な構成を正確に評価できる。
- [用語4]
- グリセロールリン酸:グリセロールにリン酸が結合した分子。EPSにグリセロールリン酸が含まれている報告は極めて少ない。
- [用語5]
- 曳糸性(えいしせい):糸を引くような強い粘りのある性質。発酵乳や漬物の粘度の向上に関わる。
論文情報
- 掲載誌:
- Scientific Reports
- タイトル:
- A novel glycerol-containing exopolysaccharide from the ropy strain Lactiplantibacillus plantarum KY5-ES5 and its impact on medium viscosity
- 著者:
- Kazunori Sawada, Takuji Yamada
研究者プロフィール
山田 拓司 Takuji Yamada
東京科学大学 生命理工学院 生命理工学系 教授
研究分野:生命情報