入れ歯などの継続使用が高齢者の寿命を延ばす可能性

2025年6月12日 公開

全国約4.8万人を対象とした最大9年間の追跡調査で明らかに

ポイント

  • 入れ歯やブリッジなどの歯科補綴物を継続して使用していた高齢者は、使用していなかった高齢者と比べて、死亡リスクが低いことが明らかになりました。
  • 全国の65歳以上の高齢者約4.8万人を最大9年間追跡した結果、歯科補綴物の使用者は非使用者よりも平均で3.7ポイント生存率が高く、特に歯が20本未満の人では5.9ポイント高いことが確認されました。
  • 本研究は、歯科補綴物の継続使用が高齢者の寿命の延伸に寄与する可能性を、実証的に示した初の大規模調査です。

概要

東京科学大学(Science Tokyo) 大学院医歯学総合研究科 歯科公衆衛生学分野の松山祐輔准教授および相田潤教授の研究グループは、全国の65歳以上の高齢者約4.8万人を対象に、歯科補綴物(入れ歯、ブリッジ、インプラントなど)の使用状況と死亡リスクとの関連を調査しました。

2013年から2022年にかけて実施された大規模な追跡調査データを分析した結果、歯科補綴物を継続的に使用していた場合には、使用していなかった場合と比べて死亡リスクが低いことが明らかになりました。追跡期間中の死亡率の差は、全体では平均3.7ポイント、歯が20本未満の人に限ると5.9ポイントの差が確認されました。

本研究は、歯科補綴物の継続的な使用が高齢者の寿命延伸に寄与する可能性を示しています。

本成果は、6月6日付(米国東部時間)付で「Journal of Prosthetic Dentistry(ジャーナル・オブ・プロステティック・デンティストリー)」誌に掲載されました。

歯科補綴物の使用状況と追跡期間中の生存割合。歯の本数などの背景要因を統計的に考慮したうえで、歯科補綴物を継続的に使用していた場合は生存割合が高かった。

背景

これまでの研究から、歯の喪失が高齢者の死亡リスクを高めることは広く報告されてきました。しかし、入れ歯やブリッジなどの歯科補綴物の使用が、そのリスクを軽減するかどうかについては、十分に検証されていませんでした。

本研究は、歯科補綴物の継続的な使用と死亡との関連を、大規模な疫学データを用いて明らかにすることを目的としました。

研究成果

本研究では、2013年、2016年、2019年に実施された「日本老年学的評価研究(JAGES)」の調査に参加した高齢者47,698人のデータを分析しました。

歯科補綴物の使用状況だけでなく、追跡期間中に変化する歯の本数や健康状態などの背景要因も考慮した分析を行った結果、歯科補綴物を継続的に使用していた人は、使用していなかった人よりも生存割合が高いことが分かりました。さらに、自身の歯の本数が少ない人ほど、歯科補綴物の効果がより顕著に見られました。

社会的インパクト

本研究は、歯科補綴物の継続的な使用が高齢者の寿命を延ばす可能性を示したものであり、高齢化が進む日本において、全身の健康や生活の質の向上における歯科医療の重要性を示唆しています。

付記

本研究は、日本学術振興会科学研究費補助金(課題番号:20H00557、20K10540、21H03153、21H03196、21K17302、21K19635、22H00934、22H03299、22K04450、22K13558、22K17409、22K17285、23H00449、23H03117、24K02658)および厚生労働科学研究費補助金(19FA1012、19FA2001、21FA1012、22FA2001、22FA1010、22FG2001、23FA1022)などの支援を受けて実施されました。

論文情報

掲載誌:
Journal of Prosthetic Dentistry
タイトル:
Dental prosthesis use and mortality: A time-varying exposure analysis with machine learning
著者:
Yusuke Matsuyama, Jun Aida

研究者プロフィール

松山 祐輔 Yusuke MATSUYAMA

東京科学大学 大学院医歯学総合研究科 歯科公衆衛生学分野 准教授
研究分野:歯科疫学、公衆衛生学

相田 潤 Jun AIDA

東京科学大学 大学院医歯学総合研究科 歯科公衆衛生学分野 教授
研究分野:歯科疫学、公衆衛生学

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東京科学大学 大学院医歯学総合研究科 歯科公衆衛生学分野

准教授 松山 祐輔

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