腸の再生を支える復活幹細胞の新たなロジック

2026年2月9日 公開

多様な細胞由来性とストレス耐性による幹細胞プール維持機構

ポイント

  • 復活幹細胞と普通幹細胞が相互に移行しながら、腸の再生と幹細胞プールを維持するという新しい再生のロジックを明らかにしました。
  • 腸オルガノイドやマウス腸炎モデルなどを用い、復活幹細胞の起源、多様な細胞からの誘導、普通幹細胞との相互移行と高いストレス耐性を示しました。
  • 本成果は、腸の再生機構の理解を深めるとともに、炎症性腸疾患や大腸がんなど難治疾患の病態理解に貢献することが期待されます。

概要

東京科学大学(Science Tokyo)国際医工共創研究院 再生医療研究センターの油井史郎准教授は、同大学 大学院医歯学総合研究科 消化器病態学の桐野桜大学院生(指導教員:同分野の岡本隆一教授)と共に、腸上皮の再生過程において一過性に出現する復活幹細胞(revival stem cells)[用語1]の起源と、その出現意義に関する総括的な研究を行いました。

本研究では、復活幹細胞が恒常状態の腸組織を支える普通幹細胞[用語2]と並行して存在する独立した細胞状態であること、そして腸の再生が、普通幹細胞が一時的に再生に特化した状態(再生フェーズ)へと転換することによって進行することを明らかにしました。また、恒常状態では増殖をしないはずの普通幹細胞由来の吸収上皮細胞が、傷害時に復活幹細胞へと状態転換し、最終的に再び普通幹細胞へと戻ることで、腸上皮の再生が成立することを示しました。

さらに、この再生フェーズへの移行には、細胞の足場となる細胞外基質が重要な役割を果たすこと、ならびに復活幹細胞が普通幹細胞に比べて高いストレス耐性を有し、幹細胞性を維持したまま傷害環境を乗り越えることができる細胞状態であることも明らかにしました。

本研究成果は、組織が再生するという私たちが日常的に経験している生命現象が、細胞の柔軟な状態転換によって支えられていることを示すものです。再生という現象は生命現象の根幹であり、生命体としての私たち一人ひとりにとって極めて重要です。こうした再生機構を理解することは、「治りにくい潰瘍」とも称される炎症性腸疾患や大腸がんの病態理解においても不可欠であり、近年、世界的に研究が進められています。本研究成果は、腸上皮再生を理解するための新たな概念的枠組みを提示するものとして、今後の発展が期待されます。

本研究は、オランダ・ヒュブレヒト研究所のハンス・クレバース教授、本学肝胆膵外科学分野の伴大輔教授、本学総合研究院の三宅健介テニュアトラック准教授、順天堂大学オルガノイドセンターの渡辺守センター長からの支援のもとで行われました。

本成果は、1月13日付で「Communications Biology 」誌に掲載されました。

図1. 腸の普通幹細胞と復活幹細胞の可逆的な関係。
普通幹細胞から分化した吸収上皮細胞は、傷害時に復活幹細胞へと状態転換し、最終的に普通幹細胞へと戻る。復活幹細胞は高いストレス耐性を有する。

背景

近年、腸の傷害に際して、一過性に胎児期の細胞に類似した性質を有する上皮細胞が出現する現象が発見され[参考文献1]、「Fetal Reversion」と呼ばれるようになりました。Fetal reversion 現象では、修復期を担う特殊な幹細胞が生じ、この幹細胞は revival stem cells と呼ばれています[参考文献2]

復活幹細胞の特徴については、ある程度理解が進んできましたが [参考文献3]、恒常状態の腸で活動する通常の幹細胞である普通幹細胞や、恒常状態において普通幹細胞から分化した分化細胞と復活幹細胞との関係、さらには二つの幹細胞が異なるフェーズで必要とされる生物学的意義など、復活幹細胞の詳細については十分に理解されていません。

本テーマは、組織が再生するという私たち生命にとって極めて重要な現象を、より深く理解するために重要です。同時に、この再生過程が障害される下部消化器領域の病態である炎症性腸疾患や大腸がんといった難治性疾患の病態理解においても、不可欠であると考えられています。

研究成果

本研究では、上記の背景に基づき、科学的に妥当と考えられる複数の手法(オルガノイド[用語3]細胞系譜追跡[用語4]実験的小腸炎モデル[用語5]移植実験[用語6])を用いて、腸の再生過程を解析しました。その結果、復活幹細胞について、(1)普通幹細胞と相互に変換し合う関係にあること、(2)普通幹細胞から分化した吸収上皮細胞にも復活幹細胞へと変化する能力があり、(1)の相互移行の機構を通じて、最終的には普通幹細胞化すること、(3)普通幹細胞と比較して、復活幹細胞は高いストレス耐性を有することを、包括的に明らかにしました。

さらに、復活幹細胞への状態転換は、細胞が置かれた微小環境に依存して誘導されることが示され、特に細胞の足場となる細胞外基質が、この再生過程において重要な役割を果たすことを明らかにしました。

社会的インパクト

本課題は、上皮組織が再生する際のプロセスを詳細に明らかにすることを通じて、私たち個体が再生するという現象を、より深く理解するための考え方の一端を示すものです。これは、私たちに備わっている自己治癒能力を理解する上で重要となる、生命科学における成果の一つと考えられます。

医学的には、下部消化管領域の疾患の中でも、「治りにくい潰瘍」とされる炎症性腸疾患や大腸がんといった難治性疾患の病態を理解し、それぞれの病態に即した治療法のさらなる改善を目指す上で、大きな意義を有する成果であると考えています。

再生現象を理解する生命科学の進歩は、確実に私たちの Well-being の向上につながるものと期待されます。

今後の展開

腸には吸収上皮以外にも、普通幹細胞から分化するさまざまな細胞が存在します。吸収上皮細胞以外の細胞が傷害時に復活幹細胞化するかどうかについては、今後の重要な課題です。

また、細胞の活動は遺伝子発現や、それに伴うタンパク質の活性の変化によって制御されています。これらの遺伝子発現制御機構をより詳細に解明することが必要であり、特にエピゲノム[用語7]は、細胞における遺伝子調節の観点から重要な要素です。現在、復活幹細胞が複数の転写因子[用語8]の働きによって誘導されることは明らかになっていますが、それに伴ってエピゲノムがどのように変化するのかについては、十分に理解されていません。

今後は、エピゲノムレベルで Fetal Reversion 現象を理解していくことも重要であると考えています。

付記

本研究は、以下の支援を受けて実施されました。

  • JST創発的研究支援事業(天谷パネル)(JPMJFR2012、採択者:油井)
  • 科学研究費助成事業基盤B(代表)(23H02887、採択者:油井)
  • 科学研究費助成事業基盤A(分担)(22H00472、採択者:油井)
  • 土田直樹研究助成基金(採択者:油井)
  • JST 次世代研究者挑戦的研究プログラム(JPMJSP2120, JPMJSP2180、採択者:桐野)

参考文献

[参考文献1]
Yui S, Stefano Piccolo, Jensen KB et al:Cell Stem Cell, 2018
[参考文献2]
Ayyaz A, Gregorieff A et al:Nature, 2019
[参考文献3]
Kobayashi S, Yui S et al:Inflammation and Regeneration, 2022

用語説明

[用語1]
復活幹細胞(Revival Stem Cells):腸上皮が傷ついた時に、一過性に胎児期の腸にある上皮細胞に類似した細胞が出現することが報告されている。この細胞を復活幹細胞(Revival Stem Cells)と呼ぶ。
[用語2]
普通幹細胞:正常な腸はクリプトと呼ばれる窪んだ形をしているが、その窪みの底に、腸の上皮細胞を作ることのできる細胞があり、これを普通幹細胞と呼ぶ。復活幹細胞とは大きく異なる細胞である。
[用語3]
オルガノイド:腸の上皮に含まれる幹細胞を体の外に取り出して、特定に細胞外基質の中に埋め込んで培養することで作られる細胞の集まり。普通の方法で培養を行うと正常な腸の上皮を模倣した性質を示すが、コラーゲンの中で培養を行うと復活幹細胞に誘導されることを本研究グループが示した。
[用語4]
細胞系譜追跡:特異的な遺伝子が発現する特定の細胞が、色を付けることで、体の中でどのように分布するかを明らかにする細胞の追跡方法。普通幹細胞や、普通幹細胞から分化した吸収上皮細胞は、前者はLgr5という遺伝子、後者はALPi(腸型アルカリフォスファターゼ)という遺伝子を特異的に発現するため、この手法で追跡が可能である。
[用語5]
実験的小腸炎モデル:今回使用した実験的小腸炎モデルは、5-FU という細胞傷害性の高い薬剤をマウスの腹腔内に投与することで、腸の上皮を傷つけ、小腸に炎症を起こす方法。
[用語6]
オルガノイド移植実験:体の外で培養される腸上皮の組織であるオルガノイドを、他個体の大腸に移植する手法。この方法は本研究グループが開発し、2012年に報告した。
[用語7]
エピゲノム:細胞は遺伝子を持っているが、これは DNA と呼ばれる部分のごく一部であり、周囲にその遺伝子の発現をコントロールする仕組みがあり、その総称がエピゲノムである。
[用語8]
転写因子:細胞内で核に移動してDNAに結合し、特定の遺伝子の発現をコントロールするタンパク質。復活幹細胞においては、YAP や AP-1 などの転写因子の活動が高いことが分かっている[参考文献3]

論文情報

掲載誌:
Communications Biology
タイトル:
Fetal reversion from diverse lineages sustains the intestinal stem cell pool and confers stress resilience
著者:
Sakura Kirino, Fumiya Uefune, Kensuke Miyake, Nobuhiko Ogasawara, Sakurako Kobayashi, Satoshi Watanabe, Yui Hiraguri, Go Ito, Keiichi Akahoshi, Daisuke Ban, Johan H. van Es, Hans Clevers, Mamoru Watanabe, Ryuichi Okamoto, Shiro Yui

研究者プロフィール

油井 史郎 Shiro Yui

東京科学大学 国際医工共創研究院 再生医療研究センター 准教授
研究分野:消化器再生学、幹細胞生物学、オルガノイド培養関連技術

桐野 桜 Sakura Kirino

東京科学大学 大学院医歯学総合研究科 消化器病態学分野 大学院生
(2022年度 クリニシャン・サイエンティスト養成支援制度採択)
研究分野:消化器再生学、幹細胞生物学

関連リンク

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東京科学大学 国際医工共創研究院 再生医療研究センター
准教授 油井 史郎

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東京科学大学 総務企画部 広報課